晴れ空と太陽と、君と僕

Ⅲ 友情と妬み

 僕は和田君と学校でも挨拶や会話をするようになった。

 おはよう、と声を掛け合う事がこんなに嬉しいなんて知らなかった。床か空を見ていた僕に、見ても許される存在ができた。
 今日も友達と話している和田君を見つめる。和田君は周りの友達の話を良く聞いている。タイミングよく話を盛り上げている。
 沢山は喋っていないのに会話を仕切っているのは和田君だと分かる。目が広くて全体を把握している。

 それに、これまで周囲を見ていなかったから気が付かなかったけれど、僕みたいな存在に悪意を持っている人ばかりじゃないようだ。
 どちらかというと、僕をそっとしてくれている人が多いように思った。目線を上げることで見えてきたこともあるし、和田君を見ることで「キョロキョロしてんなよ、キモイ」と悪口が飛ぶこともあった。そんな時は、すぐに下を向くようにする。
 クラスの一部分の人にとって僕が底辺の存在なのは確かだ。でも、クラスの皆が怖いわけじゃないと分かった。少し心が穏やかになれた。

 毎週水曜日に和田君と介護施設へ一緒に行く。これは、いつの間にか僕と和田君の恒例行事になっている。
 十月だけどまだ暑い。施設の一階にあるアイスの自動販売機前で和田君が足を止めた。

「今日、帰りにアイス食べてかない?」
 和田君の声にドキッとする。僕は夏に、いつも食べたいと思っていた。でも一人でアイスなんて恥ずかしくて買えなかった。いつも眺めるだけの自動販売機。それを和田君に誘ってもらえた。嬉しくて仕方ない。心臓が目の前まで跳ね上がるようだ。
「うん。暑いよね。食べたい」
 頬が熱くなりながら返事をした。
「かーわいい」
 急に頬をなでられた。和田君はスキンシップが多い。たれ目が細くなって、愛おしそうに触れるから、僕の胸は早鐘を打つ。何も言い返せず、ただ顔が熱くなってしまう。そんな自分が恥ずかしい。

 
 今日のお爺さんは起きていて、ニコニコしていた。和田君が誰か分かっていない様子だった。声をかけても、「そうか、そうか」しか言わない。「いつものことだよ」と和田君は言う。
 何回か一緒に来ているが、起きていたのは二回だけ。時間の流れが僕たちとは違うように感じた。

 和田君のお爺さんは、寝顔も起きている顔も穏やか。その顔を見て、目元の穏やかさと、口元がきれいに左右対称に上がる微笑みが和田君と似ていると感じた。僕と話して以降、お爺さんが長く話すことはない。
 僕はまだ、桜の入れ墨の話を和田君にできていない。

 僕のお祖母ちゃんのとこにも和田君は一緒に立ち寄る。お祖母ちゃんは和田君が来ると喜ぶ。僕の友達として歓迎してくれる。くすぐったい。和田君は『友達』と呼ばれて否定しない。優しいなぁと思う。

(今日は、このあとアイス食べるんだよ)
 そうお祖母ちゃんに言いたくてウズウズした。
「今日はなんだか楽しそうねぇ」
 お祖母ちゃんに言われて、和田君と顔を合わせて笑ってしまった。お祖母ちゃんに言いたいのに、言ったら勿体ないような気もする。どうしようか迷ってしまった。
「二人の内緒、なのね」
 お祖母ちゃんが察したように穏やかな顔をした。
「そーです」
 和田君がいたずらっぽい笑いを浮かべた。二人の秘密、という特別な言葉がくすぐったくて僕も笑顔になる。
 お祖母ちゃんの部屋がフワッと明るくなったように見えた。