②
自宅と病院の往復をする一週間を過ぎた。一週間で後頭部の縫ってある糸がとれた。
骨折は二週間後のレントゲン検査まで通院は無い。
のんびり過ごしているうちに、怪我をしてから十五日が過ぎた。学校に行くタイミングを逃してしまい、ここまで休んだままだ。
両親ともに「学校に行け」と急かしてくる事が無く日々が流れている。僕の一日は、勉強と、ゲームと、漫画と読書。一歩も外に出ないと、曜日感覚がなくなってくる。そして、飽きてくる。
毎日、和田君の顔が浮かんだ。声が聴きたかった。ケータイの連絡先を聞いておけば良かった。いや、聞いても電話する勇気など僕にはない。
――顔が見たいな。和田君の、迷いのないまっすぐな瞳が見たい。
左腕が固定されているから自転車は無理だ。けれど、バスなら学校に行ける。和田君に会いに行きたい。
じわじわと気持ちが決まってきた。
「学校、行くよ」
夕食のときに母さんに伝えた。
「まだいいじゃない」
母さんが困った顔をする。学校に行くと言って困った顔をされると思わなかった。
「ねぇ、修。あなた、いじめられているんじゃないの?」
「え? そんなこと、ない、と思うけど」
首をかしげた。ちょっと悪口はあるけれど、いじめと言うほどではない。
「あの、多分、好かれてはいないかな。僕、こんなだし。でも、親切にしてくれる、友達が一人出来たよ」
友達と自分で言うのが恥ずかしい。
「和田君って子?」
「お母さん知ってるの?」
「病院で付き添ってくれていた子でしょ。家にも何回も来ているのよ。ただ、クラスの子に階段から落とされたみたいだから、誰も信用できなくて、家にあげていないのよ」
「和田君、来てくれてたんだ。会いたかったな」
嬉しくて胸がジワッと温まる。
「そう、お友達、出来ていたのね。少し安心したわ。井上さんって女の子は、お友達なの?」
返事が出来なくて、下を向く。
「病院にも、家にも両親と来たのよ。怪我を負わせてしまいましたって泣きながら謝られたわ。とっても許せるような心情じゃなくて、話をしていないけれど」
「あ、そうなんだ……」
和田君には会いたいけれど、井上さんに会うのは怖い。
「修、気持ちが落ち着いたら、話してくれる? あなたの話を聞いて、それから井上さんのご両親や先生方と話をしようと思っているの。修の親として、きちんと話はするわ。今は時間を下さいってお願いしてあるの」
僕の言葉を聞こうとしてくれている。これまでにない母さんの言葉に驚いた。先生との話などは任せたいと思った。
「やっぱり、学校行こうかな。えっと、和田君に、ありがとうって言いたい」
「嫌なら、転校でもいいからね。お母さんは、修が大切だから。こんな大怪我までして無理しなくていいの。修を失うかと思ったらお母さん、怖かったの」
母さんは色々心配してくれたのだ。そう思うと申し訳なさが押し寄せる。
「うん。ありがとう。心配かけてごめんなさい」
いつもは言えない分も、気持ちを込めて伝えた。
怪我から十七日目。いつもの登校より早い時間。腕が治るまではバス通学だ。
左腕はまだ固定をしていて首から吊っている。そのせいで制服の袖が通らない。
大きなサイズの白シャツで代用して、ブレザーは片袖しか通さず前ボタンで留めている。これが、意外と温かい。
玄関に立つと空気が冷たくなっているのを肌で感じる。
右肩にカバンを持った。
(うん、行ける! 大丈夫!)
そう自分に声を掛けた。半月以上ぶりの学校だ。少し緊張する。
「行ってきます」
気合いを入れて玄関を出ると、そこには和田君がいた。


