「もう一回言うけど、絶対嘘つかないでくれよ」
「分かった分かった」
もはや睨み合うような形で念を押す。本当はもっと柔らかい空気で伝え合いたかったんだけど、仕方ない。
アパートの駐車場。父の愛車が幸耶の後ろに見えた。
「三秒のカウントダウン形式でいこう。三」
「二」
「一……」
指を一本ずつ折り曲げる。互いに息を吸い、声を揃えた。
「「受かった」」
タイミングもテンポと見事に重なった。
時が止まったみたいに二人で硬直する。
可笑しくて、何だか笑えてくる。本当に嬉しいときって、やっぱり一度思考停止するみたいだ。
「幸耶、嘘じゃないんだな?」
「ああ。風月も?」
彼は目を見開きながら、深く頷いた。
「おめでとう、幸耶!!」
「わっ。風月……っ!」
込み上げる喜びを抑えきれない。気付いたら、嬉しくて彼に抱き着いてしまった。
「嬉しいけど落ち着け。まだ本免があるだろ」
「あ、忘れてた」
「嘘だろ?」
幸耶は俺の反応に青ざめていたが、やがてゆっくり首を横に振った。
「でも、俺達はでっかい壁を乗り越えたも同然か。……おめでとう、風月」
幸耶は俺の頭を撫で、優しく微笑んだ。
「もう行きたくない、って駄々捏ねる必要もないな」
「あぁ! やったあー!」
結局子どもみたいにバンザイしてしまい、幸耶には笑われてしまった。
……でも、本当に良かった。
幸耶が新しい世界に挑める。きっとこれからも、彼ならたくさんの道を見つけられるだろう。
教習所通いがなくなって寂しいのは変わらない。でもそんなの、彼の幸せを思えば本当にささいなものだった。
嬉しそうに笑う彼の姿が、俺の“幸せ”なんだ。
「さっそくだし、盛大に祝おうぜ。今夜は焼き肉でもしちゃう?」
「お、良いな。それじゃいっちょ食べに行くか」
お前の部屋に匂いつけるわけにはいかないからな、と言って彼は背伸びした。
そしてもう一度振り向き、俺の頭に手を乗せる。
「風月」
「うん?」
「ありがとな」
お礼を言われるようなことは何もしてないが、彼はそう呟いた。
「お前がいなかったら、卒業なんて絶対できなかった。むしろもうやめようと思ってたんだ。その為に教習所に行ったら、お前に声掛けられて……会いに行く口実ができた、と思った」
手が離れる。そのまま幸耶は自分の頬を掻いて、困ったように瞼を伏せた。
「だから、その……何だ。要は、お前に会うついでに教習所に行けてた、ってこと」
「あぁ……そうか。俺もお前がいなかったら絶対行けなかった!」
彼が感謝してることが分かり、強い語調で返した。
幸耶が家に来てくれるから、本気で教習所の前に引っ越して良かったと思ったし。夏らしいことができたのも、毎日が楽しかったのも、全部彼がいたから。
「幸耶のおかげで、今生きてるよ。試験中もずー…………っとお前のこと考えてた。だから受かったのかも!」
「お前は……なんつうか、ほんと……」
「何?」
「……何でもない。ほら、肉食いに行くぞ」
幸耶は顔を逸らし、俺に手招きした。
これが最後の晩餐かな、と思って悲しくなったけど、やっぱり喜びの方が大きい。
幸耶の幸せが俺の幸せなんだ。それだけは絶対間違いない。
その夜は彼と腹がはち切れそうなほど食べて、夜更けまで話し合って。夏祭りの思い出や、教習の失敗談を告白して、涙が出るほど笑い合った。
本当に忘れられない、最後の夜になった。


