晴れ空と太陽と、君と僕


 公立高校二年五組の教室。窓側から二列目の前から七番目が僕の席だ。休憩時間を自分の机で過ごしていると、華やかな女子グループが近くに来た。嫌な予感がして僕は身体を硬くした。

「もう、ほんっとキモいよね」
 身体がビクっと反応してしまう。僕の事だ。こんな時は自分の席で下を向く。どんな些細な動きもしないほうがいい。
 少しでも動くと悪口が増幅すると、僕は知っている。
「わかるぅ。チビでぇ、ガリでぇ、キモイ。最悪」
 クスクス笑いと、わざと聞こえるように言う言葉。気にしないって思っても、どうしても耳が拾ってしまう。

 そんな時は、心で空を見る。今日は洗濯物が良く乾くかな、取り入れるときの匂いが最高だろうな、と良いことを沢山思い浮かべる。苦しい気持ちが紛れる様に願いを込めて。

 一人でいることに慣れていても、悪口に何も感じないわけじゃない。強くて一人でいる人もいるだろう。でも、仕方なく一人でいる人だっているのだ。
 聞きたくなくても心に届く嘲笑に汗が滲む。深呼吸をして嫌な気持ちが外に漏れないように大きな蓋をイメージする。

(僕は誰とも関わりがないように気を付けているじゃないか。どうか放っておいて。お願いだから)
 そっと心で願う。
 学校は苦手だ。早く放課後になって欲しい。


 放課後。僕は介護施設に入っているお祖母ちゃんに会いに行く。

 学校から自転車で十五分走るとポツンと見えてくる茶色いレンガ風建物。その建物側面に面した駐輪場に自転車を止めた。
 建物の周りにはレンガ調コンクリートで花壇がたくさん作られていて、花が咲くといい匂いがする。施設の一階は介護用品や日用品を売っている売店がある。

 お祖母ちゃんたち入所者居住スペースは二階より上にある。僕は警備員さんにぺこりとお辞儀をして、家族証明カードを首から下げて自動ドアを通った。
 お祖母ちゃんは二階の個室にいる。いつも僕を歓迎してニコニコしてくれる。その優しい顔を見ると、僕の心がホッコリ満たされる。お祖母ちゃんの顔をちゃんと見たいから、ここでは前髪を分けて顔を出す。こうすると目の前が開けて視界がスッキリだ。

 お祖母ちゃんは僕の目が好きだと言ってくれる。そう言われれば嬉しい。お祖母ちゃんは僕の心をいつもチンしてくれる。

 僕は楽しい話は出来ないし、静かに傍にいるだけ。それでも、毎回「また来てね。ありがとう」と言ってくれる。
 また来ていいかなって僕が言いたいのに、先に温かい言葉をくれる。僕の欲しい言葉も、欲しい温かさもくれる。

 ――ここには、僕の居場所がある。