その初恋、勘違いです。

 翌日から、また一緒に登校することになった。

 家の前で待ち合わせて、学校までの道のりを歩いていく。
 前と同じ状況だけど、同じではない関係に少しだけそわそわする。

「お昼休み、今も屋上で食べてるの?」
「そうだけど」
「石川くんと食べたりしてないんだ」
「屋上が落ち着くんだよ。それに、もしかしたら結斗が来るかもって……」
 
 石川に一緒に食べようと誘われたこともあった。
 でも、結斗が気まぐれでフラッとやって来るかもしれない。
 そう思うと別の場所で食べることができなかった。
 
「なんか、健気だね」
「俺だって、自分がよくわからなかったんだ」

 本当は期待していた。
 来るんじゃないかって。
 一回も来なかったけど。

 少しだけ拗ねていると、歩きながらそっと手を握られた。
 道端で手を繋ぐなんて初めてた。

 ドキドキしながらも、平静を装って当たり前のように歩く。

「響介、手汗すごいね」
「ご、ごめん!」

 慌てて手を離してズボンで手の平をごしごし拭く。
 緊張していたのが体に出てた。

 慌てる俺に、結斗はクスクス笑う。

「なんで離すの? 別に嫌だって言ってないけど」
「だって気持ち悪いだろ」
「そんなわけないでしょ」

 動揺する俺をよそに、もう一度手を握ってくる。
 手汗が滲むとか、緊張するとか、結斗からは全くそんなものは感じられなくて、なんだか悔しい。
 俺ばっかりが意識しているみたいだ。

 それから学校が見えてくると、何も言わずにパッと手が離される。
 自然と距離が空き、何事もなかったように学校へ入っていく。

 さすがに手を繋いで校内を歩くなんてことはしないけど、あっさりと離された手に寂しいと感じてしまった。
 結斗は、どう思っているんだろう。

 教室へ入ると、いつも通りの日常が始まった。
 席に着くと石川が「おはよう」と声をかけてきて「おはよ」と返事をする。

 休み時間はボーっとしたり、石川と話をしたり。
 廊下に視線を向けると、結斗が例の女子と笑いながら話をしていた。

 付き合ってないのはわかったけど、仲良くし過ぎじゃないか?

 振られたけど友達として仲良くするっていうのは建前で、本当は下心があるんじゃないかと思ってしまう。
 結斗はわかっているのだろうか。

 モヤモヤしながら迎えた昼休み、結斗と屋上へ来た。

 もう随分と寒くなってきた。
 あぐらをかいた尻が冷たい。
 正座するか?
 いや脛が冷たくなるし、おまけに足も痺れて悪いことしかない。
 尻は我慢してあぐらで座ったままでいこう。

 でも、これ以上寒くなったら屋上では食べられないな。
 
 他にどこかいい場所があるだろうかと考えながら、冷えた弁当を食べた。
 
「響介、寒い」

 パンを食べ終え、膝を抱えて縮こまる結斗。
 やっぱり寒かったか。

「中、入るか?」
「うん」

 立ち上がろうと手をついた瞬間、ポスっと俺の膝の上に乗ってきた。

「え? 何やってんだ」
「中、入ってもいいんでしょ?」

 中って、俺の中ってことだと思ったのか?
 足の中にすっぽりはまった結斗はあったかい、と嬉しそうだ。
 けれど、この体勢はよくない。

「あのさ、寒いなら校舎の中に――」

 言いかけたところで、結斗の指が伸びてきて、唇に触れた。

「ソース、付いてたよ」

 突然の感触に、心臓が跳ねる。
 
「あ、りがとう……」
「なに、ドキドキしてるの?」
「いや、急に触られたらするだろう」

 言ってくれたら自分で拭ったのに。

 すると結斗の手がゆっくりと俺の頬に触れ、そのまま覆い被さるように倒れ込んでくる。
 
 屋上のコンクリートの上で仰向けになり、結斗の顔が目の前にある。
 せっかくもらったワックスでセットした髪が乱れるなとか、背中がすごく冷たいとか、そんな言葉は出てこない。

「急じゃなかったら、ドキドキしないの?」

 ゆっくり、ゆっくり近づいてくる。
 俺はぎゅっと目をつむった。

 けれど、想像していた感触は一向に感じない。

 目を開けると、触れるか触れないかの距離で結斗の顔は止まっていた。

「しない、のか?」
「なに? して欲しかったの?」
「そういうわけじゃないけど」
「しないよ。まだ響介の“好き”は、僕の“好き”とは違うからね」

 そう言って、ゆっくりと離れていった。
 
 まただ。
 また、キスはされなかった。
 拍子抜けして、ゆっくりと起き上がる。

 俺の好きは結斗の好きとは違う。
 自分で言ったものの、自分でも自分の好きがわからない。

 好きが同じになるってどうやったらわかるんだ?