少年エレジー

『ああ、美しい顔だわ。あんたを産んで良かったわ。あたしには母親がいなくて、あんたのひいばぁさんが家事をしていたの。ひいばぁさんは堕胎した方がいいって言ったのよ。でも、絶対に産みたかった。あんたは父親にソックリになったわ』 

 そう言えば、僕が十一歳の時。誰にも内緒よと言いながら酔っ払ったはずみで暴露した事がある。

『この人が、トーリの本当の父親よ。綺麗な顔でしょう。映画の撮影で町の宿に撮影クルーが長期滞在していたの。あたし、一目惚れしちゃったんだよね。一夏の恋だったわ。もう、永遠に忘れられないぐらいに燃えたわ。あたしが彼の初体験の相手なの。桃李、あんたが、あの当時のあの人にソックリに育ってくれて嬉しいわ』

 あの時は半信半疑だったげど。

 雑誌の中の彼は、今の僕と同じ顔をしている。

 僕の本当の父は、今も三十代前半でまだ独身だ。彼は、十五歳の時にママとそういう関係になったらしい。ママは妊娠した時、後藤の父親の子だ親に嘘をついた。実際に、ママは妊娠したと分かると、すぐに後藤の父親を誘惑していたのだ。故郷に戻るとママは後藤の父親を利用した、祖父を地元の老人ホームに入れる際に、ママは後藤の父親に媚びて便宜をはかってもらった。なおかつ、愛人として月々の手当を受け取ってきた。

 後藤の父親は僕を息子として正式に認知しようとした。そうする事でママの気持ちを繋ぎ止めようとしたらしい。

 僕が中学三年の秋、後藤の母親がスナックに乗り込んできた。ママは後藤の父親ことなど一ミリも愛していない。別れますと断言した。

 すると、後藤の母親は僕のママの手を握り締めて泣き出した。それで解決するはずだった。

 しかし、後藤の父親は妻と離婚する決意をしていた。

 高校一年の四月の上旬。入学式の五日後、僕は、後藤に駅のホームから突き落されてしまった。駅員さんが停止ボタンを押してくれてギリギリのところで助かったが、もう少しでぬところだった。その事故を知ったママは怒り狂った。

『なんで、あんたを突き落すのよ! あたしは後藤とは別れるって言ったのよ! ていうか、最初から、あんな奴、どうでも良かったわ。父子揃ってうざいわね。後藤の息子は完全にイカれてるよ。ここにはいられないわよ。逃げる用意をしておきなさい』

 夜逃げ専門の業者に頼んで引っ越した。

 自由の身になったママは夜の仕事を再開している。僕は、通信制の高校で大学受験の資格を得るつもりでいる。

 ママは、ネットを介して後藤の母親が亡くなった事を知った。そして、考え込むような顔つきになった。恐ろしい事を言い出した。