体育祭当日。
朝起きると身体が異様に重いのを感じた。
頭がフラフラする。
これ、絶対に熱があるやつだ。
なんでだ? 喉が痛いとかはないし風邪ではなさそう。
緊張し過ぎて知恵熱でもでたか?
なんにせよ、休むわけにはいかない。
重い身体を奮い立たせ、体操服に着替えて家を出る。
ちょうど結斗も家を出てきたところだったようで、おはよと言い自然と並んで歩き出す。
「響介、熱あるでしょ」
するとすぐに指摘された。
それも疑問形ではなく断定されて。
「なんでわかるんだ?」
「いつにもまして目つきが悪いから」
「けなしてるのか?」
「冗談だよ。でも、目がトロンとしてる。そういう時ってたいてい熱出てたよね」
幼稚園の頃の話をしているんだろう。
本当によく覚えてるよな。
「そんなにわかりやすいか?」
「僕以外はわからないんじゃない?」
「ならいいわ」
「無理しないでよ」
「今日無理しないでいつ無理するんだよ。明日は休みだしなんとかなるだろ」
出場するのも応援団と障害物競走だけだし大丈夫だろう。
今日のために必死に練習してきたんだ。
それに、団長の俺が休んでみんなに迷惑をかけるわけにはいかない。
「何かあったらすぐ言ってよ」
「ああ。ありがとな」
結斗は心配してくれているけど、休めとは言わない。
俺が体育祭をやり遂げたいと思っていることをわかってくれているから。
学校へつくと、いつもとは違う熱気が漂っていた。
たかが高校の体育祭、されど学生にとっては大きなイベントの一つ。
まさか応援団長として参加することになるとは思っていなかった。
一学期の遠足と文化祭は息を潜めて参加していた俺にとっては特別な学校行事になる。
教室に入ると、石川がすぐに声をかけてきた。
「一条くんおはよう。頑張ろうね」
「ああ」
体調が悪いことには気付いていないみたいだ。
変に気を遣わせたくないからその方がいい。
俺は短く返事をして、クラスメイトたちとグランドへと向かった。
体育祭は、開会式の後クラス対抗リレーから始まった。
スタートしてからずっと順位の定まらない接戦で観客席もわいているけれど、俺はテントの一番後ろの席でただ眺めていた。
「頑張れー!」
「石川くーん!」
アンカーの石川にバトンが渡されたとき、トップと並んだ。
そしてあっという間に差をつけ、ぶっちぎり一位でゴールした。
足も速いなんて、どれだけ完璧なやつなんだ。
なんて思いながら次の競技もボーっと眺める。
ボーっとしながらも、気付いたことがある。
今日はみんな男女関係なく、はやたら距離が近いということ。
ハイタッチして喜びあったり、肩を組んで応援していたり。
そんな青春の景色を後ろから眺めていると、やっぱり俺があの中に入ることはないのだろうと実感する。
「みんな、楽しそうだな」
呟いたとき、自分は楽しめていないのだと気付いた。
だめだな。
熱があるせいか、めちゃくちゃネガティブになってる。
こんなんじゃ応援団長をやり遂げられない。
俺は頬をパチンッと叩いて立ち上がった。
次は、いよいよ応援演舞だ。
椅子に掛けていた学ランを着て、長いはちまきを巻いてテントを出る。
「眩し……」
太陽の光を直接受け、目を細める。
けれど、そこには笑顔で俺を見るクラスの男子たちがいた。
「一条くん、早くおいで」
石川に手招きされ駆け寄る。
ポンっポンっとみんなに背中を押され、練習通り列の真ん中に立った。
両手を後ろで組み、大きく息を吸う。
「一年B組! 勇往邁進ー!」
できる限りの声を出し、すぐに首に掛けたホイッスルを咥える。
ピーという音と共に男子生徒たちが隊列を組み、手を突き上げ腰を落とす。
うん。練習通りできている。
むしろ、アドレナリンがでているのかいつもより身体が軽い気がする。
ピー、ピッ、とホイッスルを鳴らし、腕を振り上げ腰を逸らす。
やっぱり、しんどいかも。
ホイッスルって、けっこう肺活量いるんだよな。
呼吸の苦しさを感じながらも、間違わないように、後ろにいるクラスメイトたちの掛け声をききながら表情を引き締める。
ふと隣のクラスのテントに目をやると、結斗が真っ直ぐに俺を見ていた。
きっと心配しているんだろうな。
額には汗が滲み、身体はどうやって動かしているのか感覚がない。
それでも一心不乱に腕を振り、最後のホイッスルを吹き上げた。
ピーーーーーーーー
吹いた瞬間、体の力が抜けた。
石川がすぐに支えてくれて、テントに戻る。
「どうしたの一条くん、フラフラだしすごく熱いよ。絶対に熱あるでしょ」
「あー、バレたか」
笑ってみせたけど、そのまま保健室へと連れて行かれた。
保健の先生はグランドの救護テントにいるので保健室にはいない。
ベッドまで支えられ、ゆっくりと下ろされた。
「とりあえず、寝といてよ」
「でも俺、午後から障害物競走があるんだけど」
「僕が代わりに出ておくよ」
石川は爽やかな笑顔でニカッと笑い、保健室を出ていった。
俺は靴を脱いでベッドに横になる。
目を閉じてみると、びっくりするくらいの眠気が襲ってきて、もう目を開けることはできなかった。
朝起きると身体が異様に重いのを感じた。
頭がフラフラする。
これ、絶対に熱があるやつだ。
なんでだ? 喉が痛いとかはないし風邪ではなさそう。
緊張し過ぎて知恵熱でもでたか?
なんにせよ、休むわけにはいかない。
重い身体を奮い立たせ、体操服に着替えて家を出る。
ちょうど結斗も家を出てきたところだったようで、おはよと言い自然と並んで歩き出す。
「響介、熱あるでしょ」
するとすぐに指摘された。
それも疑問形ではなく断定されて。
「なんでわかるんだ?」
「いつにもまして目つきが悪いから」
「けなしてるのか?」
「冗談だよ。でも、目がトロンとしてる。そういう時ってたいてい熱出てたよね」
幼稚園の頃の話をしているんだろう。
本当によく覚えてるよな。
「そんなにわかりやすいか?」
「僕以外はわからないんじゃない?」
「ならいいわ」
「無理しないでよ」
「今日無理しないでいつ無理するんだよ。明日は休みだしなんとかなるだろ」
出場するのも応援団と障害物競走だけだし大丈夫だろう。
今日のために必死に練習してきたんだ。
それに、団長の俺が休んでみんなに迷惑をかけるわけにはいかない。
「何かあったらすぐ言ってよ」
「ああ。ありがとな」
結斗は心配してくれているけど、休めとは言わない。
俺が体育祭をやり遂げたいと思っていることをわかってくれているから。
学校へつくと、いつもとは違う熱気が漂っていた。
たかが高校の体育祭、されど学生にとっては大きなイベントの一つ。
まさか応援団長として参加することになるとは思っていなかった。
一学期の遠足と文化祭は息を潜めて参加していた俺にとっては特別な学校行事になる。
教室に入ると、石川がすぐに声をかけてきた。
「一条くんおはよう。頑張ろうね」
「ああ」
体調が悪いことには気付いていないみたいだ。
変に気を遣わせたくないからその方がいい。
俺は短く返事をして、クラスメイトたちとグランドへと向かった。
体育祭は、開会式の後クラス対抗リレーから始まった。
スタートしてからずっと順位の定まらない接戦で観客席もわいているけれど、俺はテントの一番後ろの席でただ眺めていた。
「頑張れー!」
「石川くーん!」
アンカーの石川にバトンが渡されたとき、トップと並んだ。
そしてあっという間に差をつけ、ぶっちぎり一位でゴールした。
足も速いなんて、どれだけ完璧なやつなんだ。
なんて思いながら次の競技もボーっと眺める。
ボーっとしながらも、気付いたことがある。
今日はみんな男女関係なく、はやたら距離が近いということ。
ハイタッチして喜びあったり、肩を組んで応援していたり。
そんな青春の景色を後ろから眺めていると、やっぱり俺があの中に入ることはないのだろうと実感する。
「みんな、楽しそうだな」
呟いたとき、自分は楽しめていないのだと気付いた。
だめだな。
熱があるせいか、めちゃくちゃネガティブになってる。
こんなんじゃ応援団長をやり遂げられない。
俺は頬をパチンッと叩いて立ち上がった。
次は、いよいよ応援演舞だ。
椅子に掛けていた学ランを着て、長いはちまきを巻いてテントを出る。
「眩し……」
太陽の光を直接受け、目を細める。
けれど、そこには笑顔で俺を見るクラスの男子たちがいた。
「一条くん、早くおいで」
石川に手招きされ駆け寄る。
ポンっポンっとみんなに背中を押され、練習通り列の真ん中に立った。
両手を後ろで組み、大きく息を吸う。
「一年B組! 勇往邁進ー!」
できる限りの声を出し、すぐに首に掛けたホイッスルを咥える。
ピーという音と共に男子生徒たちが隊列を組み、手を突き上げ腰を落とす。
うん。練習通りできている。
むしろ、アドレナリンがでているのかいつもより身体が軽い気がする。
ピー、ピッ、とホイッスルを鳴らし、腕を振り上げ腰を逸らす。
やっぱり、しんどいかも。
ホイッスルって、けっこう肺活量いるんだよな。
呼吸の苦しさを感じながらも、間違わないように、後ろにいるクラスメイトたちの掛け声をききながら表情を引き締める。
ふと隣のクラスのテントに目をやると、結斗が真っ直ぐに俺を見ていた。
きっと心配しているんだろうな。
額には汗が滲み、身体はどうやって動かしているのか感覚がない。
それでも一心不乱に腕を振り、最後のホイッスルを吹き上げた。
ピーーーーーーーー
吹いた瞬間、体の力が抜けた。
石川がすぐに支えてくれて、テントに戻る。
「どうしたの一条くん、フラフラだしすごく熱いよ。絶対に熱あるでしょ」
「あー、バレたか」
笑ってみせたけど、そのまま保健室へと連れて行かれた。
保健の先生はグランドの救護テントにいるので保健室にはいない。
ベッドまで支えられ、ゆっくりと下ろされた。
「とりあえず、寝といてよ」
「でも俺、午後から障害物競走があるんだけど」
「僕が代わりに出ておくよ」
石川は爽やかな笑顔でニカッと笑い、保健室を出ていった。
俺は靴を脱いでベッドに横になる。
目を閉じてみると、びっくりするくらいの眠気が襲ってきて、もう目を開けることはできなかった。


