少年エレジー

 スーッと体のの芯が冷えたような痺れを感じるが意識はあった。生徒達の悲鳴や恐れ慄く様子が分かる。意識はクリアなのにオレの身体はピクリとも動かない。

 近くで誰かの携帯が鳴っている。茶色のダサいジャケット姿の教頭が真っ青になりながら聞き返している。

「えっ、葭原のお母さんが事故に遭ったって? 親子そろって何なんだ」

 ピーポーピーポー。オレのすぐ際まで救急車が来た。ストレッチャーを押した隊員が素早く駆け寄ってくる。血まみれのオレは担架に乗せられている。あの高さから地面に叩きつけられたのだ。頭蓋骨や手足がバキバキに細かく砕けて折れているに違いない。

 ピーポー、ピーポー。

 それでも、まだオレは生きている。オレを見送る三嶋先生が呻くように呟いている。

「葭原、なぜ、飛び降りたんだよ……。何を悩んでいたんだよ?」

 それは、もちろん、後藤のせいだよ……。つーか、オレの遺書を見ろよ。ああ、駄目だ。遺書はどこに飛んだんだ? やべぇ。後藤が拾おうとしている。誰か、そいつを止めてくれ。そう言おうと口を開いた途端に、ブハッとオレの喉元から大量の鮮血が溢れて視界がブラックアウトし始める。

 落ちた弾みで、オレの肺がぶっ壊れてしまったのかもしれない。溺れているみたいになり息ができない。

「大変だ! 患者の容態が急変しました。バイタルが……」

「急げ!」

 狭い空間で救急隊員達が焦っている。ピーポー、ピーポー。オレを乗せたまま市民病院へと向かっている。やがて、オレの心臓はピコッと止まったらしい。

 オレはスーッと幽体離脱して天上の辺りへと飛んでいた。医師がオレの死亡診断書に死因と死んだ時刻を記す間も風船みたいに宙を漂っている。
 
 すると、オレの遺体の隣にもう一体、死体が運ばれてきた。オレの母親だと気付いて背筋が震えて絶句した。額から血を流した状態のオレの母親の右足は変な形にグニャリと折れていた。

 オレの死亡診断書を書いたばかりの医師が残念そうに首を振った。

「救急隊員によって心配停止が確認されている。蘇生を試みたが駄目だったようだね」

「この女性は葭原郁美さんです。高校生の息子さんが自殺しようとするのを止め様として慌てて自転車で駆けつけようとしてトラックに轢かれました」

 救急隊員から聞いた年配の医師は、何てことだと痛ましげに目を細めている。

 母がオレのせいで死んだ? その事実に呆然としていると、シャラランッと万華鏡のように景色がシャッフルして時空が歪む。

 全身の細胞が震えるような感覚に戦慄いたが、妙だ。

 ここはオレの部屋だ。先刻のは幻覚か? 四月の肌寒さに皮膚が毛羽立っている。自分の部屋の布団の中にいる。先刻の体験は何だったんだ? 

 ヒョコンと布団の上に立った狐が甲高い声で言った