中層にて稼働させた生産施設の視察を終えた僕とミナリスは、最上層にある王の間へと戻ってきていた。
「これでひと通りの生産施設の視察はできたね」
「はい」
天空城が造られたのは五百年以上前だったので生産施設にガタがきているのではないかと思ったが、城内にある生産施設に関しては老朽化などの対策がしっかりとされており、異常をきたしている箇所は一個もなかった。これも古代による保存技術の賜物なのだろう。
どうせなら天空城自体にも保存の魔法式をかけてもらいたかったが、そちらに関しては大規模過ぎたが故に難しかったのだろう。城内にあるちょっとした施設を綺麗に保存するのと、城全体を綺麗にするのとではワケが違うからね。
「実際に生産施設を視察した感想はどうだった?」
「水や食料は潤沢な上に継続的な生産も可能です。これならば、当面の生活に不安はありませんね」
「うん、僕もそう思ったよ」
天空城での生活にシビアな視点を持っていたミナリスも、直接城内の施設を目にしたことで安心したようだ。
やっぱり、実際に知っているのと、直接目にするのとでは受け取る印象がかなり違うからね。
元から知っていた僕でも実際に目にすることでプロセスを深く把握することができた。そのお陰で生産施設に改良できる余地があることに気付くこともできた。これは大きな収穫だ。
さすがに今すぐに着手とはいかないけど、時間を見つけて少しずつ改善していければと思う。
「……それにしても疲れた」
「とにかく城内が広いですからね」
玉座の背もたれにもたれかかりながら呟くと、ミナリスが同意するように頷いた。
そう。この天空城は広いのだ。避難都市としての側面を持つために大勢の人間を収容できるように大規模都市レベルの敷地がある。そのため各フロアの階層はキロ単位になるのだ。
そんな広大なフロアを練り歩けば疲労困憊になるのは当然だ。
ましてや、僕の身体は幼い八歳児のものだ。くたくたになるのも仕方がなかった。
「……早急に城内を移動するための乗り物を作った方がいいね」
階層の移動については昇降機があるが、フロア内を速やかに移動するための手段がない。
これは問題だ。
これについてオルグレンは考えていなかったのではなく、単に優先順位が低いので作成していなかった。年齢を経るについて身体を動かすことができなくなっていたオルグレンは、自走式の車椅子に乗るようになった上にゴーレムたちを駆使して作業を進めていた。そのため階層内を移動するための乗り物を開発する必要性がなかったのだ。
とはいえ、今の僕たちにそんな便利な乗り物はない。
階層内を速やかに移動するための乗り物が必要だ。
「ノエル様、少しひと休みいたしましょう」
思考の渦に沈んでいると、ふと目の前にすっと湯気の立ち昇るカップが差し出された。
ほのかに漂ってくる清涼な香りからハーブティーであることがわかる。
いつの間に王の間にワゴンを持ち込んだのだろう? それほど僕が思考に没頭していたってことだろうか。
ふと視線を向けると、ミナリスが心配そうな眼差しでこちらを見ていた。
あまり心配をかけるのもよくない。
「そうだね。今はゆっくりと身体を休めることにするよ」
思考を打ち切ってカップを受け取ると、ミナリスはにっこりと笑みを浮かべた。
口に含むと、ほんのりとした甘みと清涼な香りが広がった。
「……茶葉はいつもと同じものだよね?」
「はい、公爵家の屋敷から持ち出したものです」
一瞬、まったく別の茶葉を使ったのかと思ったが、いつも味わっていたものと同じだった。
「疲れているからかな? いつもより美味しい気がする」
「このティーポットのお陰です。温度を細かく設定できる上に温度の維持もできるのです。公爵家に置いてあるティーポットよりも断然性能が上です」
ティーポットを持ち上げながらミナリスが嬉しそうに述べてくれた。
公爵家にある魔道具のティーポットは適温で淹れることはできるが、どうしても温度のムラができてしまう上に高い保温性はない。それに比べて、天空城の厨房にあるティーポットはお湯を温めることはもちろん一度単位での設定が可能だ。その上高い保温性を備えており、魔力がある限り一度たりとも温度を落とすことはない。同じ魔道具であっても差は歴然だ。
とはいえ、天空城にあるティーポットの性能がいくら高くても、淹れる者に技量がなければ美味しく作ることはできない。これほどの美味しさなのはミナリスの技量があってこその味だろうな。
「美味しいよ」
「恐れ入ります」
素直な感想を述べると、ミナリスが嬉しそうに微笑んだ。
そうやってミナリスの淹れてくれたハーブティーを飲んでいると、不意に玉座に展開している制御盤からけたたましい音が響いた。
僕らのリラックスした時間は一瞬にして吹き飛んでしまう。
「ノエル様、今の音は!?」
「天空城に接近する外敵を感知したみたいだね」
制御盤を操作すると、天空城の南側から赤いマークが接近しているのがわかった。
「この天空城にですか!?」
「多分、飛行系の魔物だと思うよ。ほら、空を飛んでいるから」
僕が真っ当な推測を述べると、ミナリスはすっかりと失念していたのか「あっ」と間の抜けた声を漏らして顔を真っ赤に染めた。
この世界には空に魔物がいる。
おそらく、今こうやって天空城に接近しようとしているのは飛行系の魔物だろう。
敵性存在を確かめるため、僕は外縁部に取りつけられている外界カメラをオンにした。
制御盤には外界の様子が映し出される。そこには黒い影が一直線にこちらへ向かってきていた。
もう少し姿を鮮明にしたい。制御盤を操作してカメラの解像度を上げてみる。
膜の張った巨大な翼に鋭利な鉤爪、鞭のようにしなる長い尾を揺らしていた。
体表は細やかな鱗で覆われ、首筋から背中にかけて硬質な棘が生えている。
「ワイバーンだ!」
「――ッ! あの討伐ランクAの!?」
僕の報告を聞いて、ミナリスが驚愕の声を上げた。
討伐ランクAは町や都市に対して深刻な被害を及ぼす可能性があり、上位冒険者による複数パーティーでの討伐が推奨される魔物だ。そんな高位の魔物が天空城に向かって近づいてきている。
「一体、どうやってこちらに気付いたんでしょう?」
「地上からの目は誤魔化せても、空からの目を完全に誤魔化すことはできなかったみたいだね」
天空城を周囲には雲海を散布しており、地上からの視線はシャットアウトしている。
しかし、全方位を完全にシャットアウトできているわけではない。同じ領域に住む者からすれば、発見は容易いだろう。
「ノエル様、すぐに逃げましょう!」
「いや、さすがにワイバーンから逃げることはできないよ」
いくら天空城といえど、ワイバーンの飛行速度を上回るような速度で移動することはできない。
それにワイバーンは縄張り意識が強い上に執念深い。一度、縄張りを犯した僕らのことをワイバーンは許すことはないだろう。仮に移動したとしても執念深く追ってくるに違いない。
「では、私が今すぐに外縁部に向かって――」
「いや、その必要はないよ。こういう事態を想定して天空城にはいくつもの防衛装置があるからね」
王の間を出て行こうとするミナリスを制止して、僕は制御盤を操作する。
【魔導砲】【魔導砲塔】【魔力障壁】【気流制御塔】【電撃網】
防衛という項目を押すと、天空城に兼ね備えられている防衛装置がいくつか表示された。
「せっかくだからいくつかの機能を使ってみようか。まずは【魔力障壁】を展開」
制御盤を操作し、魔力障壁を発動する。
すると、天空城全体を半透明な障壁が覆った。
その直後、天空城に高速で接近してきていたワイバーンが魔力障壁に衝突した。
「――ッ!?」
轟音と共に巨体が弾き飛ばされる。
ワイバーンは驚愕の声を漏らし、よろめきながらも慌てて距離をとった。
「物理的な強度に問題はないみたいだ」
「あれほどの魔物を弾いてしまうなんて素晴らしいです!」
制御盤で様子を確認してみたが、魔力障壁には傷一つついていない。
それに城内にいる僕たちに衝撃が伝わることもなかった。
外界カメラで覗いていなければ、音すら拾うこともなかっただろう。
「今ので諦めるかな?」
「いえ、まだのようです」
ワイバーンは空中でよろめきながら翼を広げると、ギロリと猛禽の瞳が魔力障壁に覆われた天空城を睨みつけてくる。
どうやら魔力障壁で弾かれたことに大層お怒りの様子らしい。
ワイバーンは大きく首を仰け反らせると、咆哮と共に灼熱を吐き出した。
凄まじい炎の奔流が一直線に空気を駆け抜け、天空城の魔力障壁に衝突した。
眩い炎が障壁を覆い隠す。
しかし、魔力障壁はまったく揺らぐことはなく、炎は何事もなかったかのように霧散した。
「うん、遠距離からの魔法攻撃も通さないね」
ワイバーンは二度、三度と灼熱のブレスを吐き続けるが、天空城が展開している魔力障壁はことごとく霧散させる。正面からが無駄ならば上から下から横からと角度を変えて再度放ってくるが、魔力障壁にはひび一つ入ることはない。
「無駄だよ。天空城の魔力障壁に死角はないから」
天空城は空からの攻撃には晒されやすい分、対空防衛装置にはひと際力を入れている。
ワイバーン程度なら百体以上の群れに襲われても平気だろうな。
魔力障壁の強度を確認していると、不意にワイバーンからの攻撃が止んだことに気付いた。
「あれ? もう終わり?」
「先ほどから十発以上ブレスを放っていましたからね」
制御盤の映像を見ると空中で羽ばたきを乱し、疲弊しているワイバーンがいた。
大きく首を仰け反らしてブレスを吐こうとするが、漏れ火のようなブレスしか出てこずに咳き込んでいた。
「なら次はこっちの番だね」
本当はもう少し魔力障壁のデータを集めたかったけど、相手が疲れて動けないのであればしょうがない。
制御盤を操作すると、天空城の外縁部に備え付けられた巨大な砲台が露出し、空中で疲弊しているワイバーンへと狙いをつけた。
「【魔導砲】発射……ッ!」
その瞬間、魔導砲が唸りを上げた。
凝縮された魔力弾が空を切り裂くように突き進み、ワイバーンに直撃する。
ドンッという爆音と共に上半身が消し飛び、残った下半身が炎に包まれて落下していった。
「ワイバーンを一撃ですか……」
「とんでもない威力だね」
ミナリスが呆然する中、僕は乾いた笑みを漏らす。
これを魔物ではなく、地上に向かって放ったらどうなってしまうことか。
天空城の規格外の性能を目の当たりにして、僕はオルグレンが言っていた世界征服も夢ではないということを痛感するのであった。
「これでひと通りの生産施設の視察はできたね」
「はい」
天空城が造られたのは五百年以上前だったので生産施設にガタがきているのではないかと思ったが、城内にある生産施設に関しては老朽化などの対策がしっかりとされており、異常をきたしている箇所は一個もなかった。これも古代による保存技術の賜物なのだろう。
どうせなら天空城自体にも保存の魔法式をかけてもらいたかったが、そちらに関しては大規模過ぎたが故に難しかったのだろう。城内にあるちょっとした施設を綺麗に保存するのと、城全体を綺麗にするのとではワケが違うからね。
「実際に生産施設を視察した感想はどうだった?」
「水や食料は潤沢な上に継続的な生産も可能です。これならば、当面の生活に不安はありませんね」
「うん、僕もそう思ったよ」
天空城での生活にシビアな視点を持っていたミナリスも、直接城内の施設を目にしたことで安心したようだ。
やっぱり、実際に知っているのと、直接目にするのとでは受け取る印象がかなり違うからね。
元から知っていた僕でも実際に目にすることでプロセスを深く把握することができた。そのお陰で生産施設に改良できる余地があることに気付くこともできた。これは大きな収穫だ。
さすがに今すぐに着手とはいかないけど、時間を見つけて少しずつ改善していければと思う。
「……それにしても疲れた」
「とにかく城内が広いですからね」
玉座の背もたれにもたれかかりながら呟くと、ミナリスが同意するように頷いた。
そう。この天空城は広いのだ。避難都市としての側面を持つために大勢の人間を収容できるように大規模都市レベルの敷地がある。そのため各フロアの階層はキロ単位になるのだ。
そんな広大なフロアを練り歩けば疲労困憊になるのは当然だ。
ましてや、僕の身体は幼い八歳児のものだ。くたくたになるのも仕方がなかった。
「……早急に城内を移動するための乗り物を作った方がいいね」
階層の移動については昇降機があるが、フロア内を速やかに移動するための手段がない。
これは問題だ。
これについてオルグレンは考えていなかったのではなく、単に優先順位が低いので作成していなかった。年齢を経るについて身体を動かすことができなくなっていたオルグレンは、自走式の車椅子に乗るようになった上にゴーレムたちを駆使して作業を進めていた。そのため階層内を移動するための乗り物を開発する必要性がなかったのだ。
とはいえ、今の僕たちにそんな便利な乗り物はない。
階層内を速やかに移動するための乗り物が必要だ。
「ノエル様、少しひと休みいたしましょう」
思考の渦に沈んでいると、ふと目の前にすっと湯気の立ち昇るカップが差し出された。
ほのかに漂ってくる清涼な香りからハーブティーであることがわかる。
いつの間に王の間にワゴンを持ち込んだのだろう? それほど僕が思考に没頭していたってことだろうか。
ふと視線を向けると、ミナリスが心配そうな眼差しでこちらを見ていた。
あまり心配をかけるのもよくない。
「そうだね。今はゆっくりと身体を休めることにするよ」
思考を打ち切ってカップを受け取ると、ミナリスはにっこりと笑みを浮かべた。
口に含むと、ほんのりとした甘みと清涼な香りが広がった。
「……茶葉はいつもと同じものだよね?」
「はい、公爵家の屋敷から持ち出したものです」
一瞬、まったく別の茶葉を使ったのかと思ったが、いつも味わっていたものと同じだった。
「疲れているからかな? いつもより美味しい気がする」
「このティーポットのお陰です。温度を細かく設定できる上に温度の維持もできるのです。公爵家に置いてあるティーポットよりも断然性能が上です」
ティーポットを持ち上げながらミナリスが嬉しそうに述べてくれた。
公爵家にある魔道具のティーポットは適温で淹れることはできるが、どうしても温度のムラができてしまう上に高い保温性はない。それに比べて、天空城の厨房にあるティーポットはお湯を温めることはもちろん一度単位での設定が可能だ。その上高い保温性を備えており、魔力がある限り一度たりとも温度を落とすことはない。同じ魔道具であっても差は歴然だ。
とはいえ、天空城にあるティーポットの性能がいくら高くても、淹れる者に技量がなければ美味しく作ることはできない。これほどの美味しさなのはミナリスの技量があってこその味だろうな。
「美味しいよ」
「恐れ入ります」
素直な感想を述べると、ミナリスが嬉しそうに微笑んだ。
そうやってミナリスの淹れてくれたハーブティーを飲んでいると、不意に玉座に展開している制御盤からけたたましい音が響いた。
僕らのリラックスした時間は一瞬にして吹き飛んでしまう。
「ノエル様、今の音は!?」
「天空城に接近する外敵を感知したみたいだね」
制御盤を操作すると、天空城の南側から赤いマークが接近しているのがわかった。
「この天空城にですか!?」
「多分、飛行系の魔物だと思うよ。ほら、空を飛んでいるから」
僕が真っ当な推測を述べると、ミナリスはすっかりと失念していたのか「あっ」と間の抜けた声を漏らして顔を真っ赤に染めた。
この世界には空に魔物がいる。
おそらく、今こうやって天空城に接近しようとしているのは飛行系の魔物だろう。
敵性存在を確かめるため、僕は外縁部に取りつけられている外界カメラをオンにした。
制御盤には外界の様子が映し出される。そこには黒い影が一直線にこちらへ向かってきていた。
もう少し姿を鮮明にしたい。制御盤を操作してカメラの解像度を上げてみる。
膜の張った巨大な翼に鋭利な鉤爪、鞭のようにしなる長い尾を揺らしていた。
体表は細やかな鱗で覆われ、首筋から背中にかけて硬質な棘が生えている。
「ワイバーンだ!」
「――ッ! あの討伐ランクAの!?」
僕の報告を聞いて、ミナリスが驚愕の声を上げた。
討伐ランクAは町や都市に対して深刻な被害を及ぼす可能性があり、上位冒険者による複数パーティーでの討伐が推奨される魔物だ。そんな高位の魔物が天空城に向かって近づいてきている。
「一体、どうやってこちらに気付いたんでしょう?」
「地上からの目は誤魔化せても、空からの目を完全に誤魔化すことはできなかったみたいだね」
天空城を周囲には雲海を散布しており、地上からの視線はシャットアウトしている。
しかし、全方位を完全にシャットアウトできているわけではない。同じ領域に住む者からすれば、発見は容易いだろう。
「ノエル様、すぐに逃げましょう!」
「いや、さすがにワイバーンから逃げることはできないよ」
いくら天空城といえど、ワイバーンの飛行速度を上回るような速度で移動することはできない。
それにワイバーンは縄張り意識が強い上に執念深い。一度、縄張りを犯した僕らのことをワイバーンは許すことはないだろう。仮に移動したとしても執念深く追ってくるに違いない。
「では、私が今すぐに外縁部に向かって――」
「いや、その必要はないよ。こういう事態を想定して天空城にはいくつもの防衛装置があるからね」
王の間を出て行こうとするミナリスを制止して、僕は制御盤を操作する。
【魔導砲】【魔導砲塔】【魔力障壁】【気流制御塔】【電撃網】
防衛という項目を押すと、天空城に兼ね備えられている防衛装置がいくつか表示された。
「せっかくだからいくつかの機能を使ってみようか。まずは【魔力障壁】を展開」
制御盤を操作し、魔力障壁を発動する。
すると、天空城全体を半透明な障壁が覆った。
その直後、天空城に高速で接近してきていたワイバーンが魔力障壁に衝突した。
「――ッ!?」
轟音と共に巨体が弾き飛ばされる。
ワイバーンは驚愕の声を漏らし、よろめきながらも慌てて距離をとった。
「物理的な強度に問題はないみたいだ」
「あれほどの魔物を弾いてしまうなんて素晴らしいです!」
制御盤で様子を確認してみたが、魔力障壁には傷一つついていない。
それに城内にいる僕たちに衝撃が伝わることもなかった。
外界カメラで覗いていなければ、音すら拾うこともなかっただろう。
「今ので諦めるかな?」
「いえ、まだのようです」
ワイバーンは空中でよろめきながら翼を広げると、ギロリと猛禽の瞳が魔力障壁に覆われた天空城を睨みつけてくる。
どうやら魔力障壁で弾かれたことに大層お怒りの様子らしい。
ワイバーンは大きく首を仰け反らせると、咆哮と共に灼熱を吐き出した。
凄まじい炎の奔流が一直線に空気を駆け抜け、天空城の魔力障壁に衝突した。
眩い炎が障壁を覆い隠す。
しかし、魔力障壁はまったく揺らぐことはなく、炎は何事もなかったかのように霧散した。
「うん、遠距離からの魔法攻撃も通さないね」
ワイバーンは二度、三度と灼熱のブレスを吐き続けるが、天空城が展開している魔力障壁はことごとく霧散させる。正面からが無駄ならば上から下から横からと角度を変えて再度放ってくるが、魔力障壁にはひび一つ入ることはない。
「無駄だよ。天空城の魔力障壁に死角はないから」
天空城は空からの攻撃には晒されやすい分、対空防衛装置にはひと際力を入れている。
ワイバーン程度なら百体以上の群れに襲われても平気だろうな。
魔力障壁の強度を確認していると、不意にワイバーンからの攻撃が止んだことに気付いた。
「あれ? もう終わり?」
「先ほどから十発以上ブレスを放っていましたからね」
制御盤の映像を見ると空中で羽ばたきを乱し、疲弊しているワイバーンがいた。
大きく首を仰け反らしてブレスを吐こうとするが、漏れ火のようなブレスしか出てこずに咳き込んでいた。
「なら次はこっちの番だね」
本当はもう少し魔力障壁のデータを集めたかったけど、相手が疲れて動けないのであればしょうがない。
制御盤を操作すると、天空城の外縁部に備え付けられた巨大な砲台が露出し、空中で疲弊しているワイバーンへと狙いをつけた。
「【魔導砲】発射……ッ!」
その瞬間、魔導砲が唸りを上げた。
凝縮された魔力弾が空を切り裂くように突き進み、ワイバーンに直撃する。
ドンッという爆音と共に上半身が消し飛び、残った下半身が炎に包まれて落下していった。
「ワイバーンを一撃ですか……」
「とんでもない威力だね」
ミナリスが呆然する中、僕は乾いた笑みを漏らす。
これを魔物ではなく、地上に向かって放ったらどうなってしまうことか。
天空城の規格外の性能を目の当たりにして、僕はオルグレンが言っていた世界征服も夢ではないということを痛感するのであった。

