晴れ空と太陽と、君と僕


 井上さんと話をした翌週。和田君に勧められて髪の毛を切った。前髪が短くなり常に視界が開けている。少し恥ずかしい。

「思い切ったのね。髪、どうしたの?」
 教室で井上さんから話しかけられる。あれから、僕と和田君は井上さんと普通に話すことにしている。
「和田君の知り合いの美容院で切ってもらったんだ」
 朝から他のクラスメイトにも声をかけてもらって、髪の話題でのぼせそうだ。
「すごく素敵。影山君の表情が見えて嬉しいな」
 表情が見えるのか。考えていなかった。赤面してしまう。

「井上さん、女性らしく恥じらいを覚えてくれるかな? じろじろ見ないでくれ」
 すぐに和田君が機嫌の悪い声を出す。
「あら、ガッチャン。今の世の中、そんな発言は良くないわ。ジェンダーレスに反するわよ。それに綺麗なものは見たいのよ」
「くそう。いちいち言葉がまともすぎて反論できない!」
 三人で話すようになり、井上さんは頭が切れるタイプだと分かった。和田君ともやりあえる。こうなると、もう僕は間に入れない。井上さんは、周りに人が集まってきていたと自負するだけはあるなぁと納得する。

「そうだ。これ、お祖母ちゃんに届けてもらえる?」
 井上さんが僕にレースのコースターを渡してきた。
「これ何?」
「レース編み。お母さんに教わったの。影山君のお祖母ちゃんに、何か出来ないかなって思って。まだ、へたくそなんだけど。やっと一個できたの」
 照れながら話す井上さん。お化粧している彼女から想像できない繊細なレース。透明なラッピングに入ったレースのコースターと井上さんを見比べる。
「やだ、じっと見たら恥ずかしい」
「すごく上手。器用なんだね」
「小学生の頃は編み物とか好きだったの。でも、外で遊ぶ時間が多くなってやらなくなっていたの。最近、ほら、あたし時間あるから」
「まぁ、そりゃ自業自得だけどな」
 すかさずツッコむ和田君。最近この二人は切込みの激しい会話をする。傍に居てハラハラする。

 そんな僕たちをみて、クラスの皆が少しずつ井上さんに優しくなっている。きっと皆、こんな空気は嫌だと思っていたんだ。だけど、きっかけがないと変われないんだ。僕に和田君がいて良かった。空気をかえる風を起こしてくれたように思う。
 手の中のレース編みを見て、お祖母ちゃん喜ぶだろうな、と嬉しくなった。



 三学期がもうじき終わる。学校では、井上さんと仲の良かった三人がまた井上さんと一緒に居るようになった。井上さんたちのグループは、人の悪口を言わなくなった。それでも仲良く楽しそうにしている。僕と和田君とも変わらず話をする。
 心の底から嬉しかった。みんなの氷のトゲを和田君が溶かしてくれた。

「和田君は、太陽だね」って話したら、「じゃ、影山は空だな」って返された。
 なんで空なのだろうと、分からず笑う。僕は太陽に憧れる日陰の雑草じゃないかな。
 でも、僕が空なら太陽の和田君が僕のもとにいつも居てくれるんだ。それなら空もいい。太陽が映える青空でありたい。そして、夜は太陽がゆっくり休める暗闇の空になるんだ。

 ――僕は、和田君が特別に好きだ。

 その想いを胸に秘めて、晴れ空を見上げた。

    〈完〉