②
約束のアイス自動販売機に立ち寄り、じっと商品表示を見つめる。何を選ぼうか迷う。
悩んだ末に僕はチョコミントを選んだ。和田君はソーダ味だ。二人で冷たいアイスを手にして、自転車置き場の花壇に座った。お決まりの場所になった自転車置き場の花壇だ。
「まだ暑いな~。アイス日和だ」
和田君がパクリとアイスにかぶりついた。友達と、アイス。これまで想像もしなかった。僕の生活でこんなことが起きるなんて。好きなチョコミント味をペロリと舐めた。アイスってこんなに美味しかったかな、と不思議に思った。
「うっま! 最高!」
「うん。冷たいね。美味しい」
パクパク食べる和田君を見つめた。
「おい、影山、垂れてる!」
僕のアイスが手に垂れてきていた。
「あ、大変っ」
慌てて手の位置を遠くにした。必死に溶け始めているところを舐めた。
和田君が、さっとティッシュを出して、僕の手を拭いてくれた。
横を見ると、自分のアイスを口に咥えている。置くところがないから口なのだろう。そんな姿も様になっている。かっこいい、な。僕が見てもそう思う。和田君がモテるのが良く分かる。
「あとで洗おっか。とりあず、これでいい?」
「充分だよ。ありがとう」
拭いても取れないベタベタに二人で笑った。
花壇にはパンジーが咲いている。風に揺れて、花と土の匂いが届く。静かな時間が流れる。
二人でここに座ることにもう慣れた。話をするのも、静かな沈黙も、和田君とは苦痛じゃない。和田君が大学生のお姉ちゃんと二人兄弟で、僕は一人っ子だと話す。そんな会話がすごく楽しい。
ふわりと風が吹き、僕の前髪が大きく分かれた。そんな僕の顔を和田君が見つめている。
照れ笑いして髪を戻そうとするが、手がベトベトだった。しばらくいいか、とそのままにした。
「そういえば、和田君のお爺さん、手に入れ墨があるんだね」
「ああ。見た?」
「うん。初めてお爺さんに会ったときに。僕、入れ墨ってヤクザがするものだと思っていたから、悲しい入れ墨なんだって知って驚いたんだ」
「ジイさんと話してたのって、その話?」
「うん」
「俺は親から聞いたけど、戦争のせいでできた痣みたいなものって聞いたよ。詳しくは知らない。ジイさんにとって良いものではないから、直接聞いちゃだめって言われてる」
和田君がアイスを食べ終えて、手をティッシュで拭く。
「なあ、ジイさん、何て言ってた?」
「手の入れ墨は、シベリア抑留の時にソ連の人に勝手に彫られてしまったんだって。今でも鉄道作業の夢を見るって言っていたよ」
「ふぅん」
風がふわりと流れる。
「影山、どう思った?」
和田君は、まっすぐな目で僕を見ている。
「……僕は、お爺さんが辛い話を、優しい顔で話してくれたことが心に残った、かな。もう痛くないよってニッコリしてくれた顔は、優しかったよ。家でシベリア抑留を調べて泣いちゃった。多分、そんな簡単な一言じゃすまないんだろうけど、心に、残ったよ」
僕をじっと見る和田君。何だろう。変な事を言ってしまったのかもしれない。少し不安になる。しばらく沈黙が流れた後で、フハっと和田君が笑った。
「あー、ジイさんに感謝だな。ジイさんが話してなきゃ、俺はヤクザの孫だって思われてたか」
「え、あの。ごめん」
焦ってしまい、謝ってしまった。
「なんで謝るんだよ。面白いなぁ。あのさ、ジイさん一緒に暮らしてても、戦争の話は絶対しなかったんだ。小学校とかで戦争のこと授業でやるじゃん。それとかも、絶対協力してくれないの。なんでだよって思っていたけど、ジイさんの中では、まだまだ苦しさが続いてたのかな。俺は、色々と、不出来なひ孫だ」
空を見上げている和田君の目に涙が滲んでいた。
「影山が、心に残ったって言ってくれたこと、俺、忘れない」
一筋だけ綺麗な涙を流した和田君は、袖でグイっと顔を拭った。僕は、どうしていいのか分からなかった。
「さて、ごみ捨てて、手、洗ってくるか」
僕を見る和田君の顔は、輝く笑顔だった。
チョコミントは食べ物の色じゃない、と話しながら手を洗った。それでも美味しいことを伝えるが、僕の語力ではなかなか伝わらない。
じゃあ、来週も晴れていたらアイスにしようと約束する。新しい約束だ。嬉しくて心臓がソワソワしだす。
晴れた空を見て、まだまだ暑さが続くように願った。
約束のアイス自動販売機に立ち寄り、じっと商品表示を見つめる。何を選ぼうか迷う。
悩んだ末に僕はチョコミントを選んだ。和田君はソーダ味だ。二人で冷たいアイスを手にして、自転車置き場の花壇に座った。お決まりの場所になった自転車置き場の花壇だ。
「まだ暑いな~。アイス日和だ」
和田君がパクリとアイスにかぶりついた。友達と、アイス。これまで想像もしなかった。僕の生活でこんなことが起きるなんて。好きなチョコミント味をペロリと舐めた。アイスってこんなに美味しかったかな、と不思議に思った。
「うっま! 最高!」
「うん。冷たいね。美味しい」
パクパク食べる和田君を見つめた。
「おい、影山、垂れてる!」
僕のアイスが手に垂れてきていた。
「あ、大変っ」
慌てて手の位置を遠くにした。必死に溶け始めているところを舐めた。
和田君が、さっとティッシュを出して、僕の手を拭いてくれた。
横を見ると、自分のアイスを口に咥えている。置くところがないから口なのだろう。そんな姿も様になっている。かっこいい、な。僕が見てもそう思う。和田君がモテるのが良く分かる。
「あとで洗おっか。とりあず、これでいい?」
「充分だよ。ありがとう」
拭いても取れないベタベタに二人で笑った。
花壇にはパンジーが咲いている。風に揺れて、花と土の匂いが届く。静かな時間が流れる。
二人でここに座ることにもう慣れた。話をするのも、静かな沈黙も、和田君とは苦痛じゃない。和田君が大学生のお姉ちゃんと二人兄弟で、僕は一人っ子だと話す。そんな会話がすごく楽しい。
ふわりと風が吹き、僕の前髪が大きく分かれた。そんな僕の顔を和田君が見つめている。
照れ笑いして髪を戻そうとするが、手がベトベトだった。しばらくいいか、とそのままにした。
「そういえば、和田君のお爺さん、手に入れ墨があるんだね」
「ああ。見た?」
「うん。初めてお爺さんに会ったときに。僕、入れ墨ってヤクザがするものだと思っていたから、悲しい入れ墨なんだって知って驚いたんだ」
「ジイさんと話してたのって、その話?」
「うん」
「俺は親から聞いたけど、戦争のせいでできた痣みたいなものって聞いたよ。詳しくは知らない。ジイさんにとって良いものではないから、直接聞いちゃだめって言われてる」
和田君がアイスを食べ終えて、手をティッシュで拭く。
「なあ、ジイさん、何て言ってた?」
「手の入れ墨は、シベリア抑留の時にソ連の人に勝手に彫られてしまったんだって。今でも鉄道作業の夢を見るって言っていたよ」
「ふぅん」
風がふわりと流れる。
「影山、どう思った?」
和田君は、まっすぐな目で僕を見ている。
「……僕は、お爺さんが辛い話を、優しい顔で話してくれたことが心に残った、かな。もう痛くないよってニッコリしてくれた顔は、優しかったよ。家でシベリア抑留を調べて泣いちゃった。多分、そんな簡単な一言じゃすまないんだろうけど、心に、残ったよ」
僕をじっと見る和田君。何だろう。変な事を言ってしまったのかもしれない。少し不安になる。しばらく沈黙が流れた後で、フハっと和田君が笑った。
「あー、ジイさんに感謝だな。ジイさんが話してなきゃ、俺はヤクザの孫だって思われてたか」
「え、あの。ごめん」
焦ってしまい、謝ってしまった。
「なんで謝るんだよ。面白いなぁ。あのさ、ジイさん一緒に暮らしてても、戦争の話は絶対しなかったんだ。小学校とかで戦争のこと授業でやるじゃん。それとかも、絶対協力してくれないの。なんでだよって思っていたけど、ジイさんの中では、まだまだ苦しさが続いてたのかな。俺は、色々と、不出来なひ孫だ」
空を見上げている和田君の目に涙が滲んでいた。
「影山が、心に残ったって言ってくれたこと、俺、忘れない」
一筋だけ綺麗な涙を流した和田君は、袖でグイっと顔を拭った。僕は、どうしていいのか分からなかった。
「さて、ごみ捨てて、手、洗ってくるか」
僕を見る和田君の顔は、輝く笑顔だった。
チョコミントは食べ物の色じゃない、と話しながら手を洗った。それでも美味しいことを伝えるが、僕の語力ではなかなか伝わらない。
じゃあ、来週も晴れていたらアイスにしようと約束する。新しい約束だ。嬉しくて心臓がソワソワしだす。
晴れた空を見て、まだまだ暑さが続くように願った。


