石川が保健室を出ていくと、結斗が中に入ってきた。
黙って俺の所まで来ると、ベッドに腰掛ける。
「熱、下がったみたいだね」
「ああ。寝たらスッキリした」
顔を見ただけで熱が下がったと気付くんだ。
本当に俺のことよくわかってるな。
「応援団長かっこよかったよ。女子たちも騒いでた」
「騒いでた? なんで?」
「響介がかっこいいからでしょ」
「そんなわけないだろ」
今まで顔が怖いとか近寄りがたいとか散々言われてきた。
そんな俺がかっこいいとかあるわけない。
せいぜい、学ラン着て応援団長してちょっと目立って、一瞬騒ぐやつもいただけだろう。
「響介はわかってないよ。自分がどれだけかっこいいか」
「でも、結斗だって愛想がないとか目つきが悪いとか言ってただろ」
「それは! 自覚がないならそれでいいかって思ったんだ……」
結斗は泣きそうな顔をして俺を見上げる。
そして「ごめん」と小さく呟いた。
俺はなんの謝罪かわからず首をかしげる。
「本当は、そのきりっとした目がかっこいいし、背が高いのも男らしくていいと思ってる」
「急にどうしたんだよ」
「響介はかっこいいよ。わざとひどい言い方してた。ごめん」
「謝るなよ。目つき悪いとか、本当のことだし」
結斗は俺の言葉を否定するように首を横に振る。
「響介は自分のこと卑下し過ぎだよ。それに、誤解も解けたんでしょ?」
「石川との話聞いてたのか?」
「うん。立ち聞きしてごめん」
「それはいいけど」
何度も謝る結斗は、まだ謝ることがあると言って、拳をぎゅっと握る。
「狂犬って呼ばれてる意味、響介が勘違いしてるってわかってた……」
結斗は転校してからもう何度も告白されている。
それと同じくらい俺のことも聞かれていたそうだ。
『一条くんて、どんな人なの?』
『話しかけたら迷惑かな?』
はじめは本当に怖がられていると思っていたけど、すぐにそうじゃないって気付いたらしい。
黙っていたことへの罪悪感なのか、ずっとうつむいたまま背中を丸めている。
でも、結斗のせいじゃない。
俺の見た目とコミュ障が周りを遠ざけていただけで、自分で何か行動していれば誤解はすぐに解けていたはずだ。
「結斗が謝ることじゃないから」
「違うよ。響介はわかってない」
「わかってない? なにが?」
すると結斗はバッと顔を上げ、眉間にしわを寄せて見上げてくる。
「僕、響介に友達ができなくてもいいやって思ったんだ」
「そう、なのか……?」
そんなこと思ってたのか。
でもよく考えたら俺だって、結斗があっという間に周りに溶け込んでいくことにモヤモヤしていたこともある。
一番仲が良いと思っていた友達が自分以外と仲良くしていて寂しい気持ち、なんとなくわかる。
「学校が楽しいと思ってくれたらいいって言ったのも嘘じゃない。でも、体育祭の練習始まってから本当に楽しそうで、響介が昔みたいに笑ってくれたらなって思ってたけど、その笑顔が僕に向けられてないことが嫌だった。誰かに、取られるんじゃないかって」
「取られるって、別に誰のものでもない――」
「わかってるよ!」
ドンッと胸を押され、ベッドに背中から倒れ込んだ。
結斗は俺の顔の横に両手をついて、真っ直ぐ目を見つめてくる。
前に家でもこんなことあった。
以外と力が強いんだよな。
でも、前の時とは状況が違う。
「結斗、ちょっと落ち着けよ。別に俺怒ってないし」
「落ち着いてるよ。それに怒ってるのは僕のほう」
「え? 怒ってんの?」
さっきまでしおらしく謝ってたのに、今度は怒ってるのか?
「ねえ響介、どうして僕のこと好きじゃなくなったの?」
「は……?」
好きじゃなくなったってどういうことだ?
友達として好きだとは何度も言ってるし、幼稚園の頃のことを言ってるのか?
でもそれは勘違いしてたって伝えたのに、どうしてそんなに怒るんだよ。
「コミュ障だけど友達大事にするところとか、動物が好きなところとか、情に厚いところとか、律儀で責任感強いところとか、昔から何も変わってなくて、そんな響介がずっと好きなんだ」
「結斗、お前……」
「僕は、友達として好きって言ってるんじゃないよ――」
結斗の顔がだんだん近くなる。
色白で、睫毛が長くて綺麗な顔。
そして柔らかそうな唇が触れそうに――
「いや待て、」
触れるか触れないかのところで結斗の両肩を押さえ、ゆっくりと起き上がった。
向かい合って座り、真っ直ぐ目を見てから口を開く。
「お前が真剣なら、俺も真剣に答えるけど、やっぱりそういう関係にはなれない。だからこれからも友達として仲良くしてくれ」
「響介の気持ちはわかったよ」
「ありがとう。じゃあ――」
「もう、仲良くはできない」
「え、なんでだよ?」
「一緒にいるのがつらいからだよ。友達として仲良くしようなんて響介は残酷だよね」
泣きそうな結斗に、初めて自分の勝手さに気付いた。
真剣に答えると言っておきながら、俺は友達という免罪符に逃げたんだ。
結斗の気持ちには応えられないけど、友達として仲良くしたいなんて俺の都合を押し付けているだけだ。
「ごめん。俺、自分のことしか考えなくて」
「うん。だからもうやめるよ。今まで迷惑かけて、困らせてごめん。さよなら」
結斗はベッドから下りると保健室を出て行った。
俺は追いかけることができなかった。
気持ちに応えることができないなら、追いかけてはいけないと思った。
黙って俺の所まで来ると、ベッドに腰掛ける。
「熱、下がったみたいだね」
「ああ。寝たらスッキリした」
顔を見ただけで熱が下がったと気付くんだ。
本当に俺のことよくわかってるな。
「応援団長かっこよかったよ。女子たちも騒いでた」
「騒いでた? なんで?」
「響介がかっこいいからでしょ」
「そんなわけないだろ」
今まで顔が怖いとか近寄りがたいとか散々言われてきた。
そんな俺がかっこいいとかあるわけない。
せいぜい、学ラン着て応援団長してちょっと目立って、一瞬騒ぐやつもいただけだろう。
「響介はわかってないよ。自分がどれだけかっこいいか」
「でも、結斗だって愛想がないとか目つきが悪いとか言ってただろ」
「それは! 自覚がないならそれでいいかって思ったんだ……」
結斗は泣きそうな顔をして俺を見上げる。
そして「ごめん」と小さく呟いた。
俺はなんの謝罪かわからず首をかしげる。
「本当は、そのきりっとした目がかっこいいし、背が高いのも男らしくていいと思ってる」
「急にどうしたんだよ」
「響介はかっこいいよ。わざとひどい言い方してた。ごめん」
「謝るなよ。目つき悪いとか、本当のことだし」
結斗は俺の言葉を否定するように首を横に振る。
「響介は自分のこと卑下し過ぎだよ。それに、誤解も解けたんでしょ?」
「石川との話聞いてたのか?」
「うん。立ち聞きしてごめん」
「それはいいけど」
何度も謝る結斗は、まだ謝ることがあると言って、拳をぎゅっと握る。
「狂犬って呼ばれてる意味、響介が勘違いしてるってわかってた……」
結斗は転校してからもう何度も告白されている。
それと同じくらい俺のことも聞かれていたそうだ。
『一条くんて、どんな人なの?』
『話しかけたら迷惑かな?』
はじめは本当に怖がられていると思っていたけど、すぐにそうじゃないって気付いたらしい。
黙っていたことへの罪悪感なのか、ずっとうつむいたまま背中を丸めている。
でも、結斗のせいじゃない。
俺の見た目とコミュ障が周りを遠ざけていただけで、自分で何か行動していれば誤解はすぐに解けていたはずだ。
「結斗が謝ることじゃないから」
「違うよ。響介はわかってない」
「わかってない? なにが?」
すると結斗はバッと顔を上げ、眉間にしわを寄せて見上げてくる。
「僕、響介に友達ができなくてもいいやって思ったんだ」
「そう、なのか……?」
そんなこと思ってたのか。
でもよく考えたら俺だって、結斗があっという間に周りに溶け込んでいくことにモヤモヤしていたこともある。
一番仲が良いと思っていた友達が自分以外と仲良くしていて寂しい気持ち、なんとなくわかる。
「学校が楽しいと思ってくれたらいいって言ったのも嘘じゃない。でも、体育祭の練習始まってから本当に楽しそうで、響介が昔みたいに笑ってくれたらなって思ってたけど、その笑顔が僕に向けられてないことが嫌だった。誰かに、取られるんじゃないかって」
「取られるって、別に誰のものでもない――」
「わかってるよ!」
ドンッと胸を押され、ベッドに背中から倒れ込んだ。
結斗は俺の顔の横に両手をついて、真っ直ぐ目を見つめてくる。
前に家でもこんなことあった。
以外と力が強いんだよな。
でも、前の時とは状況が違う。
「結斗、ちょっと落ち着けよ。別に俺怒ってないし」
「落ち着いてるよ。それに怒ってるのは僕のほう」
「え? 怒ってんの?」
さっきまでしおらしく謝ってたのに、今度は怒ってるのか?
「ねえ響介、どうして僕のこと好きじゃなくなったの?」
「は……?」
好きじゃなくなったってどういうことだ?
友達として好きだとは何度も言ってるし、幼稚園の頃のことを言ってるのか?
でもそれは勘違いしてたって伝えたのに、どうしてそんなに怒るんだよ。
「コミュ障だけど友達大事にするところとか、動物が好きなところとか、情に厚いところとか、律儀で責任感強いところとか、昔から何も変わってなくて、そんな響介がずっと好きなんだ」
「結斗、お前……」
「僕は、友達として好きって言ってるんじゃないよ――」
結斗の顔がだんだん近くなる。
色白で、睫毛が長くて綺麗な顔。
そして柔らかそうな唇が触れそうに――
「いや待て、」
触れるか触れないかのところで結斗の両肩を押さえ、ゆっくりと起き上がった。
向かい合って座り、真っ直ぐ目を見てから口を開く。
「お前が真剣なら、俺も真剣に答えるけど、やっぱりそういう関係にはなれない。だからこれからも友達として仲良くしてくれ」
「響介の気持ちはわかったよ」
「ありがとう。じゃあ――」
「もう、仲良くはできない」
「え、なんでだよ?」
「一緒にいるのがつらいからだよ。友達として仲良くしようなんて響介は残酷だよね」
泣きそうな結斗に、初めて自分の勝手さに気付いた。
真剣に答えると言っておきながら、俺は友達という免罪符に逃げたんだ。
結斗の気持ちには応えられないけど、友達として仲良くしたいなんて俺の都合を押し付けているだけだ。
「ごめん。俺、自分のことしか考えなくて」
「うん。だからもうやめるよ。今まで迷惑かけて、困らせてごめん。さよなら」
結斗はベッドから下りると保健室を出て行った。
俺は追いかけることができなかった。
気持ちに応えることができないなら、追いかけてはいけないと思った。


