葭原には話していないけれど、中学三年の秋。恐ろしい事が起きている。
ママは犬の散歩の途中、後藤とすれ違った。ママがスーパーで買い物をしている間は小型犬の胡桃を駐輪場のポールに繋いでいたのだが、おでんの材料を買い終えて外に出てみると犬は忽然と消えていた。誰かが、胡桃を盗んだのは明らかだった。
マスク姿の十代の男の子が胡桃を抱きかかえて連れ去る様子を見た人がいる。スーパーの店員に頼んで防犯カメラを見せてもらったところ、後藤にソックリな奴の姿が映っていた。
『あのクソガキ、むかつくわ』
ママは、直接、後藤に文句が言えないので、その代わりに後藤の父親に愚痴ると、僕のママの髪を撫でながら困ったように笑っていたらしい。
『すまなかったな。新しい犬を飼ってやるから機嫌を直せよ。そんな顔するなよ。おまえはオレの宝物だ。おまえの為なら何でもするぞ』
ママは、犬を失った代償として前から欲しかったシャネルのハンドバッグを買ってもらったのだ。ママは腹いせに後藤の父親の身体にたくさんキスマークを付けたらしい。後藤の母親が気付くように後藤の父親の身体に香水を振り撒いたという。その事で誘拐された犬の運命が変わったのかもしれない。
後日、僕の通学路にバイクに轢かれてペッシャンコになった胡桃の遺体が転がっていた。それを見た時、僕は吐き気をもよおして膝から崩れ落ちた。
あの時、後藤は満足そうに目元を歪めていた。あの瞬間、後藤の狂気が際限なく広がる予感を抱いてゾッとなった。日に日に、後藤の嫌がらせはエスカレートしていった。それを止めようとした和哉にも危害が及ぶようになる。
『和哉を守って下さい。お願いです。僕は、どうなっても構いません。後藤の魔の手から彼を救って欲しいのです。村長に追い払われて無念の死を遂げたあなたなら、僕の気持ちは分かりますよね?』
僕はひたすら祈った。
後藤は、村長の直系の子孫だ。そんな彼なら、後藤を祟り殺してくれるのではないか……。そんな期待すら抱くほどに僕の心は追い詰められていた。真夜中、神社で祈る僕に気付く者なんていやしない。
以前、祖父がしていたように境内の清掃も行なった。祠の前にお菓子などを供えた。そして、ここで死んだ男の子に愚痴を漏らした。
そうあれは、僕が引っ越す三日前だった。奇妙な夢を見たのである。プワンッと白い煙と共に、狐の面を被った貧しげな裸足の少年が出て来た。
『君は誰なの?』
『おいらは、神様の下働きをしているコン吉さ』
男の子はどこか得意げに胸を張る様子が愛らしかった。えっへんと胸を逸らすとお面を外した顔はを見て愕いた。頬に大きな傷がある。
『その傷はどうしたの?』
『気にするなよ。おいら、おっちょこちょいだから、うっかり転んで怪我をしただけだよ』
ママは犬の散歩の途中、後藤とすれ違った。ママがスーパーで買い物をしている間は小型犬の胡桃を駐輪場のポールに繋いでいたのだが、おでんの材料を買い終えて外に出てみると犬は忽然と消えていた。誰かが、胡桃を盗んだのは明らかだった。
マスク姿の十代の男の子が胡桃を抱きかかえて連れ去る様子を見た人がいる。スーパーの店員に頼んで防犯カメラを見せてもらったところ、後藤にソックリな奴の姿が映っていた。
『あのクソガキ、むかつくわ』
ママは、直接、後藤に文句が言えないので、その代わりに後藤の父親に愚痴ると、僕のママの髪を撫でながら困ったように笑っていたらしい。
『すまなかったな。新しい犬を飼ってやるから機嫌を直せよ。そんな顔するなよ。おまえはオレの宝物だ。おまえの為なら何でもするぞ』
ママは、犬を失った代償として前から欲しかったシャネルのハンドバッグを買ってもらったのだ。ママは腹いせに後藤の父親の身体にたくさんキスマークを付けたらしい。後藤の母親が気付くように後藤の父親の身体に香水を振り撒いたという。その事で誘拐された犬の運命が変わったのかもしれない。
後日、僕の通学路にバイクに轢かれてペッシャンコになった胡桃の遺体が転がっていた。それを見た時、僕は吐き気をもよおして膝から崩れ落ちた。
あの時、後藤は満足そうに目元を歪めていた。あの瞬間、後藤の狂気が際限なく広がる予感を抱いてゾッとなった。日に日に、後藤の嫌がらせはエスカレートしていった。それを止めようとした和哉にも危害が及ぶようになる。
『和哉を守って下さい。お願いです。僕は、どうなっても構いません。後藤の魔の手から彼を救って欲しいのです。村長に追い払われて無念の死を遂げたあなたなら、僕の気持ちは分かりますよね?』
僕はひたすら祈った。
後藤は、村長の直系の子孫だ。そんな彼なら、後藤を祟り殺してくれるのではないか……。そんな期待すら抱くほどに僕の心は追い詰められていた。真夜中、神社で祈る僕に気付く者なんていやしない。
以前、祖父がしていたように境内の清掃も行なった。祠の前にお菓子などを供えた。そして、ここで死んだ男の子に愚痴を漏らした。
そうあれは、僕が引っ越す三日前だった。奇妙な夢を見たのである。プワンッと白い煙と共に、狐の面を被った貧しげな裸足の少年が出て来た。
『君は誰なの?』
『おいらは、神様の下働きをしているコン吉さ』
男の子はどこか得意げに胸を張る様子が愛らしかった。えっへんと胸を逸らすとお面を外した顔はを見て愕いた。頬に大きな傷がある。
『その傷はどうしたの?』
『気にするなよ。おいら、おっちょこちょいだから、うっかり転んで怪我をしただけだよ』
