少年エレジー

 和哉は必死になって僕を探しているみたいだ。夏休みが始まる前にメールをくれたのに、ずっと気付かなかった。今も返事を待ち続けているに違いない。僕は、高ぶる感情を押し殺しながら呻くように呟いた。

「僕のことを心配してくれているんだね……。ありがとう。僕は、ここにいるよ」

      ☆


 こうなったのには理由がある。

 中学三年の頃、後藤は、自分の母親のノイローゼの原因が僕のママだと気付いた。それで、執拗に僕を痛めつけるようになった。

 僕はママの事が好きだ。でも、ママは、時々、とても怖いことを平然とやってのける。ママのせいで不幸になった後藤の母親の事を思うと胸が痛む。多分、後藤は、これからも僕を恨み続けるだろう。

 ママは、後藤の父親とはキッパリ別れると言ったのに後藤の父親は嫌だと言った。ママが冷たくすると、後藤の父親は、もっともっとママに付きまとうようになった。スナックの他の客に嫉妬するようになった。このままじゃ、色々とヤバイと僕等は感じた。だから、僕とママは隠れて暮らす事に決んだ。

 君に居場所を教えないのには理由がある。僕には呪いがかかっているんだよ。だから、こうして隠れ続けるしかない。

 昔、こんなことがあった。僕達が、この村に来た最初の日、祖父は神社に連れて行ってくれた。

『おじーちゃん、ここは何の神社なの?』

『御霊神社だよ』
 
 ごりょうの意味が分からず顔をしかめていると、十歳の僕にも分かるように祖父が説明してくれた。

『不遇な死を遂げた偉い人を神として祀っているんだよ。怨みを鎮める為のものなんだ。御霊神社で祀られている有名人は菅原道真さんだな』

 怨霊になった人の怒りを鎮める為に神社を作ることがあるという。各地に御領神社はあるらしい。

『それで、ここは誰を祀っているの?』

『大昔に実際にいた名もなき旅芸人の魂を慰霊しているんだよ。遠い昔の夏の日の事だよ。目の不自由な旅芸人の男がいた。その芸人は老齢だった。目の見える八歳ぐらいの男の子と共に旅をしていたんだ』

 祖父は昔ここであったことを教えてくれた。

『村長の宴の席で旅芸人は琵琶を演奏したのさ。その日の夜は台風が接近していた。いつもより風か強かったし雨も降っていたんだ』
 
 旅芸人は、馬小屋の片隅に寝かせて欲しいと告げた。けれど、村長は嫌だと断った。隣村の宿屋に泊まれと言い放って追い払った。そのせいで、旅芸人は夜中に風に煽られて川に落ちてしまう。道案内役の小さな男の子は絶望して泣いて村人に助けを求めた。でも、誰も探してくれなかった。男の子は怨みを込めて絶叫してから立ち去った。この村を呪ってやる。すると、それ以後、川は何度も氾濫して村に疫病が流行り出した。きっと、旅芸人の祟りに違いない。心ある村人は力を合わせて鳥居と社を建てた。