スポコン・ファイト!

 
 ここは豊かな自然が多い街”グリーンピース・タウン”。
 時刻は昼の3時、この街の小学校”グローバ小学校”の小学生達は帰宅時であった。
 
 5-4組の”洞道 ケン”は教育用ダブレットを鞄に入れて、教室から急ぐように出ていった。なぜ急ぐように出ていったのか、それは新しくダウンロードしたゲーム”ダン・モン”をやるためだ。

 ダン・モンとはダンジョンにいるモンスターを捕まえて仲間にし、ダンジョン最下部で待ち構えているラスボスを打ち倒すというRPGである。このゲームのためにケンは親の手伝いをし、テストは必ず百点を取ってみせ、お金をコツコツと貯めていった……そしてその成果が報われた。ようやっとの思いでこのゲームを手に入れたのだ!もうケンは早くゲームがやりたい!とその気持ちに拍車が掛かり、駆け足になっていく。教室から飛び出て廊下を走り抜けていったためあっという間に下駄箱に着いたケンは、履いていた上履きから靴へとさっさと履き替えた。
ケンはさっきとは変わらない足の速さで校門を駆け抜けていった。

 学校から出て車道側まで走ってきたケンは、信号手前で止まった。

 歩行器のボタンを押して赤が青になるまでケンは待っていたが、待つ時間すらももどかしかった。
 急いで帰宅したいケンは近道を通ることに決めた。ケンの自宅は通常で通っている学校のルートは少し遠い。

 なぜなら、途中で長い川の橋を渡らなければならないからだ。
 しかも、信号は2回も通らなければならない。真面目に帰るとなれば、ゲームする時間が減ってしまう。
 
 そんなのは嫌だ、少しでも早く進めてレベルを上げたいとケンは思っていた。
 近道のルートはこの信号を通って真っ直ぐ進んで行ったところ十字路に出る。
 そこから右折して進んで行くと川通りに出るがそこには中間を通るための歩行者専用の橋がある。
 そこの橋を渡れば、ケンの自宅がある住宅地に出るのだ。

 信号は1回しか通らないし、歩行者専用ならそのまま突っ走っていけて時間ロスも免れる。

 これならいけるとケンは確信した。信号が青になった途端、ケンはスタートダッシュを決めて走り出した。
 予想した近道のルート通り真っ直ぐに走って行き、十字路に出る。
 そこからケンは右折して川通りまで止まらないまま突っ走っていった。
 目の前には歩行者専用の橋が見える。よしこのまま行こうとケンは止まらずに川通りへと出た。

 ……が、横から大きなクラクションが鳴り響いた。
 
 そっちにケンは顔を向けると大きな運搬車がこちらに向かっていたのだ。
 ケンは急な出来ことに走っていた足を止めてしまった。
 動物がどうして車にはねられるのか、ケンはよく分からなかったが今の自分の状況を考えて理解した。

 まるで地面に足が縛られているように動けないでいるケンは、こちらへ突っ込んでくる運搬車をただ見つめることしかできなかった。
 
 あともう少しで、ぶつかる。ケンは、そう思った。
 その瞬間であった――。
 
 「あぶない!」
 
 ケンは後ろから誰かに思いっきり突き飛ばされた。

 そしてそのまま急な坂を転げ落ち、川近くの土手でようやっと止まった。
 さっきまで動けなかったケンは呪縛が解かれたように動き出し、起き上がって川通りの方を見上げた。
 ぶつかりそうになっていた運搬車は、そのまま川通りを通って走り去ってしまった。

 あともう少し遅ければ自分はあの運搬車に轢かれてたかもしれない……。
 そこまで想像して、やめることにした。
 
 ケンは自分を助けてくれた相手に礼を言おうと、相手側へ振り返った。
 だが、その相手は――。
 
 「えっ、ロボット!?」
 
 ケンを助けてくれたその相手とは、白と黒のボディカラーが特徴なロボットであった。
 ロボットは自分の身体に付いた土埃を払うと、ケンに近づいて怪我はないかと確認をしてきた。
 ケンは何も言わず黙ってその行動を見ていると、ロボットは確認し終えたのか安心したような表情を見せた。

 ロボットはケンに落ち着いた声で説教をした。

 「まったく、あともう少し遅ければ君は轢かれるところだったんだぞ。もっと気を付けて帰るんだ」
 「ご、ごめんなさい……さっきは助けてくれてありがとう、君は?」
 「ん?俺か?」
 
 ケンはロボットの名前を聞いた。呼び止められたロボットは、ケンに向き直り自己紹介をした。
 
 「俺の名はバッター、君の名は?」
 「僕はケン。洞道 ケンだよ」
 「ケン……」
 
 バッターとケンが自己紹介をしていると、背後の方から大きな声が響いた。
 
 「見つけたぞ!バッター!」
 
 声のした方へ振り向くとそこには大型のロボットが仁王立ちをしてケン達を見下ろしていた。
 そしてその大型のロボットは足に力一杯踏み入れると、大きく跳躍をしあっという間にケン達の前へ立ちふさがった。
 圧倒的な圧迫感にケンは怯え、逃げ込むようにバッターの背後へと隠れる。バッターは険しい目で、その大型ロボットを睨み続けていた。
 
 バッターの背後から覗くように大型ロボットを見ていると、大型ロボットと視線があってしまった。
 ケンはあまりの怖さに小さな悲鳴を零す。
 
 「おい、人間!」
 「ひっ!な、なに……」
 「スポコンを知らないのか?」
 「知らないよ、そんなの……今日初めて知ったし」
 「何だと!?いいか!スポコンというのは――」
 
 "スポコン"とは――。
 
 世界遺産協会がスポーツ協会と手を組み製造したスポーツ型ロボット、その名もスポコン。
 スポコンは様々な種類がおり、野球、サッカー、柔道、ボクシング……等々、多くのスポコンが多く存在している。
 マネージャーといわれる人間、つまりスポコン・ファイター(マネージャー)となって選手と言われるスポコンと手を組みスポコン・ファイトを行うことができるのだ。
 
 「そしてこの俺、タンクは力士型スポコンだ。スポコンについて理解したか?」
 「うん、教えてくれてありがとう」
 「ふっ、いいってことよ……」
 
 もしかして、いい奴なのでは……?と、ケンが考えているとタンクは突然真剣な眼差し見つめてきた。
 ケンはなんだか嫌な予感がした。
 
 「なあ、人間」
 「なに?」
 「俺のマネージャーになってくれないか」
 「ええ!?」
 「待てえええ!」
 
 ケンの絶叫を遮るようにバッターが割り込んできた。
 
 「ケンは俺のマネージャーになるんだ。勝手なことを言うな!」
 「お前に言われたくはない!」
 
 バッターはそんなケンを気にせず、振り返り差し迫った。
 
 「こうなったらケン、君が決めるんだ」
 「なんで!?」
 「そうだ、こうなってしまっては仕方がない。人間、お前が決めるんだ」
 
 勝手に流れていく話にケンは困る。
 というか、いつマネージャーになることが決まったのだろうか?まだ何も言っていないのに。
 
 目の前にいる二体から刺すような目がケンに向けられる。
 ケンはこの状況にうんざりした。
 どう断ろうかケンはなんとか絞り出そうと思考をこねぐりまわした。
  ――と、その時であった。

 空から大きなアームが伸びて目の前にいたタンクを強引に搔っ攫った。
 何が起きたのか上空を見上げると大型のドローンが浮遊していて、そのドローンからアームが出てタンクを捕らえていたのだ。
 タンクは突然のことに驚いたが、逃れようと力一杯もがいたがアームが強いのか、中々抜け出せない。
 
 「ケッケッケ、スポコンつーかまえた!」
 
 そう声がした方へ視線を移すと、川通りの通路に黒い衣服を纏い、謎のマスクを被った人物が操縦機みたいな物を持ってこちらを見ていた。
 間違いなく、こいつが犯人だと誰もが理解しただろう。ケンはその人物にやめるように告げた。
 
 「タンクが嫌がってるよ、やめてよ!」
 「ガキは黙ってろ、さあお前のパーツを回収してお金稼がせてもらうぜ!」
 「パーツだと……!?やめてくれ!」
 
 威勢がよかったあのタンクも自分がバラバラにされ、パーツとして売却されると理解するとより暴れて反抗を示したが、やはりアームはびくとも動かない。
 タンクは自分の力ではどうもできないと分かり、ケンに懇願するように助けを求めた。
 
 「頼むケン、助けてくれ!」
 
 ケンは何も出来ず、動けないでいた。
 自分に何ができるだろうか?小学生の自分に……。
 
 悪者に立ち向かうほどの勇気をケンは持っていなかった。
 ケンの気持ちは”恐怖”で満ちていて、早く誰か助けに来ないかとこの現状をどうにかして欲しかった。
 
 そうだ、自分は主人公なんかじゃない。
 素質や特殊能力とか得意なことも、何もない。
 ただの一般的でどこにでもいる小学生だ、カッコよく勇敢に立ち向かうなど出来ないのだ。
 
 ケンは現実から逃げるように視線を下へと向ける。
 戦うという恐怖、立ち向かえない無力感……複雑な感情が中に入り混じる。そんな自分が嫌で情けなくて、次第にケンの目元が熱くなるのを感じた。
 何もかも諦めてかけようとしていた――。
 
 が、ただ一人は諦めてはいなかった。いや一体であったか、その凛とした真っ直ぐな声は目の前の悪者に向かって戦いを挑むように声を張り上げた。
 
 そう、()()()のように。
 
 「待て!そいつを連れていくなら……この俺とバトルをして勝ってからにしろ!」
 「スポコンが俺に勝負だと?」
 
 悪者は馬鹿にしたように高らかに笑う。
 
 「マネージャーもいないお前に何ができるんだ?まさか、そこにいるガキがお前のマネージャーだっていうのか?」
 
 ケンはその視線に胸糞悪さを感じた。同時にフラッシュバックで嫌な記憶が甦ってくる……3年前の自分を虐めてた虐めっ子(あいつら)と同じ視線に。
 ケンは、噛みつくように答えた。
 
 「そうだ!僕がバッターのマネージャーだ!」
 「へー……それじゃ始めようぜ、スポコン・ファイトだ!」
 「いくぜ、ガントリー!」
 「おう、任せろ!」
 
 悪者は名を呼ぶと隣からバッターと同じ身長差のロボットが現れ、そのまま下り坂を飛び越えてバッターの目の前に立った。
 悪者と同じ顔つきで嫌な笑みを浮かべている。
 バッターはいつでも戦えるようにと戦闘態勢をとっている。
 道路にいた悪者も降りてきて相方のロボットの隣に来る。
 
 ケンも同じようにバッターの隣に並んだ。
 ケンは勢いで自分がマネージャーだと自称してしまったが、これから何をしたらいいのか分からず、ただバッターの隣で見ている。
 ケンの様子を察したのかバッターは背中に背負っていたバックパックのような収納庫から小型機械を取り出して、それを差し出した。

 「マネージャー専用のスポーツ・ウオッチだ。それを腕時計のように付けるんだ」
 
 不思議に思いながらもケンはスポーツ・ウオッチを言われた通りに身に着ける。
 
 すると、スポーツ・ウオッチに電源が入り起動した。
 メイン画面にはバッターのステータスが映し出されている。
 データによるとバッターは野球型のスポコンであり、スピードとパワー、バランス性に優れていて、どのスポーツも経験しているとそう書かれていた。
 バッターの情報は理解したが、この先どうしたらいいかケンが迷っているとバッターは先程の様に教えてくれた。
 
 「スポコン・ファイター同志が試合に挑む場合は、洗礼を誓う為の合言葉を言わなければならないんだ」 
 「合言葉?」
 
 バッターはケンに近寄り、こっそりと耳元でその合言葉を伝えた。
 伝え終わったバッターさっさと自分の元居た場所に戻る。
 ケンは教わった通りにスポーツ・ウオッチを口元近くに寄せた。
 悪者もその姿を見て、同じように口元に寄せる。
 
 そして双方は試合開始を行う為、スポーツ・ウオッチに向けて合言葉を叫んだ。
 
 「スポコン・ファイト!」
 
 そう叫ぶと上空からドローンとは違う謎のキューブ型が出現した。その場で回転しながら浮遊している。
 キューブは回転を止めると、キューブ頭上が割れだして中から何かを飛び出してきた。
 見てみるとそれは、試合で使う道具達であった。
 
 目の前に長い棒が対向的に地面に刺さり、その間にネットが張られる。そしてスポコン達のもとにラケットが降ってきた。バッターとガントリーは上手くラケットを掴む。キューブは元の形状に戻り、無機質な音声で点々と試合項目を告げた。
 
 「試合項目、バトミントン対決」
 「バトミントン……ってなに?」
 
 ケンはバトミントンと呼ばれる競技を知らなかった。
 その網が張ったようなもの(ラケット)でどうやるのだろうか、想像ができない。
 だけど大丈夫、自分にはバッターがいる。何とかなるだろうとケンはそう思った。
 でも、マネージャーなのに知らないのもどうかと思いケンはバッターにバトミントンのことを聞いた。
 
 「知らん」
 「ええ!?スポコンなのに知らないの!?」
 「俺は野球以外しかやったことないんでな」
 「そんな……」
 
 もしかして、最大のピンチなのでは?
 ケンは嫌な冷や汗を掻いているとは対照的に相手側の悪者達は勝利の確信を得たように高らかに笑い出した。
 
 「バトミントか、俺の得意分野だぜ!」
 「楽勝だな、ガントリー!」
 「全くだぜ、兄貴!」
 
 ガハガハと下品な笑い声をしている。
 相手の下品な笑いにイラついてる間に試合の準備が整い、試合開始の準備をしろとキューブが急がしてきた。
 
 もう、考えている暇はないとケンは諦めることにした。浮いているキューブから開始のホイッスルが鳴らされる。
 ホイッスルと同時にバッターはシャトルを上に投げ、シャトル目掛けてラケットを振った。
 打たれたシャトルは線を描くように真っ直ぐと相手コートにへと飛んでいく。綺麗なサーブであった。
 
 「バッターすごい!」
 「ふっ」
 
 ケンは何も知らないはずのバッターのサーブを見て、感動した。
 そんなことは相手には大したことではなかったのだろう。
 ガントリーはあっという間にそのシャトルをバッターとは反対側のコートにへと打ち返してきた。バッターは急いで走り、ギリギリでそのシャトルを打ち返す。
 
 そういった攻防が続いていくもガントリーの様子は余裕そのものだった。相変わってバッターはラリーを続けるのに必死だ。
 その様子を見てガントリーは不敵な笑みを浮かべて持っていたラケット側の手首を回転させた。
 バッターは()()がくると察したのか、コートの中央に行きラケットを構えて次の行動を待った。ガントリーはシャトルが間近に来た途端、回転しているラケットでシャトルを打ち返したのだ。

 「ドリル・スマッシュ!」
 
 ガントリーがそう叫んで打ち返したシャトルはさっきよりも勢いを増し、逆回転をしてそのままバッター側のコートへと入っていった。
 バッターも負けん気とそのシャトルを打ち返そうとした……が、それが良くなかった。
 
 「なっ……!」
 
 「ああ、網が!」
 
 逆回転をしたシャトルがドリルのように回転し、打ち返したラケットの網を突き破ってしまったのだ。
 網を突き破ったシャトルはコートにへと落ちていった。キューブから1回戦の終了を告げるホイッスルが鳴る。相手側に1ポイント、点数が入ってしまった。
 
 「そんな肝心の網が壊れちゃった……このままじゃ試合なんてできないよ!」
 「ねえ!新しいのに換えてもらえないの!」
 
 ケンはキューブに向かってバッターのラケットを新しいラケットに換えるようお願いしたが、キューブからの返答はなかった。向かい側からのコートから腹の立つ声が聞こえてきた。
 
 「無駄なことだ、キューブにもし申告するなら()()()()()が無ければならない。幾ら申告しようがまだ(ラケット)があるのなら、どのように言ったって意味がないんだよ」
 「そんな……それじゃこのまま(破けたまま)戦えっていうの?無理だよ!」
 「どうした?あんなに威勢よかったのに、もう弱気か?」
 
 またあの腹の立つ笑い声がしてきた。何度人をコケにしたら気が済むのか、どうしようもない状況にただ相手を睨みつける。それだけがケンにとっての精一杯の反抗であった。
 だが、肝心のラケットの網が破けてしまっている。打ったところでシャトルはラケットを通り過ぎるだけ。
 
 勝機は決まったものだと、ケンの中で悔しさが込み上げてくる。悔しさで目尻に涙が溜まり、視界がぼやけてきた。だが、バッターの真っ直ぐな声で涙が止まった。
 
 「大丈夫だケン、まだ勝負は終わっていない」
 
 真っ直ぐ言うバッターの表情はまだこの勝負を諦めていなかった。
 ケンは無理だというように顔を横に振った。
 
 「大丈夫、まだこいつは壊れていない」
 「え、でも……」
 
 大丈夫だと言ったバッターのラケットを見たが、やはり破けたままだ。
 それでも自信に満ちた表情をバッターは崩さない。
 状況は良くなってはいないのにどうしてそんなに自信満々なのか、ケンは分からなかった。その考えをバッターは読み取ったのだろう、ケンを安心するべくその自信の理由を話した。
 
 「俺を信じるんだケン、これはゲームだ」
 「ゲーム?」
 「そうだ、()()()()()()()なんだ!」
 「スポーツは……ゲーム」
 
 ゲーム。そうケンは、ゲームが大好きだ。
 その言葉を聞いた途端、ケンが今まで見ていた景色が違って見え始めた。試合を行っているフィールドも、バッター達も、ラケットも……全てが似ている。
 
 そうか、ゲームに置き換えてみればいいんだ!
 
 ケンの心境に変化が現れる、熱意だ。
 ゲームに対する熱意がメラメラと燃える炎のように沸き上がってきたのだ。主人公達のように特殊なものなど持ってはいない。けど、ゲームは大の得意だ。
 ゲームだとわかった途端、ケンは早速行動に移した。
 ゲームを知らないなら知ればいい、知りたいのなら調()()()()()()
 カバンの中にある教育用ダブレットを取り出してバトミントンについて調べ始めた。
 始めて知ることばかりだが、ケンはスルスルと情報を読み込んでみせた。やり方を理解すればこっちのもんだと、今度は自信に満ちた表情でバッターに返した。
 
 「心配かけちゃってゴメンねバッター、でももう大丈夫。僕、諦めたりしない」
 「二人でこのゲームを攻略しよう!」
 
 今まで暗かった表情から一変して自信に満ちているケンの瞳は輝いているようにバッターは見えた。
 やる気が溢れている二人を見て面白くないのか、唾を吐き捨てるかのように悪者は言う。
 
 「何が攻略しようってんだ、お前たちの状況は何1つ変わっちゃいねえーんだよ!」
 
 キューブから次の試合開始を告げるホイッスルが鳴った。
 
 「このまま畳み掛けろ、ガントリー!」
 「了解!」
 
 ガントリーはシャトルを高く投げ、狙いを定めて華麗なサーブを打った。
 コートに入ったシャトルを打ち返すためにバッターはラケットを構えるが、ガントリーはそれを無駄なことだと笑った。
 
 「はっ、無駄だ!お前のラケットは壊れて打ち返すことなど出来やしない!」
 「この勝負、俺の勝ちだ!」
 
 勝ち誇ったように勝利宣言を言ったガントリーだったが、バッターは怯まなかった。
 その表情は真っ直ぐとガントリーを見つめて、そしてフッと不敵な笑みをしたのだ。
 バッターはまだ網が残ってるラケットの先端で、軽くシャトルを打ち返した。するとシャトルはそのままガントリー側のコートのネット付近ギリギリぐらいにすっと入った。
 ガントリーはハッと気付き、慌ててシャトルを打ち返そうと走ったが、その時にはシャトルは落ちてしまい打ち返すことは出来なかった。
 
 2回目試合終了のホイッスルが鳴る。やっと、一点取り返してみせたのだ。
 
 「やった!一点取れたよ、すごいよバッター!」
 「教えてくれたケンのおかげさ」
 「まさか……噓だろ」
 「初心者のくせに、ヘアピンをしてくるとは……」

 ”ヘアピン”とは――。
 バトミントンの技の1つであり、相手のネット付近めかげて落とすショットのこと。相手のスマッシュを防ぐことかできる難易度の高い技である。なぜヘアピンと言われているかというと、女性が髪を止める時に使うヘアピンの形がその軌道と似ているため、名付けられたとのことだ。 これで相手チームとの点数が互角となった。
 あと一点、どちらかが取れればこの試合の勝利が決まる。
 今まで調子に乗っていた悪者もさすがに焦りを感じていた。
 そうこうしている間に浮上しているキューブから3回目の試合開始のホイッスルが鳴る。開始の合図が鳴ったと同時に悪者は大声をあげてガントリーに指示を出した。
 
 「調子に乗りやがって……ガントリー!とどめを刺してやれ!」
 
 ガントリーはシャトルを高く上げると、ラケットの持ち手を回転させた。
 ケンとバッターはそれを見て理解した。またあの技だ、彼らは本当にここらで決着(とどめ)をさす気なのだろう。バッターは1回戦の時と同じように中央で待ち構えて、シャトルが来るのを待った。ガントリーは容赦なく技を繰り出した。
 
 「食らいやがれ、ドリル・スマッシュ!」
 
 ドリルのように勢いを増して鋭くなったシャトルがバッターのコートにへと入ってきた。
 これで勝ったと、ガントリーと悪者はそう思った……だがその顔も驚愕の表情にへと一変する。
 
 何故ならバッターはラケットの持ち方を変えたのだ。
 そのフォームは(まさ)しく”野球”であった。そしてシャトルがバッターの近くにくるタイミングを計り、打つタイミングに合わせてバッターはラケットをフルスイングをした。
 見事タイミングがあったのであろう、金属にぶつかるような音が響いた。
 ガントリー達が驚いたのも当然だった、バッターの打っているところは網部分ではない、ラケットの角だ。
 
 バッターはシャトルを打ち返せないと分かっていたため、バットを振るようにラケットの角で打つことにしたのだ。
 ラケットを壊さんとドリルのようになったシャトルがラケットの表面を削るように押してくる。
 その力を相殺するようにバッターはラケットの持つ手に力を込め、相手側のコートに思いっ切りシャトルを打ち返した。
 まさか返ってくるとは思っていなかったガントリーは負けたくないと意地が出ていた。初心者に自分が負けるだなんて絶対に嫌だと、何としても勝ってみせるとバトミントン型スポコンの()()()()がそうはさせなかったのだ。
 ガントリーは急いでシャトルに走り、打ち返されたシャトルを打とうとした。
 
 が、打ったシャトルはガントリーのラケットを突き破り、そしてシャトルは地面にへとめり込んでいった。ガントリーは何が起きたのか理解出来なかった。それもそのはずだった、まさか自分の技がそのまま()()()()()とは、ガントリーのAIも予想が出来なっかたのだから。
 
 3回目試合終了のホイッスルが鳴った。キューブから試合結果が報告される。
 
 「ガントリー、1ポイント。バッター、2ポイント。」
 「おめでとうございます、ケンチームの勝利です。」
 「や……やったー!」
 
 はじめての勝利にケンは嬉しくてその場で大きくジャンプをした。バッターもまた、自分達の勝利を嚙みしめていた。一方して負けた悪者とガントリーは、まさか自分達が初心者に負けるとは思ってもいなかったらしく唖然とケン達を見つめることしか出来なった。

 「覚えてろよ!」
 「おい、ガントリーずらかるぞ!」

 悪者達はバッターとケンに向かい指をさして負け犬の遠吠えして逃げってった。
 
 こうしてタンクを無事救出したケンとバッターであった。

 この物語はスポコン道を極めた伝説のチームを作った監督”洞道 ケン”の武勇伝である。
多くのスポコン・ファイター(ライバル)達との出会い、そしてスポコンを暗躍する組織とは……?
現在失われようとしているスポーツに聖火()を灯すため、ケン達は走り出した――。