Ⅰ　陰キャ男子
①
　僕はなかなかの変わり者らしい。

　そう自覚してからは自分の世界で生きている。好きなことは毎日の洗濯。
　朝、好きな香りの洗濯洗剤で洗濯をする。日当たりのいい場所に干して、帰宅したら洗濯を取り込み、きれいにたたむ。僕にとってはワクワクする事なのだけど、この喜びを共有できる相手が周囲にいない。

　十七歳高校生男子には理解してもらえない。

　僕は昔から身体が小さいほうだ。高校二年で、百六十センチにやっと届く身長。運動は全くダメで筋肉がついていない。自信がなくて猫背になってしまう。いつも隠れていたいから、髪は目の下までの長い前髪。下を向けば、この髪が僕を守ってくれる。

　幼少期。小さいからといって貧弱になるな、と空手教室に通わせられた。
　空手教室、そこは地獄だった。僕は汚れが落ちていない服の匂いが気になる。人によっては空手着を生乾きで着てくる子もいる。

「しっかり乾かさないと、汚れの匂いがするよ」
　その子の親に言ったら、失礼な子だと僕の両親に苦情が入った。でもどうしても気になる。

　あまりに道着のことを言うから、しばらくして空手はやめさせられた。運動は嫌いだからちょうどよかった。

　次に地元のサッカー少年団に入れさせられた。空手以上の苦痛だった。
「なんで汗の匂いが洗濯でとれないの？　おかしいよ」
　そうチームの子に訴えて嫌われた。
「嫌いとかじゃないんだって。匂いだけ気になるんだ」
　懸命に伝えてもダメだった。

　悪口じゃないと説明したけれど分かってもらえなかった。結局、両親と謝罪をしてサッカーもやめた。

　意地悪はしていない、と親に言った。素直な気持ちを伝えただけだ。それが何故いけないのか分からない。
「あなたはちょっとズレてるのね」
　母さんは寂しそうに言った。
（そうか、みんなとズレているのか。僕は変なのか。僕のせいでお母さんは悲しそうな顔をしているのか。それなら僕は黙っていよう）
　そう考えた。

　できるだけクラスで気になる服の子から距離をとった。それは僕にできる最善策だと思った。
　そう思ったのに。
「俺さぁ、避けられてんだよ。これ、嫌がらせだって」
「私もそれ思ってた！」
「あ、俺も」
　クラスメイトから嫌がらせだと指摘されてしまった。

　僕は自分の行動をうまく説明ができなかった。

　すると、クラスみんなから『意地悪な子』という烙印を押されてしまった。僕は悪口や無視の対象にされた。
　悲しかった。辛かった。どうすればよかったのか分からなかった。
　僕はこの状況に一人耐えることしかできなかった。

　この頃から僕は前髪を長くして下を向き、自分の殻に閉じこもるようになった。
　そうして洗濯を趣味にする今の僕が出来上がっていった。陰キャと言われようが、我慢して友達を作るより苦しくない。