差し込んでくる西日を感じ、目を開ける。
体を起こし窓の外を見ると、体育祭はもう終わったようで数人の生徒が片付けをしているところだった。
「俺も帰ろう」
ベッドから出ようとすると、保健室のドアが開き石川が入ってきた。
「あ、起きたんだ。体調はどう? 途中で見に来た時にはぐっすり眠ってたから声かけなかったんだけど」
「寝たらだいぶよくなった」
「それはよかった。はいこれ。障害物競走にパン食いがあったから取ってきた」
差し出されたのはクリームパンだった。
「出たのは石川だし食べていいよ」
「でも一条くんお昼食べてないしょ? お腹すいてるんじゃない?」
言われてみればずっと寝ていて食べていない。
体調もよくなったからか、意識するとお腹が減ってくる。
「じゃあ、遠慮なく」
クリームパンを受け取ると、ベッドに腰掛けたまま袋を開けて食べ始める。
石川も隣に腰掛けた。
「うちのクラス、学年優勝したよ」
「すごいな。おめでとう」
「なんか他人事だね。一条くんのおかげだよ」
「俺のおかげ?」
「応援演舞、全学年でトップの点数だったんだよ」
そうだったんだ。
やりきることに精一杯で得点のことを忘れていた。
熱で頭が回っていなかったけど、上手くできていたなら良かった。
「ここまでやれたのは石川のおかげだ」
「僕のおかげじゃないよ、一条くんが頑張ってくれたから。クラスのみんなもすごく心配してたよ」
クラスのみんなが俺を心配?
そんなわけないだろう。
応援団を通して少し馴染んできたかなとは思ったけど、心配されるような関係ではない。
団長だって、得点のために背が高くて見栄えするから俺が選ばれただけ。
「誰も狂犬のことなんて気にしないだろ」
「一条くん、もしかして少し勘違いしてるんじゃない?」
「勘違いって、何を?」
「キョウケンって呼ばれてる理由だよ」
狂犬と呼ばれる理由なんて、俺の見た目が怖いからだろ。
けれど石川は、入学してすぐの頃の話を教えてくれた。
入学式の日、眼帯を付け、頬に大きな絆創膏を張ってきた俺はやはりすごく目立っていたらしい。
加えて背が高くて愛想もないので近寄りがたくはあったそうだ。
みんな話しかけるタイミングをなかなか掴めていなかった。
でも、狂犬と呼ばれるようになったのはそれが理由ではなかった。
「うちのクラスにさ、山本さんっているじゃん?」
「ああ、髪の長いやつな」
可愛いと評判で、入学当初は違う学年からも見にくる人もいた。
もちろん俺は話したことないけど。
「山本さんさ、三年の先輩にストーカーされてたんだよ」
「そうだったのか?」
そこまでとは知らなかった。
可愛いってのも大変なんだな。
「そのストーカーの先輩を一条くんが追い払ったんだよ」
「は? 俺、そんなことしてないけど」
「気付いてないんだろうなとは思ってよ」
嫌がる山本につきまとい、休み時間や放課後になるといつも教室に来ていた先輩は、三年ということを盾にうちのクラスで好き放題していた。
山本の前の席のやつを押しのけ自分が座り、帰ってくれとお願いしても無理やり居座っていた。
クラスのやつらも辟易していた時、眼帯に絆創膏顔の俺が言ったらしい。
『先輩、あまりしつこいと俺みたいになりますよ』
それからその先輩は俺を見るたびに逃げるようになり、数日で一切教室には来なくなったそうだ。
俺はストーカーを追い払った番犬となった。
たしかにそんなことを言ったような気もする。
あんなぼそっと呟いただけのことが、クラスメイトを助けることになっていたとは知らなかった。
「でも……番犬? 俺、狂犬て呼ばれるよな?」
「それはなんか名前とかけて変化していったんだよ」
名前と掛かけて?
響介……と、番犬……で狂犬?
うそだろ。
別に悪い意味で言われてたわけじゃないってこと?
いやでも、今まで誰も話しかけてこなかったのは事実だし。
ストーカーを追い払えたのだって見た目が怖いから。
「勘違いしてたとしても、誰も俺と仲良くしようとは思ってないよな……」
「みんな遠慮してたんだよ。一条くん、一人が好きそうな感じだったし、それで慣れていって、話しかけないのが当たり前になっちゃたんだよね」
「まじか……」
結局は俺の見た目と愛想のなさがそうさせていたということか。
全部自分のせいじゃないか。
「ところでさ『あまりしつこいと俺みたいになりますよ』ってどういう意味だったの? ずっと気になってたんだよね」
「ああ、それはしつこくして周りに迷惑かけてると俺みたいにぼっちになるって意味で」
「なにそれ。やっぱり一条くんは面白いね。みんな『俺みたいに怪我するぞ』て意味だと思ってたよ」
「そう思われても仕方ないな」
眼帯つけた俺に言われたらそういう意味に捉えられてもおかしくない。
あの時はそんなこと全く考えずに呟いただけだけど。
「山本さんに教えてあげないと。たぶん喜ぶと思う」
「今さら言わなくていいから」
「ええ、なんで? そうだ、一条くんの誤解も解けたことだし、今度みんなで体育祭の打ち上げ行こうよ。文化祭のときは不参加だったでしょ」
打ち上げか。文化祭の後も誘われなかったわけではない。
打ち上げ参加の名簿の紙が回ってきたとき、不参加にして回した。
俺が参加しても雰囲気が悪くなるだけだろうと思って。
行っても話し相手すらいないし。
でも、今回は違う。
まだ石川としかまともに話すやつはいないけど、自分から関わっていってもいいのかもしれない。
「考えとく」
「楽しみにしとくね。じゃあ僕は帰るよ。待ち人もいるみたいだし?」
「待ち人?」
なんのことかと思っていたら、石川が保健室のドアを開ける。
するとそこには、結斗が立っていた。
体を起こし窓の外を見ると、体育祭はもう終わったようで数人の生徒が片付けをしているところだった。
「俺も帰ろう」
ベッドから出ようとすると、保健室のドアが開き石川が入ってきた。
「あ、起きたんだ。体調はどう? 途中で見に来た時にはぐっすり眠ってたから声かけなかったんだけど」
「寝たらだいぶよくなった」
「それはよかった。はいこれ。障害物競走にパン食いがあったから取ってきた」
差し出されたのはクリームパンだった。
「出たのは石川だし食べていいよ」
「でも一条くんお昼食べてないしょ? お腹すいてるんじゃない?」
言われてみればずっと寝ていて食べていない。
体調もよくなったからか、意識するとお腹が減ってくる。
「じゃあ、遠慮なく」
クリームパンを受け取ると、ベッドに腰掛けたまま袋を開けて食べ始める。
石川も隣に腰掛けた。
「うちのクラス、学年優勝したよ」
「すごいな。おめでとう」
「なんか他人事だね。一条くんのおかげだよ」
「俺のおかげ?」
「応援演舞、全学年でトップの点数だったんだよ」
そうだったんだ。
やりきることに精一杯で得点のことを忘れていた。
熱で頭が回っていなかったけど、上手くできていたなら良かった。
「ここまでやれたのは石川のおかげだ」
「僕のおかげじゃないよ、一条くんが頑張ってくれたから。クラスのみんなもすごく心配してたよ」
クラスのみんなが俺を心配?
そんなわけないだろう。
応援団を通して少し馴染んできたかなとは思ったけど、心配されるような関係ではない。
団長だって、得点のために背が高くて見栄えするから俺が選ばれただけ。
「誰も狂犬のことなんて気にしないだろ」
「一条くん、もしかして少し勘違いしてるんじゃない?」
「勘違いって、何を?」
「キョウケンって呼ばれてる理由だよ」
狂犬と呼ばれる理由なんて、俺の見た目が怖いからだろ。
けれど石川は、入学してすぐの頃の話を教えてくれた。
入学式の日、眼帯を付け、頬に大きな絆創膏を張ってきた俺はやはりすごく目立っていたらしい。
加えて背が高くて愛想もないので近寄りがたくはあったそうだ。
みんな話しかけるタイミングをなかなか掴めていなかった。
でも、狂犬と呼ばれるようになったのはそれが理由ではなかった。
「うちのクラスにさ、山本さんっているじゃん?」
「ああ、髪の長いやつな」
可愛いと評判で、入学当初は違う学年からも見にくる人もいた。
もちろん俺は話したことないけど。
「山本さんさ、三年の先輩にストーカーされてたんだよ」
「そうだったのか?」
そこまでとは知らなかった。
可愛いってのも大変なんだな。
「そのストーカーの先輩を一条くんが追い払ったんだよ」
「は? 俺、そんなことしてないけど」
「気付いてないんだろうなとは思ってよ」
嫌がる山本につきまとい、休み時間や放課後になるといつも教室に来ていた先輩は、三年ということを盾にうちのクラスで好き放題していた。
山本の前の席のやつを押しのけ自分が座り、帰ってくれとお願いしても無理やり居座っていた。
クラスのやつらも辟易していた時、眼帯に絆創膏顔の俺が言ったらしい。
『先輩、あまりしつこいと俺みたいになりますよ』
それからその先輩は俺を見るたびに逃げるようになり、数日で一切教室には来なくなったそうだ。
俺はストーカーを追い払った番犬となった。
たしかにそんなことを言ったような気もする。
あんなぼそっと呟いただけのことが、クラスメイトを助けることになっていたとは知らなかった。
「でも……番犬? 俺、狂犬て呼ばれるよな?」
「それはなんか名前とかけて変化していったんだよ」
名前と掛かけて?
響介……と、番犬……で狂犬?
うそだろ。
別に悪い意味で言われてたわけじゃないってこと?
いやでも、今まで誰も話しかけてこなかったのは事実だし。
ストーカーを追い払えたのだって見た目が怖いから。
「勘違いしてたとしても、誰も俺と仲良くしようとは思ってないよな……」
「みんな遠慮してたんだよ。一条くん、一人が好きそうな感じだったし、それで慣れていって、話しかけないのが当たり前になっちゃたんだよね」
「まじか……」
結局は俺の見た目と愛想のなさがそうさせていたということか。
全部自分のせいじゃないか。
「ところでさ『あまりしつこいと俺みたいになりますよ』ってどういう意味だったの? ずっと気になってたんだよね」
「ああ、それはしつこくして周りに迷惑かけてると俺みたいにぼっちになるって意味で」
「なにそれ。やっぱり一条くんは面白いね。みんな『俺みたいに怪我するぞ』て意味だと思ってたよ」
「そう思われても仕方ないな」
眼帯つけた俺に言われたらそういう意味に捉えられてもおかしくない。
あの時はそんなこと全く考えずに呟いただけだけど。
「山本さんに教えてあげないと。たぶん喜ぶと思う」
「今さら言わなくていいから」
「ええ、なんで? そうだ、一条くんの誤解も解けたことだし、今度みんなで体育祭の打ち上げ行こうよ。文化祭のときは不参加だったでしょ」
打ち上げか。文化祭の後も誘われなかったわけではない。
打ち上げ参加の名簿の紙が回ってきたとき、不参加にして回した。
俺が参加しても雰囲気が悪くなるだけだろうと思って。
行っても話し相手すらいないし。
でも、今回は違う。
まだ石川としかまともに話すやつはいないけど、自分から関わっていってもいいのかもしれない。
「考えとく」
「楽しみにしとくね。じゃあ僕は帰るよ。待ち人もいるみたいだし?」
「待ち人?」
なんのことかと思っていたら、石川が保健室のドアを開ける。
するとそこには、結斗が立っていた。


