少年エレジー

「いいか。先刻の光景はもうひとつの世界なんだぜ。もしも、この先、おまえが自殺したら必ず誰かが巻き添えをくらって死ぬぜ。それが、おまえにかけられた呪いだ。どうだ。参ったか。これで、おまえにも呪いの仕組みが分かったよな?」

 うむ。なるほど。臨場感のある説明をしてもらったおかげでシステムは理解したと言いたいところなのだが……。

「そ、それなら、母さんに知られないように死ねばいいんじゃないのか?」

 例えば、こっそりと急行列車に飛び込めばいい。しかし、オレの心を見透かすように小生意気な狐が気障な顔つきで舌打ちした。

「よく聞きやがれ。おまえの巻き添えを喰らうのは家族だけとは限らないんだぜぇ~」

 トンッ。宙がえりして着地すると場面が変化していた。VRの仮想現実の世界に踏み込んだかのように別の世界が広がっていく。昼間のローカル線。駅のホームにもう一人のオレが立っている。午後一時。まだ学校にいる時刻だ。オレは早退しているのかもしれない。

 再現ドラマを見ているかのようだ。
 
 自分の横顔のアップを見てヤバイと感じた。これから起きる悲劇と波乱を察知したオレはやめろと自分に対して叫びたくなる。快速電車はこの駅には止まらない。

 フラリとボウフラのように頼りなく立っているもう一人のオレの目は虚ろだ。

『白線の内側までお下がり下さい』

 それを合図に自殺しようとしてオレが踏み出したのだ。うわっ! 凄い衝撃でガンッと車体にぶつかって弾き飛ばされている。オレの身体が千切れた。内臓や脳みそや血しぶきか飛び散っている。

 ホームにいた数名が悲鳴を上げて顔を逸らす。しかし、もろに肉片を浴びた老人が驚愕と苦悶の顔を滲ませて苦しげに胸を押さえている。

「うっ……」

 老人は膝をついて前屈みに倒れこむ。オレの肉片を浴びたショックで心臓が止まったらしい。老人の死に顔が極限までアップになる。その頬についている肉片はオレなんだ。豆腐みたいなものは、オレの脳みその欠片だと分かった途端にションベンをちびりそうになる。

 ホラー映画以上の生々しさに衝撃を受けて絶句した。心が壊れる様な鋭い恐怖を感じ、血生臭い惨劇から逃げるように目を瞑り、先刻の後継を遮断する。そして、ぐぅと呻き声を漏らして涙ぐむ。

 勘弁してくれよ。悪夢を吐き出すように深呼吸をすると、再び、風景が元の部屋に戻っていた。すると、狐が、オレの愚かさを見せ付けた事に満足したのかニンマリと笑った。

「いいか。おまえ、絶対に自殺なんてするなよ。おまえのせいで無関係の人が心臓麻痺を起こしちゃうんたぜ。あーあ、可哀想だよな。線路の掃除をする人も気の毒だよな~ おまえは嫌な奴だよなぁ」

 未来のオレの愚行を揶揄するようにしてニターッと笑い続けている。