同じ部活のイケメンが片想い切符を大切にしてた

2025/6/7(土)

結局、あの後から俺と結城の溝は埋まることは無かった。
あの女の人とどうなったのか、付き合ったのか断ったのか。
それすらも分からない。
もちろん、五十嵐達に聞けばすぐ分かるだろう。

俺は、
聞かないようにしていた。

付き合ったと聞けば、何かが壊れる気がしたから。

気付けば来週引退がかかった試合だ。
一時期は結城と組んでいた対面パス練習も、これまで通り山口と組むようになっていた。

山口は不思議がっていたが、理由は話さなかった。

俺の恋はここで終わり。
きっともう。

友達にも戻れない。

ただのクラスメイト。
ただの部活仲間だ。

それで十分だ。夢を見せてもらっただけ、ありがたいと思う。

とりあえず今は、目の前の試合に集中する事にした。

___

2025/6/14(土)

ついに、大会の日が来た。

有難いことに、スタメンとして出場させて貰う。

今でも無意識に結城のことを目で追ってしまうが、あっちは俺の事なんて目に入っていないようだ。

試合が始まる

ピーーー

試合開始の合図だ。
とりあえず40分。本気で戦い抜く。

___

ピーーー

前半戦終了。
0-0

まだ結末は分からない。
俺はまだサッカーを続けていたい。

ピーー

後半戦開始。

試合は両者1歩も譲らず、PK戦へもつれ込んだ。

俺はスタミナがない分シュートで他と差をつけてきた。

監督も、キャプテン…結城もそれを分かっていた。

だから、PKを俺に任せてくれた。

俺は後攻。
先攻の相手チームは、既に成功している。

俺が外したら、チームは負ける。

ボールと、足に残っている全ての集中力を集結させる。

よしっ。

俺は大きく足を振り上げ、ゴールの右上を狙った。

ボールの軌道は悪くない。
だが、想定より右にボールがズレた。

右のゴールポストに当たり、ボールは右に大きくそれた。


外した_______

ピッピッピーーーーーーー

試合終了の合図。

俺のせいで、チームは負けた。

俺のせい、俺のせいで負けた。

俺はしばらくその場に膝をつき、動けないでいた。
みんなの方をみれない。

俺のせいでみんなの引退が決まった。

申し訳なさと不甲斐なさでいっぱいだ。

悔しい。悔しい。



誰かが優しく俺の方に手を置いた。

その瞬間、涙が栓を開けたように溢れ出してきた。

「頑張った、よく頑張ったよ」
「うっ…ごめん、ほんとにごめん、俺のせい、俺のせいだ」
「サッカーはチーム戦。誰が悪いとかない。遥斗はあのプレッシャーの中よく蹴ったよ」

そう言いながら、力強く抱きしめられた。

涙が止まらなかった。

息ができないくらい泣いた。

少し落ち着いてベンチに戻った。

みんなすごく泣き腫らした目をしていて、罪悪感がさらに増した。

「百瀬ー!!!!お前頑張ったなあ!!!」
「えっ…でも、おれが、外したっ、から、っ」

また涙が出てきた

「ここに居る人は誰もお前を責めてない。みんなのために蹴ってくれてありがとう」

「あり、がっ、とう」
「頑張ったね」

そう言って、結城は優しく頭を撫でてくれる。
それだけで、気持ちがすごく落ち着いた。

こうして、俺のサッカー生活は一旦幕を閉じた。

そこからバスで学校へ。
たまたまなのか、気を使われたのか、俺は1人で座れることになった。
監督の後ろの席。今日は監督の他に臨時コーチも一緒に来てくれていた。
できるだけ小声で話していたが、俺は1人席で静かだったため、会話が少し聞こえてしまった。
《あと一試合でも進めてたら__》
《結城の推薦も来てたかもな__》

きっと、監督たちも俺のせいで負けたと思ってない。だから俺が近くにいる状況でその話をしたのかもしれない。

そう思いたいけど、罪悪感で胸が締め付けられ、息も上手くできず、何も考えられない、とても息苦しい時間を過ごした。



学校に着いて部室の掃除。

思い出が沢山詰まったこの場所から離れなければいけない。

でもやっぱり心のどこかで、俺のせいだと思ってしまっている自分がいて。

みんなが掃除を終わらせて、ぼちぼち解散しはじめてもまだ掃除を続けていた。

少しでも罪悪感を減らすためだと思う。
自分でもなんでそんなことしてるのかよく分かっていないけど。

「遥斗?もうみんな帰ったよ。まだやってんの?」
「あ、うん…」

試合での申し訳なさと、体育祭の時の気まずさがまだ溶けきれて無くて、素っ気のない返事をしてしまう。

「ねえ、もしかしてまだ俺のせいとか思ってる?」

図星をつかれた気がして、体が上手く動かなくなった。

「ほんとに違うからね」
「慰めるなよ、逆に辛いわ」
「ごめん、」
「謝らないで」
「うん、でも、その、次は受験があるし、今日の事はきっと時間が経てばいい思い出になるから」

いい思い出になる___?
思わず乾いた笑いがこぼれた。

分かってた。結城は、俺に深く考え込んで欲しくなくて言ってくれたって。

でも、既に罪悪感で締め付けられてた俺は、その結城の一言で、全てが溢れ出した。

「いい思い出になる…?」
「遥斗?」
「何がいい思い出になるって?俺は、PKを外した。そのせいで、みんなの引退が決まった。みんな俺のせいじゃないって言ってくれるけど、俺があそこで入れてればみんなまだこのメンバーでサッカーを続けられたんだよ」
「落ち着い「うるさい!!!」」
「お前だってどうせそう思ってんだろ、もっと上まで勝ち上がれれば、もっと色んなところからスカウトが来てたかもしれないって。勝ち進めれなかったから、大学の推薦が減ったって」
「誰がそんなこと」
「監督とコーチだよ。試合が始まるまでは、監督は結城に推薦が来るかもって言ってたのに、俺のせいで消えた」
「遥斗っ、」

そう言いながら、結城は俺を落ち着かせようと抱き締めようとしてくれる

「やめろ!!」

俺はそれを拒否して、結城を押し返した。

「それだけじゃない。あれだけ俺に本気だとか言ってたくせに、女の子の告白受け入れてたろ。スマホカバーに入れてる切符も、誰との思い出?何のために入れてるの?なんでそんなに大切に持ってるの?」
「ちょっと待って、ちょっと、落ち着いて。これの事?」

そう言って結城は、スマホの裏から切符を取り出す。
今日は遠征だったので、特別にスマホが許可されていた。

「それっ、俺あの時凄い悔しかった。なんのやつか聞いても答えてくれないし」

改めてその切符を見ると、あの時感じた破り捨てたいという感情が、ふつふつと湧き上がって抑えられなくなった

気づいたら俺は結城の手から切符を奪い取りふたつに破り割いていた。
それを床に捨て、少し我に返る

俺今なんてことをしてしまったんだろう。
すごく大事なものだったかもしれないのに。

自分への嫌悪感で、また涙が溢れて止まらなくなった

恐る恐る結城の方を見ると、何故か特にショックを受けているような様子もなく、近づいてきて
これまでとは比にならない力で抱きしめられた。

「はあっ、はあっ、ごめん、切符、ほんとにごめん、俺もなんで、ごめん、」

泣きながら喋っていた俺は、息も吸えなくなっていた。
結城はそんな俺の背中を優しく擦りながら、ゆっくり話し始めた。

「まず、今日の試合のこと。気持ちも考えずいい思い出とか言ってごめん。でも、本当に誰もお前のことを責めてないんだよ。部活が終わったからって、俺らの仲が終わる訳じゃないし」
「ふうっ、ふぅ」

少しづつ呼吸がしやすくなってきた。

「あと、体育祭の時の事ね。あれ俺受け入れてないよ。」
「えっ、でも手紙」

あの時結城は、確かに手紙を受け取っていた。
だから俺は、それ以上見たくなくて、帰ったんだ。

「それで言うと俺も言わせてもらうけど、遥斗もあの告白受け入れてたよね」
「受け入れてないよ…」
「え?」
「えっ」

結城は驚いた様子で、俺の方に両手を置いて、顔を覗き込んできた。
正直今顔ぐちゃぐちゃだし、見ないでほしい。

「受け入れてないの…?」
「手紙だけ受け取ってくれって言われて」
「…なんだよ、意味なかったじゃん…」
「なにが?」
「ちなみに俺あの時、実は、保留したんだ。」
「どうして、?受け入れなかったの」
「俺あの時、遥斗が、手紙を女の子から受け取ったのを見て、OKしたんだって勘違いして。勝手に嫉妬して、わざと見せつけてやろうと思って」

こいつはなんて男なんだ。
でも、実際に激しく嫉妬心を抱いたし、作戦としては成功してるのが腹立つ。

「体育祭、最初俺後から合流したでしょ?」

多分、二人三脚の観戦のことを言っているんだろう。
たしかにあの時遅れてきたし、理由を聞いてもはぐらかされた。

「実はあの時、終わったあと話あるから体育館来てって言われてて、終わってから30分待っても来なかったら諦めますって言われてたんだよ。」
「うん…」
「だから本当は行く気無かったんだけど、手紙もらってるの見て、慌てて行ったんだよ」

クソだせえだろと結城は笑う。
確かにめちゃくちゃダサい。
でも、そんなダサいことをしてまで俺のことを手に入れようとしてくれてたのかと思うと、心の奥がむずむずした。

「え、じゃあ…言ってくれれば…」
「遥斗が帰ったんでしょ?」
「あっ…」

体育祭のことは、お互いの勘違いが起こした結果だった。


___続きます