少年エレジー

『それが、この神社の始まりなんだ』
 
『旅芸人が連れていた男の子は息子なの?』

『さぁな。どこかで拾った子だったかもしれないな。戦国時代は孤児が大勢いたに違いないからな。どうやら、ここで祈ると神様に願いを届けてくれるみたいだぞ』

 そんな事を聞いていた僕は、漠然と神社から放たれる不思議なパワーを信じるようになったのだ。

 目の不自由な旅芸人は川で溺れてしまい、さぞかし無念だっただろう。町から町へと歩き続ける旅芸人と男の子の後姿を脳裏に浮かべると胸がキンと軋むような切なさに胸が苦しくなる。

『実はな、わしは、幼い頃に、ここで幽霊を見た事があるんだよ』

 祖父がおかしなことを言い出した。

 この呪いの話は神社にいた幽霊の男の子から聞いたというのだ。

『その子が言うには、おまえらを呪ってやると絶叫した後、村長の息子に棒で殴られて死んだそうなんだ。村長の息子は、その事を誰にも言わずに、男の子をこの森に埋めた。祟りを起こしているのは、旅芸人ではなく男の子の方なんだね……。わしは、その子がひもじい思いをしたり寂しくないように、ここに来てお供えをしているんだよ』

 祖父は、本気で幽霊から神社の成り立ちを聞いたと言ったが、僕は半信半疑だった。黙って、祖父と共に清掃を続けたのだ。

 和哉に会う前の僕に友達はいなかった。自閉症だと誤診されるくらい口数の少ない子供だった。何となく、僕は他の人が怖かった。

 僕は私立の名門小学校に入っいていたけれど、みんなと馴染めなかった。そんなある日、田舎で暮らしていた祖父が軽度の認知症診断された。ママは銀座でホステスをしていたが、あっさりと辞めて祖父のいる田舎に帰ってきた。そして、僕等は祖父と暮らすようになった。僕は、小学四年の秋に和哉のいる学校に編入したのだ。

『おまえ、そんなところで読書してんの?』

 転校した翌週の午後。神社の境内にある石棺みたいな形の石の椅子に腰掛けて本を読んでいると、いきなり話しかけられてビックリした。振り返ると和哉がいた。屈託なく笑うと、当たり前のように僕の隣に腰を落とした。

 小麦色に焼けていた。丸坊主に近い髪型をしていた。オドオドと見つめ返すと、リュックからパンを取り出して僕に手渡した。

『なぁ、パン、食うか?』

『えっ?』

 ほとんど初対面の相手に言われて僕は目を丸くする。キッと細い目の男の子。一見すると怖そうな顔なのに、笑うと人懐っこくて朗らかだ。そのギャップに僕は面食らってドキッとなった。