同じ部活のイケメンが片想い切符を大切にしてた

2025/4/19(土)

 俺は今、待ち合わせ場所の駅にいる。
 …緊張が収まらない。
 いやなぜ。
 なんなら昨日の夜から洋服を選びながら、これでもない、あれでもない。と、1人ファッションショーを開催し、クローゼットぐちゃぐちゃにして姉に怒られた。
 別室の姉がなぜ怒ってくるのか分からなかったけど、仕事でやな患者に当たったって言ってたからむしゃくしゃしてたんだろう。
 八つ当たりだ。

 姉への愚痴はこんぐらいにしといて、とにかく心臓がうるさい。
 服装は変じゃないだろうか。ちょっと風強かったけど髪の毛大丈夫かな。
 いやいや、デート前の女子高生かよ!!

 え、デート?デートか…

まあでも確かにデート…ではある…のか…

 ないない。男友達同士だぞ。
 
そう言い聞かせるも、なぜかウォーミングアップ躓き事件から変に意識してしまう。

いやいや、ただ助けてくれただけだから。

あれで変に意識した方がキモイから。

 1人で脳内会話を繰り広げていると、少し遠くから背の高いイケメンが歩いて来るのが見えた。

 あぁ、結城だ。
 そう認識した時、心臓の音がさらにヒートアップした。

「かっこいい…かも…」

 そう呟いた声は、駅の騒々しさに紛れて消えていった。

勘違いかもしれないが、駅にいる人達の目線も結城に集まってる気もする。

「ごめんね、待った??」
「う、ううん、全く。全然。」
「良かった」
 
そう言いながら微笑む結城の顔を直視できない。

「とりあえず、ご飯いこうか」
「そうだね」
「食べたいものある?」
「今は〜、ラーメンの気分!」
「いいね、俺この辺好きなラーメン屋さんあるからそこ行こ」
「うん!」

 結城が好きだというラーメン屋は、昔ながらというよりかは、少し今風でおしゃれなお店だった。
 俺は豚骨ラーメン、結城は塩ラーメンを頼んだ。
 ただ腹ぺこすぎたから、俺だけ餃子も追加注文。

「「いただきます」」
「うっま!!マジで美味いよ!結城」
「そうでしょ、俺めちゃくちゃ好きなの、ここ」

 好きという言葉に反応してしまう。
 なぜだ。

 分かった。
 私服の結城初めてな気がする。
 というか、2人だけで遊びに行くのも初めてだと思う
 だからか。
 新鮮なだけだ。変に意識すんな。俺。

「ねぇ、ダメ元で聞くんだけど、餃子1個…」
「え、いいよ、はい。」

 ちょうど口へ運ぼうと箸でつまんでいた餃子をそのまま結城の口元へ運んだ。

「えっ…」
「まって、ごめん、無意識」
「いや、全然いい…けど」
「ここからとって、ごめんね」
「ありがと」

 と言って、箸で持ってた慌てて餃子を口に詰め込んだ。
 何してんだ。
 え、アーンしようとした?無意識で?
 俺怖すぎるだろ。
 少女漫画の無意識天然ヒロインかよ。
 だめだ。調子狂う。

「「ご馳走様でした」」
「俺ここ払うよ。借り物競走のお礼」
「いやいいよ、俺と二人で遊んでくれただけで、その借りは返して貰えたから」
「え、いやでも。」
「いいから、もう貸し借りはなし。自分の分は自分で払うよ、気にしないで」
「うん、ありがとう…」

 スマートだ。
 これはモテる。勝ち目ないよ
 いや、違う、比べたらダメ!俺は俺の良さ!

 俺の良さってなんだ!!!!
 あぁ!!だめだ、本当に調子が狂う。

「映画行こっか」
「うん、席取っといたよ」
「ほんとに??遥斗、気が利くね、ありがとう」

 眩しい。笑顔が眩しすぎる。
 
褒めて貰えた。それだけだけど、何故か無性に嬉しかった。

 そのまま映画館に向かった。お昼ご飯を食べたばかりだった俺たちは、ドリンクだけ買って席に着く。

ここまで来る道のりでも、道行く人の視線は全部結城に集中。そりゃそうだ。高身長イケメン。
 隣に立つの気が引ける。
 
 めちゃくちゃ恋愛映画だし、
 結城はこういうの興味ないだろうし、申し訳ないな…

 __

 映画もクライマックスに近付いた時、1番の感動シーンに差し掛かった。

やばい、泣きそう…


ん?
隣から鼻をすする音が聞こえる



 泣いてる!!!めちゃくちゃ泣いてる!!!

 可愛い…

 ん、?可愛い…
 ちょっと待った。
 可愛いって、あの可愛い?愛くるしいみたいな、抱きしめたいみたいな、そういう感情?

 人に、しかも同級生の男友達にそんな感情抱いたのは初めてだった。

 ウォーミングアップ躓き事件から、ここ最近、俺は結城に心を揺さぶられっぱなしな気がする。

 というか、結城の俺に対する接し方がちょっと変わった…??

 気のせいかもしれないけど。

 いかん、映画が終わる。集中、集中。


 __

 結果、映画が終わる頃には2人とも号泣

「めちゃくちゃ良かった…」
「凄い意外なんだけど、結城って泣くんだね」
「ねぇ、遥斗は俺の事なんだ思ってるんだよ」
「えへへ、まあでも可愛かった」
「確かに、あの女優さん可愛かったね」
「あ…うん、そうだよね」

危ない。ミスった。

俺が言ったのは女優さんじゃない。


大号泣してた結城の事だった。バレなくてよかった

バレなくてよかったけど、女優さんを褒める結城の言葉を聞いてなんかちょっとむしゃくしゃした。


次は洋服を買いに少しだけ電車で遠出することになった。

「うわ!電車乗るの久々だ」
「そうだね、いつもチャリだもんね」
「そうなんだよ〜、あ、結城はICあるよね。俺ないから、切符買ってくる」
「着いてくよ」
「ありがとう」

 一人で買えるけどな、とか思いつつ着いてきてもらうことにした。

 それと、
 俺は切符を買った時に絶対にする事がある。

 それは、

 【片想い切符】【両想い切符】

 を見分けることだ。

 昔、姉に教えてもらったちょっとしたおまじないみたいなものらしい。
 色々見方はあるらしいけど、俺が教えてもらったのは、

 切符に印字されてる4桁の数字を見るもの。

 まず、4桁の端の数字が、一致してないと意味がない。その時点でそれはもう【片思い切符】となる。例えば、「1234」は、端の数字が1と4だから、それは片思い切符。「1231」だったら、1と1が一致してるから、【両思い切符】。そして、真ん中2桁の数字が重要になってくる。

 何故かというと、


 その数字が片思い相手と両思いになれる確率と言われているからだ。

 
 俺はこれまで、1度も出したことがない。
 まあ、電車にのる回数が少ないから、仕方がないといえば仕方がないけど。

 いちばん惜しかったのは、1、2年前に出した「4983」だったかな。どういう数字かは分かんないけど。
 完全ランダムなのか、買った順番なのか。

 後者だったらすごく惜しいことしたな〜って今でも覚えてる。

「ねぇ、結城。両想い切符って知ってる?」
「知ってるよ」
「なんだ、知ってるのか」
「いや、遥斗が教えてくれたじゃん」
「……?」

え、俺??
 一緒に電車乗ったことあったんだろうか。
正直覚えていない。

今日結城の私服もすごく新鮮な感じがしたし。

プライベートで遊んだことあったかな…

「……ごめん、あまり覚えてなくて。その時も2人?」

やってしまった。
覚えられてない。それは俺も嫌だ。
分かってたはずなのに。

この言葉を聞いた結城は、
 少し悲しそうな顔をしたように見えた。

 そりゃそうだよ。申し訳ない。

 覚えてる振りをすれば良かった。

 少しでも相手に気を許すと、気を使えなくなってしまう。俺の悪い癖だ。

「いや、確か五十嵐がいたかな。山口は足痛めてて、渡辺はその時彼女がいて、クリスマスシーズンだったから気使って誘わなかった気がする。」
「あっ、それで後日ぶーぶー文句言われたんだっけ」
「そうそう、誘えよ!!って」
「思い出した」

 じゃあ、俺結城の私服見るのも初めてじゃないじゃん。
 最低だな。
 自分に幻滅する。

いつもは、ここまで落ち込まないのに…
何故か今回は、死ぬほど落ち込んでしまっている自分がいる。

何故か分からない、分からないけど、結城を傷つけてしまった事への罪悪感が、押し寄せてくる。


泣きそう。
違う。

傷ついたのは結城だ。

泣くべきは結城。

俺は泣くべきじゃない。我慢。

「遥斗…?」
「あ、ごめん。電車きちゃうね、行こいこ」
「まって」

 返事を聞く前に歩き出した俺の手首を結城が掴んだ

「どうしたの?」
「いや、ごめん。申し訳なくて。そんなに細かく覚えててくれたのに、俺何も覚えてなくて、結城とのお出かけだって浮かれて、そんな楽しかった思い出忘れてる自分に幻滅して」

 やばい、
 泣きそう。
 このままじゃ泣く。


 必死に涙をこらえていると、優しく頭を撫でられた

「いいんだよ。今日の思い出で上書きしな」







 
「でも、その代わり一生忘れないで」
「…重いってば、最近結城時々重たいよ」

 そういって、笑って誤魔化そうとした。

「だから、俺は本気だって言ったでしょ」
「それって、どういう」「とりあえず、涙収めて、洋服見に行こ。な?」

「うん。」

 心臓がうるさい。
 

なんでこんなに心臓がうるさいのかは分からないけど。

結城に対して友達とはまた別の感情が芽生え始めている気がした。

 __

 そこから、電車で移動して、結城にコーデ組んでもらって、これにあう、あれ似合う。と着せ替え人形になった気分だった。

 ただ流石のセンスで、結局結城におすすめされた服を3着も買ってしまった。
「これ買う」
「ね、似合うって言ったでしょ」
「さすがだね」

どんどん結城が誇らしげな顔になっていって、素直に可愛かった。

 いつかまた結城と遊びに行く時はこの服を着ていこうと心に決めた。

「もうそろそろ帰ろうか」
「…そうだね」

 少し名残惜しかったが、明日結城は五十嵐との予定を立ててるみたいだったから、大人しく少し早め解散にした。

「なに、名残惜しい?寂しいの?」
「はっ、はあ??!いや、別にまた明後日学校で会うし」
「そうだね、」

 と言って悪戯げに笑う結城。
 ちなみにあの切符の1件から、全く結城の顔見れていない。

「じゃあ、俺は寂しいけど、ここでバイバイだね」
「うん」

 俺も少し寂しいけど、強がってしまったばっかりに素直になれない。

「じゃあね」

 と、踵を返し帰ろうとすると、

結城に手首を捕まれ、引き寄せられた。

 そのまま少しの間、抱きしめられた。

駅にいる人達の視線は気になるが、なぜか暫くこのままでいいかも。とか思ってしまった。


「結城…??」
「また学校で」

 そういって、歩き出した結城の背中を見ながら、何故か心に残ってる名残惜しさを全身で感じていた

「何だったんだ…」

 俺は、結城から2度目のハグをされた。
あのウォーミングアップ躓き事件は、ハグと言っていいのか分からないけど。

 ハグとデートの興奮冷めぬまま、家に帰り全て荷物を投げ出した。

 状況を整理しようとしたけど、思い出せば思い出すほど逆効果で、枕に顔を埋め「あーーーー!!!!」と叫んだら、うるさかったようで、
 隣の部屋から姉が飛んできて、「うるさい!!!!!」と怒られた
 きっとまた変な患者に当たった八つ当たりだろう。

 そんなことを気にする余裕はなく、俺は体に残る結城の体温の余韻に浸りながら、残りのオフを過ごした。

 次の登校日、結城の顔を見れなかったのは言うまでもないだろう。

 でも、この原因となった彼は、いつも通りで、慣れてるんだなと悲しくなったのは、ここだけの話にしておいてください。