少年エレジー

 オレはすっかり弱気になっていた。もう、これ以上、痛い思いはしたくない。出来るだけ楽な方法で死んでしまいたい。

 呻き声さえも出ないほどの痛みに悶絶していると、後藤が偉そうな目付きで言った。

「白石がどこにいるのか教えたら、おまえのことは許してやるよ」

「し、白石をどうするつもりだ……?」

「地獄まで追い回してやるのさ。いいから早く教えろよ」

「何度も言ってるだろう。そんなのしらねぇよ!」

 後藤次郎はは中学生の頃から、白石の教科書や上履きを隠していた。高校生になると一気に凶暴性を帯びるようになった。

 後藤と、その連れは柔道部で身体も大きかった。物静かな白石は、どんなに苛められても文句も言わずに我慢していた。あの時もそうだった。

『白石。おまえ、さっさとこの世から消えろよ。どこか行きやがれ。目障りなんだよ!』

 奴等に絡まれて倒れ込む白石の呻き声を耳にすると胸が張り裂けそうになった。やめろと叫ぶと他の二人によって羽交い絞めにされたのだ。オレも思いっきり腹部を蹴られてダメージを負った。

 白石は、静かに涙をこぼしながらも耐えていた。

 我慢の糸が切れたのだろう。せっかく、第一志望の高校に入ったというのに、四月の終わりに母親と共に夜逃げ同然で引っ越したのだ。

 白石が消えた翌日の朝。オレの自宅のポストに手紙が入っていた。

 引っ越す日の夜にポストに差し込んだらしい。

【和哉、ごめんね。色々と事情があって二度と会えなくなったんだ。僕は、永遠に君の前から姿を消すことにするね。決して、僕のことを探しちゃ駄目だよ。お互いに連絡も取ってはいけないんだ。元気でいてね。さようなら。君のことは忘れない。今までありがとう】

 十日前の文面を思い返すと泣きたくなる。そんなオレをの襟首を掴んだ後藤は、忌々しそうに腹を蹴ってからトイレの床に叩き落としていく。

「ぐっ……」

 顎を強烈に打って悶絶するオレは脂汗を滲ませる。視界がボーッと煙るように霞んでいる。

 失神していたらしい。気付くと、冷たい床に仰向けで横たわっていた。身体が冷凍の魚みたいに冷えきっている。おそらく、オレの制服を剥ぎ取ったに違いない。オレは裸だった。かろうじて靴下だけ穿いている。

 下校を知らせる校内放送にハッとなるが、痛みのせいですぐには動けなかった。

(クソッ。服はどこだよ……)

 灰色の上着とチェック柄のズボンが丸めたまま床に放置されている。白いワイシャツと茶色のネクタイはトイレの便器の水に浸っている。それらを身につけるしかなかった。

 野球部の部員は、まだグラウンドにいる。誰とも顔を合わせないようにキョロキョロしながら昇降口へと向かう。街灯のない野道を歩いた。寒くて背中が縮こまっている。やるせない気持ちをどこにぶつけたらいいのか分からない。