彼女ができたでしょ? と当たり前のように言う山本に、俺の頭は追いつかない。
体育祭からまだ一週間しか経っていない。
その間に彼女ができたのか?
頻繫に告白されている結斗なら、すぐに彼女ができてもおかしくない。
でも、ずっと俺のことが好きだって言っていたのに。
簡単に忘れるような気持ちだったのか?
俺が忘れろって言ったときは嫌だって拒否してたのに。
ああ、わかんねえ。モヤモヤする。
「一条くん? どうかした?」
考え込んでいた俺に、顔を覗かせる山本。
目の前に可愛いと言われる女の子がいるのに、俺の頭の中は結斗でいっぱいだった。
「ごめん、出かけるのとかは無理だから」
「そっか、わかった。また気が向いたら行こうね」
「ああ……」
気が向くことはないと思うけど、適当に返事をした。
山本はそれ以上何も言わずドリンクを淹れはじめる。
俺はドリンクを淹れないまま部屋へ戻り、石川に帰るわと声をかけ、お金を渡してまた部屋を出た。
結局、数十分しか居られなかった。
何しに来たんだと思いながらも、あのままカラオケで過ごせる気分でもなかった。
山本の圧にも耐えられそうになかったし。
やっぱり、クラスの中に溶け込むなんて俺には無理なのかも。
自己嫌悪に陥りながら、カラオケ店から出る。
すると、駅前で歩いている結斗を見つけた。
隣には女子もいる。
あれは結斗と同じクラスのやつだ。
女子と二人で出かけてるなんてデートか?
彼女ができたって本当だったんだ。
二人はそのままおしゃれな雑貨屋へと入っていった。
心臓が強く締め付けられるような感覚になる。
結斗がデートしているところなんて見たくなかった。
彼女ができたなんて信じたくない。
俺は重い足取りで家までの道のりを歩く。
なぜだか、結斗がすごく遠い存在に感じられた。
もう絶対に手が届かないような、隣を歩くことなんて一生ないのではないかと思うような。
正直、心のどこかで思っていた。
結斗の俺に対する気持ちが冷めたら、友達として普通に仲良くできるのではないかと。
でも、結斗は俺がいなくても平気なんだ。
友達がたくさんいて、彼女もできて、俺がいなくても十分楽しくやっている。
今までの俺たちの関係は、結斗が俺を想っていてくれたから成り立っていた関係だったんだ。
考えれば考えるほど苦しかった。
友達なんて、ずっといなかった。
結斗がそばにいなくたって、今は石川だっているし、一人ぼっちなわけじゃない。
入学当初と比べると良い状況なはずなのに。
なのに、どうしてこんなに苦しいんだ。
“ユイちゃん”が引っ越したときよりも、会えなくて寂しかったことよりも、今の方が何倍も苦しい。
ボーっとしたまま家に帰って、ベッドに倒れ込んだ。
もう何も考えたくなくて、そのまま目を閉じた。
◇ ◇ ◇
「響介ー! 響介!」
何度も呼ぶ声がして、ぼんやりと目を開ける。
すると部屋のドアが開いて、エプロン姿の母さんが入ってきた。
「響介、何度も呼んだんだけど」
「ああ、寝てた」
「じゃあこれ、結斗くんに持って行ってあげて」
じゃあってなんだよ、と思いながら母さんの手をみると、タッパーが二つ入った袋が握られていた。
「結斗の晩ごはん?」
「そう。今日もお父さんとお母さん仕事遅いみたいだから食べにおいでって言ったんだけど、勉強とかいろいろすることがあるから自分の家で食べたいって。だからはい」
母さん、結斗と連絡とってるんだ。
俺はもう何日もしてないのに。
モヤモヤしていたら「ほら」と手に持った袋を突き出してくる。
隣の家に持っていけということなんだろうけど、全然気分が乗らない。
そもそも、結斗は俺に会いたくないから家で食べたいと言ったんじゃないのか?
「母さんが持っていってよ」
「まだ全部作り終わってないのよ。洗い物もしたいし。ほら早く」
これ以上反抗すると怒られそうなので、しぶしぶ袋を受け取った。
早く行ってきてよ、と言うと母さんはキッチンへと戻って行く。
俺は重い足を上げ、袋を持って家を出た。
すぐ隣の真山家。
今結斗と顔を合わせるのは気まずい。
ドアノブに掛けて、ご飯置いてるってメッセージ入れとくか?
それはすごく感じが悪い気がする。
やっぱり、直接渡した方がいいよな。
さっと渡してすぐ帰ればいいか。
というか、デートしてたのにもう帰ってきてるのか?
二階の結斗の部屋を見上げると電気がついていた。
帰ってはきてるのか。
ふう、と息を吐いて手を伸ばす。
インターホンなんて滅多に鳴らさないけど、おそるおそるボタンを押した。
ピンポーンという音が外まで響いてくる。
すると、返事がないままドアがガチャっと開いた。
「響介、どうしたの」
名前、一週間ぶりに呼ばれた。
たったそれだけなのに、心臓がぎゅっとなる。
「これ、母さんが持っていけって」
「ご飯? 春子さんにありがとうって言っておいて」
「わかった……」
「うん。じゃあ」
結斗は袋を受けとると、ドアを閉めようとする。
「あのさ、」
咄嗟に呼び止めていた。
「なに?」
少し冷たくも感じる返事に、何を言おうかまとまらない。
本当は彼女のことを聞きたいけど、関係ないと突き放されるかもしれない。
俺と話なんてしたくないと言われたら、もう立ち直れないかもしれない。
「やっぱ、なんでもない」
俯いて何も聞けないまま、じゃあと言って真山家を後にした。
体育祭からまだ一週間しか経っていない。
その間に彼女ができたのか?
頻繫に告白されている結斗なら、すぐに彼女ができてもおかしくない。
でも、ずっと俺のことが好きだって言っていたのに。
簡単に忘れるような気持ちだったのか?
俺が忘れろって言ったときは嫌だって拒否してたのに。
ああ、わかんねえ。モヤモヤする。
「一条くん? どうかした?」
考え込んでいた俺に、顔を覗かせる山本。
目の前に可愛いと言われる女の子がいるのに、俺の頭の中は結斗でいっぱいだった。
「ごめん、出かけるのとかは無理だから」
「そっか、わかった。また気が向いたら行こうね」
「ああ……」
気が向くことはないと思うけど、適当に返事をした。
山本はそれ以上何も言わずドリンクを淹れはじめる。
俺はドリンクを淹れないまま部屋へ戻り、石川に帰るわと声をかけ、お金を渡してまた部屋を出た。
結局、数十分しか居られなかった。
何しに来たんだと思いながらも、あのままカラオケで過ごせる気分でもなかった。
山本の圧にも耐えられそうになかったし。
やっぱり、クラスの中に溶け込むなんて俺には無理なのかも。
自己嫌悪に陥りながら、カラオケ店から出る。
すると、駅前で歩いている結斗を見つけた。
隣には女子もいる。
あれは結斗と同じクラスのやつだ。
女子と二人で出かけてるなんてデートか?
彼女ができたって本当だったんだ。
二人はそのままおしゃれな雑貨屋へと入っていった。
心臓が強く締め付けられるような感覚になる。
結斗がデートしているところなんて見たくなかった。
彼女ができたなんて信じたくない。
俺は重い足取りで家までの道のりを歩く。
なぜだか、結斗がすごく遠い存在に感じられた。
もう絶対に手が届かないような、隣を歩くことなんて一生ないのではないかと思うような。
正直、心のどこかで思っていた。
結斗の俺に対する気持ちが冷めたら、友達として普通に仲良くできるのではないかと。
でも、結斗は俺がいなくても平気なんだ。
友達がたくさんいて、彼女もできて、俺がいなくても十分楽しくやっている。
今までの俺たちの関係は、結斗が俺を想っていてくれたから成り立っていた関係だったんだ。
考えれば考えるほど苦しかった。
友達なんて、ずっといなかった。
結斗がそばにいなくたって、今は石川だっているし、一人ぼっちなわけじゃない。
入学当初と比べると良い状況なはずなのに。
なのに、どうしてこんなに苦しいんだ。
“ユイちゃん”が引っ越したときよりも、会えなくて寂しかったことよりも、今の方が何倍も苦しい。
ボーっとしたまま家に帰って、ベッドに倒れ込んだ。
もう何も考えたくなくて、そのまま目を閉じた。
◇ ◇ ◇
「響介ー! 響介!」
何度も呼ぶ声がして、ぼんやりと目を開ける。
すると部屋のドアが開いて、エプロン姿の母さんが入ってきた。
「響介、何度も呼んだんだけど」
「ああ、寝てた」
「じゃあこれ、結斗くんに持って行ってあげて」
じゃあってなんだよ、と思いながら母さんの手をみると、タッパーが二つ入った袋が握られていた。
「結斗の晩ごはん?」
「そう。今日もお父さんとお母さん仕事遅いみたいだから食べにおいでって言ったんだけど、勉強とかいろいろすることがあるから自分の家で食べたいって。だからはい」
母さん、結斗と連絡とってるんだ。
俺はもう何日もしてないのに。
モヤモヤしていたら「ほら」と手に持った袋を突き出してくる。
隣の家に持っていけということなんだろうけど、全然気分が乗らない。
そもそも、結斗は俺に会いたくないから家で食べたいと言ったんじゃないのか?
「母さんが持っていってよ」
「まだ全部作り終わってないのよ。洗い物もしたいし。ほら早く」
これ以上反抗すると怒られそうなので、しぶしぶ袋を受け取った。
早く行ってきてよ、と言うと母さんはキッチンへと戻って行く。
俺は重い足を上げ、袋を持って家を出た。
すぐ隣の真山家。
今結斗と顔を合わせるのは気まずい。
ドアノブに掛けて、ご飯置いてるってメッセージ入れとくか?
それはすごく感じが悪い気がする。
やっぱり、直接渡した方がいいよな。
さっと渡してすぐ帰ればいいか。
というか、デートしてたのにもう帰ってきてるのか?
二階の結斗の部屋を見上げると電気がついていた。
帰ってはきてるのか。
ふう、と息を吐いて手を伸ばす。
インターホンなんて滅多に鳴らさないけど、おそるおそるボタンを押した。
ピンポーンという音が外まで響いてくる。
すると、返事がないままドアがガチャっと開いた。
「響介、どうしたの」
名前、一週間ぶりに呼ばれた。
たったそれだけなのに、心臓がぎゅっとなる。
「これ、母さんが持っていけって」
「ご飯? 春子さんにありがとうって言っておいて」
「わかった……」
「うん。じゃあ」
結斗は袋を受けとると、ドアを閉めようとする。
「あのさ、」
咄嗟に呼び止めていた。
「なに?」
少し冷たくも感じる返事に、何を言おうかまとまらない。
本当は彼女のことを聞きたいけど、関係ないと突き放されるかもしれない。
俺と話なんてしたくないと言われたら、もう立ち直れないかもしれない。
「やっぱ、なんでもない」
俯いて何も聞けないまま、じゃあと言って真山家を後にした。


