強く、踏み込んで



その後は夜更けまで喋って、シャワーを借りて。ベッドに横になったのは午前三時過ぎだった。
「幸耶。マジで、俺は床でいいよ」
「大丈夫。自分の部屋の床で寝ることってあんまりないから、新鮮なんだ」
幸耶は床に布団を敷き、部屋の明かりを消した。
彼のベッドを占領するのが申し訳なかったけど、お言葉に甘えてベッドで寝ることにした。

幸耶の匂いだ……。
変態っぽくて自分でもドン引きだけど、幸耶の匂いに包まれてることに安堵する。
暑いのにブランケットを胸まで引き上げ、暗い天井を見上げた。

「風月」
「何?」
「何でもない」
「なんなん?」

謎の呼びかけに応え、瞼を伏せる。
実際意味はなかったんだろうけど、幸耶はまた俺の名を呼んだ。

「おやすみ、風月」
「……おやすみ」

とても短い囁き。だけどその声は、眠りに落ちるまで俺の鼓膜に残った。


教習所のことも父親のことも、彼に打ち明けるつもりはなかった。
話しても困らせるだけ。暗くなるだけだから。母親を亡くして悲しむ幸耶に話すのは酷だと思った。
俺も同じだから、気持ちが分かるよ。……なんて言う気は一切なかったし。

育った環境や、親との関係性は人それぞれで、全然違う。だから悲しみの度合いも違う。

不幸を重ね、照らし合わせる必要なんてない。

ただ俺が幸耶に伝えたいのは、独りじゃないということ。

どんな時も傍にいる。
いくらでも話を聴く。それだけ伝えたい。寂しさに押し負けた夜、彼が俺に寄り添ってくれたように。