放課後、いつもはホームルームが終わるとすぐに教室を出るけれど、今日は荷物を片付けるふりをして時間を稼ぎ、廊下の様子を伺っていた。
隣のクラスはまだ終わっていない。
一緒に帰る約束をしているわけでもないし、道は簡単だから覚えたはず。
それに結斗ならすぐ友達もできるだろう。
クラスメイトと放課後遊びに行く約束なんかするかもしれない。
俺がいなくたって、結斗は学校生活を楽しめるやつだ。
だから、待ってやることはない。
俺がいなくたってあいつは……ああ、なんかモヤモヤするな。
帰ろう。
いや。でももし一人だったら?
まだ初日だし、一緒に帰ってやった方がいいよな。
「響介」
「え?」
名前を呼ばれて顔を上げると、目の前に結斗がいた。
「何考え事してたの?」
「いや、別になにも」
お前のことを考えたなんてことは口がさけても言わない。
「待っててくれたの?」
「そういうわけじゃないけど……何もないなら一緒に帰るか?」
「うん。僕はそのつもりだったよ」
俺と違って結斗は素直だな。
すごいと思っても真似はできない。
相変わらず、周りの視線を感じながら並んで学校を出た。
来た時と同じ道を並んで歩く。
「響介、すっごい見られてたね」
「見られてたのは結斗だろ」
見られてたとしたら、それは結斗と一緒にいるからだろう。
俺の存在なんて学校ではないようなものなんだから。
存在感を出すとすぐに怯えられる。
だからできるだけひっそりと過ごしている。
「学校では話しかけるな、とか言わないんだね」
「別に周りの目とかはどうでもいいから。話すとか話さないとか俺たちの好きにすればいいだろ」
もし結斗に何か迷惑かけるようなことがあれば考えるけど。
今日だって見られてるだけで何もなかったし、周りを巻き込んでいるわけではないから変に気にする必要もない。
「響介のそういうとことろ、好き」
「だからさ、そんな軽々しく好きとか言うなよ」
「別にいいじゃん。好きにもいろいろあるし?」
「それはそうだけどさ」
気持ちを切り替えて友達としてやっていこうと思っているのに、どうしてもユイちゃんがちらついてしまう。
そもそも、ずっと女の子だと思っていたこと自体失礼だよな。
やっぱり気を引き締めないと。友達、友達。
「響介はさ、僕が男だとわかってどう思った?」
「どうって……最初はただただ驚いたけど、今は良い友達になれそうだなって」
「ふーん」
なんだよふーんて。聞いといてそれだけか?
良い友達になれそうについての返事はないのか?
結斗はそれから無言で隣を歩いていた。
そして家の前まで来た時、じゃあと手を上げようとしたのになぜが通り過ぎている。
「家、通り過ぎたけど?」
「あれ、おばさんに聞いてない? 僕、晩ごはん一条家で食べることになってるから」
「聞いてないわ」
母さん朝そんなこと一言も言ってなかった。
一緒に学校行けって言われただけだ。
俺よりも先に家に入っていく結斗を追いかけ、帰宅した。
「ユイちゃんいらっしゃい! 響介もおかえり」
「春子さんお久しぶりです。お邪魔します」
「ただいま」
玄関のドアを開けると母さんがパタパタと出てきた。
珍しくこんな早い時間からエプロン付けている。
絶対張り切って晩ごはん作ってるな。
「ユイちゃんイケメンになったわねぇ」
「母さんそれセクハラだから。それに高校生男子をユイちゃんて呼ぶなよ」
そのせいで俺は今日までずっとユイちゃんを女の子と勘違いしてたんだ。
「あらやだ。ごめんなさいね結斗くん」
「いえ、春子さんお元気そうで嬉しいです」
母さんも結斗もなんか外面だな。
俺は弁当を出して二階の自分の部屋へと向かう。
結斗も慣れたように付いてくる。
部屋に入ると結斗はベッド下のクッションに膝を抱えて座った。
「このクッションまだ置いてたんだ」
「もうだいぶへたってきてるけどな」
幼稚園の頃、俺の部屋に来た時はいつもこのクッションに座っていた。いわば定位置だ。
「そういや結斗の父さんと母さん仕事忙しいのか?」
「うん。二人とも出世して帰ってきたからね。さらに忙しくなった。まあもう寂しいとかいう年じゃないけど」
結斗の両親は大手企業の役員をしているらしい。
よくは知らないけど、昔母さんが言っていた。
だから昔からよくうちでご飯を食べたりしていたので、結斗が俺の部屋にいるのも珍しいことじゃない。
が、なぜか抵抗がある。
「ちょっと部屋着に着替えるからそっち向いててくれね」
「なんで? 昔は普通に着替えてたじゃん」
「昔は昔だろ」
「僕のこと女の子だと思ってても普通に着替えてたのに?」
「幼稚園児と一緒にするなよ」
たしかに男同士なんだし気にするほうがおかしいのかもしれないけど、なんか嫌なんだ。
仕方ないなぁと言いながらその場で目をつむる結斗。
その顔やめて欲しいんだけど。
でもこれ以上むきになるものおかしいので着替えを始める。
スウェットのズボンを履いて、上は……パーカーでいっか。
クローゼットから着古したパーカーを取って、制服のシャツを脱ぐ……
「っておい、何見てるんだよ」
「響介って、けっこう筋肉あるんだね」
「なんで見てるんだよ」
「見るなとは言われてないけど?」
たしかにそっち向いててくれって言っただけだった。
「屁理屈かよ」
とりあえず急いでパーカーを羽織って、ベッドにボスっと腰掛けた。
すると結斗も隣に座ってきた。
「幼稚園の頃はさ、このベッドで寝てなかったよね」
「まあ、そうだな」
部屋はあったものの、寝る時はまだ母さんと一緒に寝ていて、ここはただの遊び場だった。
「もう一人で寝られるようになった?」
「当たり前だろ。何歳だと思ってるんだ」
結斗はクスリと笑うと、ドンッと俺を押し倒す。
足だけ投げ出された状態で仰向けになる。
視界には、天井と結斗の顔。
あまりにも綺麗な顔が近くにあって、意識なんてしてないはずなのに心臓の音が大きくなる。
「な、なんだよ、いきなり」
「春子さんが小学生になったら泊まりに来てもいいよって言ってたの覚えてる? その前に引っ越しちゃったけど」
「そんなこと言ってたな」
「泊まりにきたらこのベッドで一緒に寝ようって約束したよね」
意地悪気に笑う結斗に、嫌な予感がした。
隣のクラスはまだ終わっていない。
一緒に帰る約束をしているわけでもないし、道は簡単だから覚えたはず。
それに結斗ならすぐ友達もできるだろう。
クラスメイトと放課後遊びに行く約束なんかするかもしれない。
俺がいなくたって、結斗は学校生活を楽しめるやつだ。
だから、待ってやることはない。
俺がいなくたってあいつは……ああ、なんかモヤモヤするな。
帰ろう。
いや。でももし一人だったら?
まだ初日だし、一緒に帰ってやった方がいいよな。
「響介」
「え?」
名前を呼ばれて顔を上げると、目の前に結斗がいた。
「何考え事してたの?」
「いや、別になにも」
お前のことを考えたなんてことは口がさけても言わない。
「待っててくれたの?」
「そういうわけじゃないけど……何もないなら一緒に帰るか?」
「うん。僕はそのつもりだったよ」
俺と違って結斗は素直だな。
すごいと思っても真似はできない。
相変わらず、周りの視線を感じながら並んで学校を出た。
来た時と同じ道を並んで歩く。
「響介、すっごい見られてたね」
「見られてたのは結斗だろ」
見られてたとしたら、それは結斗と一緒にいるからだろう。
俺の存在なんて学校ではないようなものなんだから。
存在感を出すとすぐに怯えられる。
だからできるだけひっそりと過ごしている。
「学校では話しかけるな、とか言わないんだね」
「別に周りの目とかはどうでもいいから。話すとか話さないとか俺たちの好きにすればいいだろ」
もし結斗に何か迷惑かけるようなことがあれば考えるけど。
今日だって見られてるだけで何もなかったし、周りを巻き込んでいるわけではないから変に気にする必要もない。
「響介のそういうとことろ、好き」
「だからさ、そんな軽々しく好きとか言うなよ」
「別にいいじゃん。好きにもいろいろあるし?」
「それはそうだけどさ」
気持ちを切り替えて友達としてやっていこうと思っているのに、どうしてもユイちゃんがちらついてしまう。
そもそも、ずっと女の子だと思っていたこと自体失礼だよな。
やっぱり気を引き締めないと。友達、友達。
「響介はさ、僕が男だとわかってどう思った?」
「どうって……最初はただただ驚いたけど、今は良い友達になれそうだなって」
「ふーん」
なんだよふーんて。聞いといてそれだけか?
良い友達になれそうについての返事はないのか?
結斗はそれから無言で隣を歩いていた。
そして家の前まで来た時、じゃあと手を上げようとしたのになぜが通り過ぎている。
「家、通り過ぎたけど?」
「あれ、おばさんに聞いてない? 僕、晩ごはん一条家で食べることになってるから」
「聞いてないわ」
母さん朝そんなこと一言も言ってなかった。
一緒に学校行けって言われただけだ。
俺よりも先に家に入っていく結斗を追いかけ、帰宅した。
「ユイちゃんいらっしゃい! 響介もおかえり」
「春子さんお久しぶりです。お邪魔します」
「ただいま」
玄関のドアを開けると母さんがパタパタと出てきた。
珍しくこんな早い時間からエプロン付けている。
絶対張り切って晩ごはん作ってるな。
「ユイちゃんイケメンになったわねぇ」
「母さんそれセクハラだから。それに高校生男子をユイちゃんて呼ぶなよ」
そのせいで俺は今日までずっとユイちゃんを女の子と勘違いしてたんだ。
「あらやだ。ごめんなさいね結斗くん」
「いえ、春子さんお元気そうで嬉しいです」
母さんも結斗もなんか外面だな。
俺は弁当を出して二階の自分の部屋へと向かう。
結斗も慣れたように付いてくる。
部屋に入ると結斗はベッド下のクッションに膝を抱えて座った。
「このクッションまだ置いてたんだ」
「もうだいぶへたってきてるけどな」
幼稚園の頃、俺の部屋に来た時はいつもこのクッションに座っていた。いわば定位置だ。
「そういや結斗の父さんと母さん仕事忙しいのか?」
「うん。二人とも出世して帰ってきたからね。さらに忙しくなった。まあもう寂しいとかいう年じゃないけど」
結斗の両親は大手企業の役員をしているらしい。
よくは知らないけど、昔母さんが言っていた。
だから昔からよくうちでご飯を食べたりしていたので、結斗が俺の部屋にいるのも珍しいことじゃない。
が、なぜか抵抗がある。
「ちょっと部屋着に着替えるからそっち向いててくれね」
「なんで? 昔は普通に着替えてたじゃん」
「昔は昔だろ」
「僕のこと女の子だと思ってても普通に着替えてたのに?」
「幼稚園児と一緒にするなよ」
たしかに男同士なんだし気にするほうがおかしいのかもしれないけど、なんか嫌なんだ。
仕方ないなぁと言いながらその場で目をつむる結斗。
その顔やめて欲しいんだけど。
でもこれ以上むきになるものおかしいので着替えを始める。
スウェットのズボンを履いて、上は……パーカーでいっか。
クローゼットから着古したパーカーを取って、制服のシャツを脱ぐ……
「っておい、何見てるんだよ」
「響介って、けっこう筋肉あるんだね」
「なんで見てるんだよ」
「見るなとは言われてないけど?」
たしかにそっち向いててくれって言っただけだった。
「屁理屈かよ」
とりあえず急いでパーカーを羽織って、ベッドにボスっと腰掛けた。
すると結斗も隣に座ってきた。
「幼稚園の頃はさ、このベッドで寝てなかったよね」
「まあ、そうだな」
部屋はあったものの、寝る時はまだ母さんと一緒に寝ていて、ここはただの遊び場だった。
「もう一人で寝られるようになった?」
「当たり前だろ。何歳だと思ってるんだ」
結斗はクスリと笑うと、ドンッと俺を押し倒す。
足だけ投げ出された状態で仰向けになる。
視界には、天井と結斗の顔。
あまりにも綺麗な顔が近くにあって、意識なんてしてないはずなのに心臓の音が大きくなる。
「な、なんだよ、いきなり」
「春子さんが小学生になったら泊まりに来てもいいよって言ってたの覚えてる? その前に引っ越しちゃったけど」
「そんなこと言ってたな」
「泊まりにきたらこのベッドで一緒に寝ようって約束したよね」
意地悪気に笑う結斗に、嫌な予感がした。


