その初恋、勘違いです。

 俺が勘違いしているとわかっていて、わざと女の子に見えるように振舞っていたのだという。

「なんでそんなことしてたんだよ」
「だって、僕が男の子だってわかったら嫌いになると思ったから。現に、再会したとき忘れようって言ったし」
「それは……ごめん」

 俺は“ユイちゃん”が好きだったし、ユイちゃんを女の子だと思っていたから、普通に女の子が好きなんだと思っていた。
 だから勘違いだと気付いたとき、自分の中にあった普通を肯定するために、なかったことにしようとしてしまった。

 でも今はちゃんとわかったうえで、結斗が好きだ。
 そのままの結斗が好きなんだ。

「前に結斗、言ってくれたよな。男とか女とか関係なく俺だから好きになったって。俺も同じ。結斗だから好きなんだ」
「響介……」

 結斗は前屈みになって抱きついてきた。
 ゴンドラが少し揺れる。

「ちょっと、ちゃんと座っとけって」
「響介は怖がりだな。落ちたりしないよ」
「わかってるけど……」

 もうすぐ頂上で、視界がいい分少しでも揺れると動揺してしまう。
 そんな俺を見て、結斗は隣に座ってくる。
 ゴンドラは傾き、先ほどより大きく揺れる。
 けれどすぐに安定し、ふうと肩の力を抜く。

 肩と肩が触れ合う距離に、ドキドキする。

「恋人みたいだね」

 結斗は膝の上にある俺の手をそっと握ってくる。
 「恋人みたい」それはまだ恋人ではないということ。

 お互いに好きだと伝え合っているのに恋人ではない。
 別に、今の関係にはっきりと名前をつけなくてもいいのかもしれない。
 でも俺は、結斗と特別な関係だと明確にしておきたい。
 不安があるなら、少しでも拭いたい。

「俺たち、もう恋人でいいだろ」
「え……?」
「好きのその先とか、わからないこともあるけど、知りたいと思う。結斗のことなら、心も身体も全部。恋人しかできないようなことも、結斗と知っていきたい」
「そんなこと言ったら僕、我慢できなくなるかもしれないよ」
「いいよ。わからないから戸惑うけど、嫌じゃないから」

 もう、と言いながら抱きついてくる。
 照れているんだとわかって、頭をそっと撫でた。

「ねえ、秘密のお話がなんだったか聞きたい?」

 本当は男の子だってことじゃないんだ。
 まあそんなことを観覧車の中でわざわざカミングアウトしないか。

 俺は大きく頷いた。

「観覧車の頂上でキスすると、ずっと一緒にいられるんだって」
「そんなこと?」
「そんなことってひどいな。幼稚園児の僕には重要なことだったんだよ」

 ずっと一緒にいられないとわかっていたからこそ、縋るものが欲しかったと五歳児なりに思ったそうだ。

 たしかに、そんな話は親の前ではできないな。
 ましてや男の子同士。

 こんなことすれば――

 観覧車の頂上、どちらからともなく顔を近づけ、触れるだけのキスをした。

「キスがしたかったんだな」
「十年越しの願いが叶ったよ」
「でも、本当の願いはずっと一緒にいることだろ」
「当たり前でしょ」

 ゆっくりと下りていく観覧車の中で、穏やかに笑い合う。

 目の前にいる結斗に、恋をしてよかったと心から思う。

 俺の初恋は勘違いだった。
 でも、間違いじゃなかった。

 あの頃の想いは形を変えて今も俺の中にある。
 そしてこれからも、大切に育まれていくだろう。