その初恋、勘違いです。

「はあ」
「どうしたの一条くん、そんなため息ついて」

 休み時間、俺はいつもように自分の席に座っていて、廊下で話をしている結斗を遠目で見ていた。
 そして思わずため息がこぼれていた。

 前を向いていた石川が何事かと振り返ってくる。

「石川って、彼女とかいるの?」
「今はいないよ」
「前はいたことあるんだ。どんな感じだった?」
「どんな感じって、質問が曖昧過ぎない?」

 たしかにそうだ。
 でも、なんて聞けばいいかわからなかった。

「なになに? 恋バナしてるの?」

 そこに、山本が現れた。
 石川の隣の席に座り、こっちに体を向けてくる。

「どんな感じかは山本さんに聞いたほうがいいかもね」
「どんな感じとは?」
「一条くんが、彼女ってどんな感じなのか聞いてくるから」
「え、一条くん彼女できたの?!」
「いやできてない!」

 勝手に盛り上がってくれているが、カップルの話ではない。

「じゃあ、片想いしてるとか?」
「そういうのじゃないんだけど、好きになるって、どういうことなんだろうと思って」
「へえ、好きな人ができたのね」
「好きな人というか、なんかわかんなくて」

 山本はやたら楽しそうにうんうん頷いている。

「もうね、どうなんだろうって考えてる時点で好きなのよ!」
「たしかにそれはあるね。好きになったら無意識にその人のことを考えているんだよ」
「それはもう恋してるってことよ」

 二人は意気投合して頷きあっている。
 
 無意識にその人のことを考えていたらそれは恋か。
 
 無意識どころか最近はもう結斗のことで頭がいっぱいだ。
 俺は結斗に恋をしているのか。
 そうなんだ。

 俺はずっと“ユイちゃん”のことが好きだった。
 ユイちゃんのことを考えると胸が温かくなって、嬉しくって、それが恋なんだと思っていた。
 
 でも、全ての恋がそうだとは限らないんだ。

 一緒にいられないと寂しくて、その笑顔が違う誰かに向けられていることが苦しくて。
 交わらない距離がもどかしくて、でも胸の高まりは収まらない。

 これが、好きという気持ち。

 恋をしている……。

 それって、結斗と同じ好きってことだよな。

 俺、ちゃんと結斗のことが好きなんだ。

「なんか、わかった気がするわ」
「一条くん、いい顔してるね」
「恋バナならいつでも大歓迎だよ!」

 それ以上は深く聞いてこなかった二人に感謝しながら、俺は決意した。

 伝えよう。
 俺も、結斗と同じ気持ちだって。

 その日の帰り、思い切って結斗を遊びに誘った。

「一緒に出かけようなんて珍しいね」
「たまにはいいだろ」

 たまに、なんて言うがそもそも二人で一緒に出かけたことはない。
 家か学校でしか過ごしたことがないのだ。
 結斗から誘われたこともないのに、俺から誘うなんておかしいだろうか。
 いや、おかしくなんてないはず。
 
 それに好きなやつから誘われたら嬉しいだろ。

「どこに行くの?」
「えっと……決めてはないけど。二人でゆっくりできたらなって」
「ゆっくりしたいならさ、家で映画でも観ようよ」
「それでもいいけど」
「じゃあ決まりね」

 これ、もしかしてお出かけ断られた?
 せっかく思い切って誘ってみたのに。
 俺と出かけるが嫌なのか?

 でも、結斗は映画なに観ようかなと嬉しそうにしている。

 まあ、いいか。
 家で映画観て、タイミングを見計らって、俺の気持ちを伝えよう。

 むしろ家の方が言いやすいかもしれないな。

 そう自分で納得して、約束の週末を迎えた。