「よく聞けよ! おまえが自殺すると誰かが巻き添えを喰らうんたぞ。おまえに強力な呪いをかけた奴がいるんだぞ」
「うっせぇ。自殺なんかしねぇよ」
「でも、おまえ、死にたいって、時々、マジで思ってるよな」
顔が引き攣らせながらも、仕方なく半身を起こす。最近、そういう考えが頭を過ぎるのは本当だ。
「うっせぇ」
オレがポンと肩を押すと、なぜか、ポワンッと忍術のように白い煙が出てきた。ポンッ。大きな尻尾が飛び出している。
何だよ。狐に変身しているじゃないか。こっちが本当の姿のようである。そいつは子供っぽく歯軋りしながら叫んでいる。
「キキキッーー。おいらに馴れ馴れしく触るな。おいらはデリケートなんだぞーーー」
ひょっとしたら妖怪の類なのかもしれない。夢か現実かも分からないまま狐の顔を見つめ返していく。
「おいらはコン吉だぞ。生まれたのは南北朝の頃だぞ。神様の遣いなんだ。おいら、おまえの身にこれから起こるかもしれない事を見せに来てやったぞ。ほーらよ! とくと御覧あれ」
狐がフローリングの床材を踏むようにしてポーンと宙返りしてみせた。すると、万華鏡のように、オレを取り囲む景色が崩れて景色がガラッと変わった。シュールだ。
なぜか、オレは高校の屋上にいる。
何なんだ。これは……。先刻までは四月だったのに季節が進んでいる。夏服姿のオレの首筋に汗の粒が浮かんでおり、無機質な屋上を囲む鉄柵の外側に立っている。前屈みになればパランスを崩して落下してしまいそうで腹の底がヒヤッとなる。
眼下には生徒達の群れ。クラスの奴等が必死の形相のまま顎を上げている。
生暖かい風がオレを翻弄している。高所に立つ恐怖に背筋が強張り貧血を起こしそうになる。実のところ、オレは高所恐怖症なのだ。例え、夢でも、こんなギリギリの場所にいたくない。
「葭原ーーーー。早まるなーーー」
担任の三嶋先生の声が下から響いた。三十歳独身のヒョロッとした先生で、何事にも無気力なのに、あんな大声を出せるとは驚きだ。
みんな、明るいキャラのオレが自殺騒ぎを起こしていることに当惑している。女子は怯えたように見上げている。そんな中、後藤だけは馬鹿にしたようにニヤニヤしている。ニキビだらけの四角い顔には嘲りの色が浮かんでいる。
『おまえには飛び降りる度胸なんてねえだろう? バーカ。とっと降りろよ』
オレへの明確な悪意を滲ませている。オレの手には遺書のようなメモが握られている。
降りてやるぜ。
正義の執行だという気持ちが突き抜け、後先のことを考えずに動的に飛び降りていた。地面に叩きつけられている。衝撃音が生々しい。頭から大量の血を流している。なのに、不思議と痛みは感じない。
「うっせぇ。自殺なんかしねぇよ」
「でも、おまえ、死にたいって、時々、マジで思ってるよな」
顔が引き攣らせながらも、仕方なく半身を起こす。最近、そういう考えが頭を過ぎるのは本当だ。
「うっせぇ」
オレがポンと肩を押すと、なぜか、ポワンッと忍術のように白い煙が出てきた。ポンッ。大きな尻尾が飛び出している。
何だよ。狐に変身しているじゃないか。こっちが本当の姿のようである。そいつは子供っぽく歯軋りしながら叫んでいる。
「キキキッーー。おいらに馴れ馴れしく触るな。おいらはデリケートなんだぞーーー」
ひょっとしたら妖怪の類なのかもしれない。夢か現実かも分からないまま狐の顔を見つめ返していく。
「おいらはコン吉だぞ。生まれたのは南北朝の頃だぞ。神様の遣いなんだ。おいら、おまえの身にこれから起こるかもしれない事を見せに来てやったぞ。ほーらよ! とくと御覧あれ」
狐がフローリングの床材を踏むようにしてポーンと宙返りしてみせた。すると、万華鏡のように、オレを取り囲む景色が崩れて景色がガラッと変わった。シュールだ。
なぜか、オレは高校の屋上にいる。
何なんだ。これは……。先刻までは四月だったのに季節が進んでいる。夏服姿のオレの首筋に汗の粒が浮かんでおり、無機質な屋上を囲む鉄柵の外側に立っている。前屈みになればパランスを崩して落下してしまいそうで腹の底がヒヤッとなる。
眼下には生徒達の群れ。クラスの奴等が必死の形相のまま顎を上げている。
生暖かい風がオレを翻弄している。高所に立つ恐怖に背筋が強張り貧血を起こしそうになる。実のところ、オレは高所恐怖症なのだ。例え、夢でも、こんなギリギリの場所にいたくない。
「葭原ーーーー。早まるなーーー」
担任の三嶋先生の声が下から響いた。三十歳独身のヒョロッとした先生で、何事にも無気力なのに、あんな大声を出せるとは驚きだ。
みんな、明るいキャラのオレが自殺騒ぎを起こしていることに当惑している。女子は怯えたように見上げている。そんな中、後藤だけは馬鹿にしたようにニヤニヤしている。ニキビだらけの四角い顔には嘲りの色が浮かんでいる。
『おまえには飛び降りる度胸なんてねえだろう? バーカ。とっと降りろよ』
オレへの明確な悪意を滲ませている。オレの手には遺書のようなメモが握られている。
降りてやるぜ。
正義の執行だという気持ちが突き抜け、後先のことを考えずに動的に飛び降りていた。地面に叩きつけられている。衝撃音が生々しい。頭から大量の血を流している。なのに、不思議と痛みは感じない。
