狐が饅頭を食べるとは知らなかった。いや、そんな事よりも教えて欲しい。オレに、そんなやっかいな呪いをかけたのは誰なんだ。そこまで人に怨まれるような事をした覚えはない。
「おい、待てよ」
手を伸ばそうとすると、泡が弾けるようにしてベールに包まれるように煙っていた部屋の空気が一瞬にして切り替わった。
「……えっ。あいつ、どこに消えた?」
ザーザー。まだ、外は雨。
どこかに狐の足跡でも残っていないか調べようとしてベッドから出る。フローリングを見回したが、狐がいた形跡はどこにもなかった。
勉強机の上には、母さんが握った大きな塩むすぴ。お皿の下にはメモが添えてあった。
『風邪をひいたみたいですね。何も食べていないみたいなので作っておきましたよ。気分が良くなったら食べて下さいね。水分もちゃんと補給して下さいね』
オレは熱にうなされて変な夢を見てしまったらしい。幸い、帰宅した頃に比べると呼吸が楽なっている。パンッと頬を両手で叩いた。そして、枕元の時計を見る。午前五時になったばかりだ。
荒唐無稽な内容なのに狐の甲高い声が脳裏に残っている。オレは母親が用意してくれたポカリスウェットを一気飲みしていく。身体の節々が痛い。
布団にもぐりこんだまま考える。たいていの夢は目覚めたら詳細を忘れてしまうのに狐の声か耳にこびりついている。
(オレが自殺したら、誰かが巻き添えを喰らうんだな)
死んだ気持ちで頑張れという言葉があるが、擬似体験した事で逆に何かか吹っ切れたような気がする。
☆
翌朝、母がお粥を部屋まで運んでくれた。
「あんた、夜中にすごい熱を出してうなされていたね。病院に行くかい? 仕事も一段落ついたからね。母さんが付き添ってあげるよ」
「ただの風邪だから平気だ。寝ていたら治るよ」
医療費も家計の負担になるから、なるべくなら行きたくない。幸い、あんなに高かった熱も三十七度まで下がっている。体温計を受け取ると、母さんは安堵したように口角を上げた。
「微熱になったけど油断は禁物よ。静かに休みなさい」
下膨れの優しい顔で微笑みながら慈しむように、スルリと高校生の息子の額を撫でた。
「あんたって子は強がってばかりなんだから……。本当に辛くなったら言いなさいよ。あっ、そうそう。制服、クリーニングに出しとくよ。雨に濡れて汚れてたね」
「雨の中で転んだんだ……」
母さん。ごめん。オレ、頑張るよ。
神様が仮想現実を見せてくれたのかもしれない。悪夢を体験したおかげで凋みきっていた気持ちが復活している。
後藤なんかに負けるもんか。オレが死んだら二度と白石に会えなくなってしまう。
「おい、待てよ」
手を伸ばそうとすると、泡が弾けるようにしてベールに包まれるように煙っていた部屋の空気が一瞬にして切り替わった。
「……えっ。あいつ、どこに消えた?」
ザーザー。まだ、外は雨。
どこかに狐の足跡でも残っていないか調べようとしてベッドから出る。フローリングを見回したが、狐がいた形跡はどこにもなかった。
勉強机の上には、母さんが握った大きな塩むすぴ。お皿の下にはメモが添えてあった。
『風邪をひいたみたいですね。何も食べていないみたいなので作っておきましたよ。気分が良くなったら食べて下さいね。水分もちゃんと補給して下さいね』
オレは熱にうなされて変な夢を見てしまったらしい。幸い、帰宅した頃に比べると呼吸が楽なっている。パンッと頬を両手で叩いた。そして、枕元の時計を見る。午前五時になったばかりだ。
荒唐無稽な内容なのに狐の甲高い声が脳裏に残っている。オレは母親が用意してくれたポカリスウェットを一気飲みしていく。身体の節々が痛い。
布団にもぐりこんだまま考える。たいていの夢は目覚めたら詳細を忘れてしまうのに狐の声か耳にこびりついている。
(オレが自殺したら、誰かが巻き添えを喰らうんだな)
死んだ気持ちで頑張れという言葉があるが、擬似体験した事で逆に何かか吹っ切れたような気がする。
☆
翌朝、母がお粥を部屋まで運んでくれた。
「あんた、夜中にすごい熱を出してうなされていたね。病院に行くかい? 仕事も一段落ついたからね。母さんが付き添ってあげるよ」
「ただの風邪だから平気だ。寝ていたら治るよ」
医療費も家計の負担になるから、なるべくなら行きたくない。幸い、あんなに高かった熱も三十七度まで下がっている。体温計を受け取ると、母さんは安堵したように口角を上げた。
「微熱になったけど油断は禁物よ。静かに休みなさい」
下膨れの優しい顔で微笑みながら慈しむように、スルリと高校生の息子の額を撫でた。
「あんたって子は強がってばかりなんだから……。本当に辛くなったら言いなさいよ。あっ、そうそう。制服、クリーニングに出しとくよ。雨に濡れて汚れてたね」
「雨の中で転んだんだ……」
母さん。ごめん。オレ、頑張るよ。
神様が仮想現実を見せてくれたのかもしれない。悪夢を体験したおかげで凋みきっていた気持ちが復活している。
後藤なんかに負けるもんか。オレが死んだら二度と白石に会えなくなってしまう。
