同じ部活のイケメンが片想い切符を大切にしてた

【登場人物】
高校3年生
百瀬 遥斗(ももせ はると)・サッカー部
結城 碧(ゆうき あお)・サッカー部

渡辺…わたなべ
山口…やまぐち
五十嵐…いがらし
→サッカー部

_________________
2025/4/7(月)

『はい、みなさん席着いて〜』

席を立って話している人、本を読んでいる人。高校三年生にもなると、クラス替えがあっても仲良い人が少なくとも1人、2人いるものだ。

先生の一言で、みんな続々と席に着く。
クラス替えしてすぐ。席はもちろん出席番号順。

幸か不幸か、俺の近くはサッカー部の奴らで固まった。

一列5人だが、クラスの人数が34人のため、1番最後の列は4人しかいない。
俺は1番前。ついてない。

「おい、百ちゃん。お前1番前かよ、うらやましぃ〜!」

「山口…お前…代わりましょうか?」

「いや申し訳ねえし、いいや!」

早速後ろの席の山口が絡んできた。
本当にムカつく。どうしよう。

「しかも、しばらく席替えないらしいよ」

彼は、結城。山口の後ろの席だ。

「俺は、神席だからさ、むしろありが『渡辺くん、静かに』 なあんで俺だけ!!!」

1番後ろの席の渡辺。イケメンなのだが、なぜかすごく声が大きく、先生に目をつけられてる。

『今日から新学年が始まります。今年は皆さん受験生です。部活で大会が控えている人もいると思います。大変な年になるとは思いますが、協力して乗り越えましょう』

俺らも6月に大会が控えている。引退がかかってる大事な試合だ。

『とりあえず、これ進路希望調査表です。新学期早々申し訳ないけど、みんなこれ書いてね』

前から回して〜という声かけとともに、山口に渡す。
進路か…周りはどうかわからないけど、正直サッカーに一生懸命すぎて、考えてなかった。あいつらはちゃんと考えていたのだろうか。

「うっわ〜!!俺何も考えたことな『うるさいです』すみません!!!」

渡辺は仲間っぽい。

他のサッカー部の様子を伺うため、後ろを振り返る。
真剣に何かを書き込んでいる結城。
そうだよな。頭がよくて、部活もキャプテンで。部活推薦でも進学できる実力がある。
しかもトドメに高身長イケメン。
どれか一個譲ってくれても…

というか、俺の周りやけにイケメンが多い。
俺も中学校までは、イケメンだとそれなりにモテてきたのに、今ではその面影もない。

『この進路希望は3日後、10日の水曜日までに提出とします。進学希望者は11.12日で軽く面談するので、放課後少し時間もらいます。HRはここまでとしますので、次からの授業しっかり取り組むように。』

そう言って、担任は教室から出て行った。

「おいおいおいおいちょっと待てよ、席替えしばらくないって本当に?」

そう言いながら近付いてきたのは、同じくサッカー部の五十嵐。
苗字的にどうしても近くになれない可哀想なやつ。

「いがちゃん、お前1人だけ席離れてんの、うらやましぃ〜!」
「お前マジでぶちのめすぞ、代わってやろうか」
「申し訳ねえからいい!!」
「お前それ誰にでもやってんだな」
「おい百ちゃん、それ恥ずかしいからやめろ」

いつも通りの会話をしながらも、みんなが進路についてどう考えているのか気になって仕方がない。

「みんなは、進路どうするの?」
そう切り出したのは、結城だった。
「ん〜どうすっかな〜。俺マジで何も考えてねえんだよ、なんか怒られたし」
「俺は入れそうな私立大学かな〜」
「俺は専門!理学療法士になってみせる」
「あ〜、いいじゃん。山口向いてそう」
「そういう遥斗はどうするの?」
「俺もまだ決めてないんだよね」

結城はなぜか俺のことを名前で呼ぶ。
一年生の頃からだから慣れたけど、最初はだいぶむず痒かった。

「結城は?」
「俺は早凌大」
「えっ!!!!名門大じゃん!!!」
「お前うるさい。だから怒られんだよ」
「でも正直今のままだとちょっと厳しいから、こっから頑張らないと」
「へえ〜、すげえな」

「てかてか、理学療法士?ってどんな仕事なの??」
頑張って音量を調節してるであろう渡辺が山口に聞く。
「え、なんか、リハビリする人?」
「なんか、えらくざっくりとしてるな、本当になりたい?」
「結城くん、君は毒舌にも程がありすぎるな。いや、ちゃんと説明したいんだけど、ここ携帯使えねえからさ。俺だって悔しいよ!」

この学校は携帯持ち込み可だが、校内での使用は不可。
特に、部活動生は校内での使用がバレると、連帯責任やら何やらになるから、怖くて使えない。
しかも俺は自転車通学だし、部活もあるから家に忘れることもたびたび。

「てか次の授業何?」
「数学!」
「うげぇ〜、1限目からかよ…」
「もうそろ始まるな」
「バイバイ五十嵐!!!」
「だからうるせえって!バイバイ!」

キレながらも律儀に返すの偉いな

てか、そうだよなあ…
進路、全く考えてなかった。山口みたいに夢がある訳でも、結城みたいに頭がいい訳でもない。俺も五十嵐みたいに私立コースなんだろうか。ただ、この学校は進学校ではなく、毎年それなりの就職者は出てるみたいだ。そっちに進むのもありか。
悩んでいると、数学の担当教員が来た。

『日直、号令』

きりーつ、れーい。というあまりにもやる気の無さすぎる号令とともに授業が始まった。でも、あまり上手く集中できなかった。
人生を変える分岐点。
これまで何も考えてなかった俺が言うのもなんだけど、きっと適当に決めていいことじゃない。
タイムリミットは後3日。
どーすっかなあ…

___

『これで今日の授業を終わります。日直さん、号令お願ーい』
きりーつ、れーい。
これまたやる気の無さすぎる号令とともに今日一日の授業が終わってしまった。

「遥斗大丈夫??なんかずっとぼーっとしてなかった?」
「ばれた?いや、進路どうしようかなって思ってさ」

こいつは、よく見てるな。
てか俺、そんなにぼーっとしてた?
 
「あぁ〜、なるほどね」
「結城はすげえよな、未来を見据えてるって感じするし」
「そうかな?」
「そうだよ」
「…一緒に早凌いく?」
「いや無理だろ!びっくりしたわ」
「そんな笑わなくてもいいじゃん」
「俺の学力じゃ行けるのは来来世ぐらいだね」
「…ふ〜ん」

いや、そんな不満げに言われても
学力が…全く…追いついてない…

「おーーい!!何やってんだ!!!部活行くぞー!!!!」
「「はいはーい」」

アイツに呼ばれるとすぐ気付けるから、そこは有難い


PM4:20

部活動生が着替えを済ませ、続々と部活を始め出す時間。
 
「まずはアップ、2列に並んでな〜!今日はグランド3周〜」
《はーい!》

結城の指示でみんなが並び、走り出す。
進路どうすっかな〜!部活が始まってもなかなか頭から離れない

「百ちゃん、まだ悩んでんのか。」
「あぁ…本当にな。どうすりゃいいか分かんない」
「ん〜、俺はさ1年の冬頃怪我したじゃん?まあ怪我っていうかオスグッドだったから手術とかはしてないけど」
「そうだったな」
「その時に理学療法士さんにお世話になったんだよ。そこから俺のあこがれ。お前はなんかこういう経験ないの?」
「無いな、怪我してないし。する予定もないし」
「確かに。オスグットって、急に身長が伸びるとなりやすいらしい。お前チビだしな。」
「いや、一応172だから!全国平均170!」
「はいはい、ほら、置いてかれるぞ」

えっほ、えっほ。と聞き覚えのあるワードを発しながらスピードを上げて、前の集団に追いつく山口。

憧れか…俺のあこがれ…







 結城…?
 頭良くてスポーツできてイケメンで高身長。

いやいや、山口が言う憧れってこういう事じゃないだろ。

「結城せんぱーい!百瀬先輩が遅れてます!」
いつの間にか相当離れてたみたいだ。

「あっ……じゃあ、渡辺!お前このまま列引っ張れ、ペース落とすなよ〜」
「まかせろ!!」

「遥斗、大丈夫?」
「え、結城?わざわざ抜けてきたの」
「いや、まあ、うん。渡辺いるし」
「ごめんごめん、追いつこう」
「そんな考え事して怪我すんなよ」
「大丈夫、だいじょう、あっ!!!」

俺だけスピードを少しあげたせいで、後ろを向きながら走ることになり、足元にあった小さな段差につまづいた。

「ちょっ…!!!」

結城が手を掴んで引き寄せてくれたお陰で転ばずにはすんだ。
転ばずには済んだけど、俺はなぜか今結城の胸の中にいる。

「大丈夫??」
「だっ、大丈夫大丈夫。ごめん!!」

そういって、慌てて手を振り払い離れようとするが、
心なしか少し力が強く手こずる。

「え、ちょ、結城??」
 
「あ、ごめん」

我に返ったように、手を離す結城。
急に開放され、呆気にとられる。
なんだ!この!The 少女漫画展開!
 
「いや、うん、大丈夫。追いつこっか、追いつこう」
「そうだな、行くぞ。転けんなよ」
「うるせえ!!」

結城と友達になって3年目になるが、初めての出来事すぎて驚きが隠せない。
自分がこんなに考え事をしてしまうのが初めてで、もしかしたら、周りに心配をかけてしまってるかもしれない。
気をつけないと。

「そしたら、ウォーミングアップも兼ねて2人1組で対面パス〜、それが終わったら3対1でパス練ね」
《はーい》

「お〜い、山口組もう」
「おっけ〜」
「ごめん今日、遥斗は俺と組むわ」
「えっ??」

俺も初耳なんですけど。
 
「そうなの?俺は、結城と組むの?」
「うん、だからごめん山口、いっときは、渡辺と組んで」
「えぇ!あいつ声でけえからな」
「でも、対面パスとかちょっと距離あるから逆に会話しやすいかもよ」
「確かに!!おい!渡辺〜!!」

と言いながら、走っていった。すごく聞き分けの良い奴だ。

「てかなんで、今日は俺?てか、いっときって?」
「……から」
「え、なんて??」
「怪我しそうで怖いから!はい、やるよ」
「えぇ、ほんとにそう言った??」
「いいから、はい!行くぞ〜!」
「は〜い」

___

ふぅ…疲れた

「終わった〜!!」
「今日も疲れたな」
「おっ、キャプテンお疲れ様ですっ」
「そろそろ、それやめろ」
「すみません!」
「腹減った〜、帰ろ〜」
「今日もチャリ通学お疲れ様です」

五十嵐があまりにも自転車を煽っている。
でも自転車で通える範囲に住んでるってところは羨ましいって言われたことあるし!
 
「もう俺先帰るな、チャリだし」
「あぁ、確かにチャリだしな。帰れ帰れ」
「じゃあ、チャリの俺は帰ります、お疲れ様です」
「コケるなよ」
「結城は、心配しすぎ。流石に大丈夫です。お疲れ〜」
「うぃー」
「お疲れ〜」

 やばい!結局進路決まってないじゃん!!!!!
 どうしよう、どうしよう。

 もういっその事早凌にするか??


 いやいや無理だろ!!

______________
2025/4/10(水)

俺は今、真っ白な進路希望調査表を目の前に絶望を感じている。

ついに提出日。どうしよう。

「結局どうするの」

結城が、机の目の前にしゃがみこみ、完全にうつむいている俺の顔を覗き込んでくる

「終わった…」
「あぁ〜、何も書いてないね。」
「どうしよ〜…」
「だから俺と一緒に行こうって」
「そうできたらしたいけど」
「…えっ?」
「え?いや、したいけど学力がないって話」
「まあそうか」

いや認めるなよ。
そうだけど。そうなんだけど。

「夢とかないの?憧れとか。山口の理学療法士みたいな」
「それ俺もさ、考えたんだけど」
「うん?」
「浮かんだの、お前だったんだよな」
「……なんで」
「え??いや別にスポーツもできて勉強もできてイケメンだし、ちょっとした憧れって言うか」
「はっ、?」
「ごめん、忘れてくれ」
「…忘れない。死ぬまで忘れない。」
「いや、急に重いってば」

 こんなこと言われたの人生で初めてだし。
 俺も自分で言った言葉にびっくりだし。
 笑って誤魔化すしか無かった。
 
「俺本気だから。」
「おれほんきだから??」
「うん、じゃあ先生来たし。戻るわ」

 おれほんきだから???
 どういう意味で??
 顔は、冗談を言ってるように見えなかった
 だからこそ、結城が言った言葉の意味が理解できなかった

 『はい、日直さん号令〜』

 起立!礼!と、すごく気合いの入った号令とともに今日最後の授業、HRが始まった。

 『そしたら、進路希望の表集めますよ〜。後ろから順番に回してきてー』

 忘れてた……!!!
 完全に結城の言葉に気を取られてた。
 一旦空白で出しちゃうか

 全員分の進路希望調査表を回収し終えた担任が、パラパラめくりながら確認している。

 こりゃ、バレるな。たった今バレるね。
 
 『前回のHRでは、明日から面談を始めるとお伝えしましたけど、今軽く見た感じ結構進学希望者が多そうなので今日からやっちゃいます。』

 言い終える頃、1枚の紙を見た瞬間動きが止まり、こちらを一瞥。
 あぁ、あれ俺の紙だわ。

 『じゃあちょっと、百瀬くんから。別室行きますよ〜』
「…は〜い」
「えっ!!!なんで百瀬からな『はい、そしたら、皆さんには決めていただきたいことがあります』はい!なんスか!!!」

 渡辺、マジで調子いいな。

 『来月には体育祭が行われます。皆さんには、それぞれの選手决めをしてもらいたいんです。』

 ざっと、聞いた感じ種目は以下の通り
 ①リレー
 ②障害物競走
 ③借り物競争
 ④綱引き(クラス対抗)
 ⑤玉入れ
 ⑥二人三脚
 ⑦部活動対抗リレー

 他にも種目はあったけど、女子限定だったり、学年限定だったり。俺らが出れるのはこれくらい。

 俺は1年生の頃からずっと借り物競争に出たいんだけど1度も出たことがない。じゃんけんで負け続けてる。

「遥斗、ずっと借り物競争出たがってたよね?」
「えっ、なんで知ってるの」
「見てるから。じゃんけんで負け続けてるの」
「バレてたか」
「でも今から面談でしょ。俺代わりに立候補しとこうか」
「まじで!じゃんけん強い??」
「まあまあかな。」
「弱いよりいい。頼んでもいいの?」
「もちろん」
「ありがとう、頼んだ」

 そう頼んだ時、結城の顔が誇らしげになったのは気のせいだろう。
 願いを結城に任せ、俺は先生との面談に向かった。


 「失礼しま〜す…」
 『なんで呼ばれたか分かってるよね』
「はい、すみません」
『将来の夢とか、進学がいいとか就職がいいとか』
「できたら、進学がいいですけど…」
『いいんじゃない?何があなたをそんなに悩ませてるの?』
 悩みの原因…
 考えたこともなかった。俺は結城と比べて、学力がないし、スポーツも特別得意じゃないし。勝手に自分が行ける学校なんてないって思ってた。
 急に黙りこくった俺を先生は黙って見つめる。

「学力が、ないかな、って…」
『そう??どこを目指してるかによるけど、』
「目指してる学校がこれといってある訳では無いんですけど、結城が早凌にするって聞いて。それ聞いちゃうと、俺そんな頭良くないし、なんかだせえなって」
『う〜ん…まぁ確かに、今の学力じゃ早凌は難しいかもね。でも、こことかここなら今からでも頑張れば充分手が届くと思うよ。』
 先生から提示された大学は、確かに早凌には及ばないがどこも頭が良い大学だった。
「えっ…」
『結城君に憧れるのは凄くわかるよ。部活も同じで一緒にいる時間長いと思うし。でももう少し自分のいい所に目を向けていいと思う。この大学、検討してみて。貴方なら大丈夫。』

確かに、俺は無意識に自分と結城を比較していたのかもしれない。思い返してみれば、結城を羨ましがってばっかりだった。
これからは、自分のために少しずつ頑張ってみようと思った瞬間だった。