部活が終わった瞬間、速攻で荷物をまとめて屋上へと駆けてゆく。もちろん、愛用のフルートを手にして。
だんだん日が短くなってきたので、とっくに日没を迎えていた。それでも千賀先輩は、わたしを待っていてくれた。
「千賀先輩、よろしくお願いしますっ!」
頬が熱くなるのを感じながら、千賀先輩のほうへ駆け寄った。足が自然と軽くなって、リズムを刻むみたいにステップを踏んでしまう。忠犬みたいって思われているかもしれないけど、そんなことはどうでもよくて、ただただ先輩に会えたことが嬉しかった。
「千賀先輩、今日は超重要なお知らせがあるんですよ~!」
そう言いながら、わたしは鞄の中を探って、一枚のプリントを取り出した。音楽部で作った、学園祭のポスター。
「じゃーん! わたし、学園祭で演奏するんです。なんかもうドキドキですよー!」
その時を待ちきれない気持ちで、足が勝手にじたばた動いてしまう。
「へー、そうなんだ。嬉しそうじゃん、あがり症のはるかはどこへ行ったのかな」
千賀先輩がからかうように言う。ちょっとむっとしたけれど、すぐに口元が緩んだ。
「えっ、だって千賀先輩に教えてもらった音楽を、みんなにお披露目できるんですよ。最高のチャンスじゃないですか!」
「おいおい、いつの間にそんなにポジティブ思考になったんだよ。自分の演奏を聴いてもらいたいっていう感覚はプロ意識にも通じるんだ」
「へへぇ、めちゃんこアマチュアですけどね。でも、学園祭の舞台はコンクールの予行演習を兼ねているんです。今年は学園祭が早めだから、地方大会の前にリハーサルとして演奏することになったんですよ」
そう言いながら、わたしはいたずらっぽく笑った。本当は、もっと大きな作戦を企てている。
「演奏するのはイベントの最後で、夕方なんです。それでですね、わたし思い切ったことを考えたんです。もう少し演奏が上手くなれば、わたしがみんなに、わたしの描くメロディを見せてあげられるんじゃないかなって」
フルートのケースを開けると、銀色のフルートが月明りを受けて淡く光っていた。
「千賀先輩、わたしの音楽は世界を描けるって言ってくださいましたよね。だから、わたしが千賀先輩のメロディを、みんなに聞こえるようにできるかもしれないって思っているんです」
あふれる期待感で目がきらきらしているのが、自分でもわかった。千賀先輩がにやりと笑ってくれたのが、すごく嬉しい。
「それはすごいな。君だったらできるかもしれないよ」
「あっ、やっぱり千賀先輩もそう思います? そしたら、わたしがメロディを奏でた時、千賀先輩もステージに現れてもらえますか? 千賀先輩と高円寺先輩で、一緒にハーモニーを奏でることができるんじゃないかって思ったんです」
わたしの言葉に、千賀先輩はこぶしで手のひらをぽんと叩いて、「なるほど、それはいい考えだ。涼太の願いを叶えてやれるかもしれないな」と、すごく納得したようにうなずいてくれた。
「今日もご指導よろしくお願いします」と一礼をしてからフルートを構える。
千賀先輩がちらりとわたしの横顔を見たのに気づいた。その視線に、わたしはまっすぐ応えたつもりだった。だって、わたしの中にはもう迷いなんてなかったから。千賀先輩の音楽を信じている。わたしの音楽も、信じてほしい。
それからの日々、わたしたちのハーモニーは、屋上の主役になった。たったふたりの舞台。練習の場ではあるけれど、わたしにとっては、それ以上の意味を持っていた。
千賀先輩と一緒に音を重ねるたびに、わたしの中の気持ちが少しずつ変わっていった。恋心って、こんなふうに育っていくんだって、初めて知った。
そのせいか、わたしの音は誰もが驚くほど上達していたらしい。でも、それは技術だけじゃなくて、気持ちが音に乗るようになったからだと思う。
フルートから解き放たれる音符は、日ごとに透明になっていった。繊細さも、情緒も、少しずつ音に染み込んで、夕暮れの光みたいに、眩しく輝くようになっていった。
だんだん日が短くなってきたので、とっくに日没を迎えていた。それでも千賀先輩は、わたしを待っていてくれた。
「千賀先輩、よろしくお願いしますっ!」
頬が熱くなるのを感じながら、千賀先輩のほうへ駆け寄った。足が自然と軽くなって、リズムを刻むみたいにステップを踏んでしまう。忠犬みたいって思われているかもしれないけど、そんなことはどうでもよくて、ただただ先輩に会えたことが嬉しかった。
「千賀先輩、今日は超重要なお知らせがあるんですよ~!」
そう言いながら、わたしは鞄の中を探って、一枚のプリントを取り出した。音楽部で作った、学園祭のポスター。
「じゃーん! わたし、学園祭で演奏するんです。なんかもうドキドキですよー!」
その時を待ちきれない気持ちで、足が勝手にじたばた動いてしまう。
「へー、そうなんだ。嬉しそうじゃん、あがり症のはるかはどこへ行ったのかな」
千賀先輩がからかうように言う。ちょっとむっとしたけれど、すぐに口元が緩んだ。
「えっ、だって千賀先輩に教えてもらった音楽を、みんなにお披露目できるんですよ。最高のチャンスじゃないですか!」
「おいおい、いつの間にそんなにポジティブ思考になったんだよ。自分の演奏を聴いてもらいたいっていう感覚はプロ意識にも通じるんだ」
「へへぇ、めちゃんこアマチュアですけどね。でも、学園祭の舞台はコンクールの予行演習を兼ねているんです。今年は学園祭が早めだから、地方大会の前にリハーサルとして演奏することになったんですよ」
そう言いながら、わたしはいたずらっぽく笑った。本当は、もっと大きな作戦を企てている。
「演奏するのはイベントの最後で、夕方なんです。それでですね、わたし思い切ったことを考えたんです。もう少し演奏が上手くなれば、わたしがみんなに、わたしの描くメロディを見せてあげられるんじゃないかなって」
フルートのケースを開けると、銀色のフルートが月明りを受けて淡く光っていた。
「千賀先輩、わたしの音楽は世界を描けるって言ってくださいましたよね。だから、わたしが千賀先輩のメロディを、みんなに聞こえるようにできるかもしれないって思っているんです」
あふれる期待感で目がきらきらしているのが、自分でもわかった。千賀先輩がにやりと笑ってくれたのが、すごく嬉しい。
「それはすごいな。君だったらできるかもしれないよ」
「あっ、やっぱり千賀先輩もそう思います? そしたら、わたしがメロディを奏でた時、千賀先輩もステージに現れてもらえますか? 千賀先輩と高円寺先輩で、一緒にハーモニーを奏でることができるんじゃないかって思ったんです」
わたしの言葉に、千賀先輩はこぶしで手のひらをぽんと叩いて、「なるほど、それはいい考えだ。涼太の願いを叶えてやれるかもしれないな」と、すごく納得したようにうなずいてくれた。
「今日もご指導よろしくお願いします」と一礼をしてからフルートを構える。
千賀先輩がちらりとわたしの横顔を見たのに気づいた。その視線に、わたしはまっすぐ応えたつもりだった。だって、わたしの中にはもう迷いなんてなかったから。千賀先輩の音楽を信じている。わたしの音楽も、信じてほしい。
それからの日々、わたしたちのハーモニーは、屋上の主役になった。たったふたりの舞台。練習の場ではあるけれど、わたしにとっては、それ以上の意味を持っていた。
千賀先輩と一緒に音を重ねるたびに、わたしの中の気持ちが少しずつ変わっていった。恋心って、こんなふうに育っていくんだって、初めて知った。
そのせいか、わたしの音は誰もが驚くほど上達していたらしい。でも、それは技術だけじゃなくて、気持ちが音に乗るようになったからだと思う。
フルートから解き放たれる音符は、日ごとに透明になっていった。繊細さも、情緒も、少しずつ音に染み込んで、夕暮れの光みたいに、眩しく輝くようになっていった。



