見習いサンタのクリスマス大冒険
――その時計が動くとき、奇跡はまた巡りだす
今年も、クリスマスの夜がやってきました。
少女リサは、ベッドの中でぎゅっと目をつむっていました。
けれど、一睡もできません。
(サンタさん、ブローチ使ってくれるかな……)
彼女はさっき、サンタクロースへの感謝を込めて、手作りの木製ブローチを靴下に入れて届けたばかり。その興奮が、冷たい夜気をはねのけるほどに胸を熱くさせていたのです。
真夜中。
微かな「シュッ」という音が響きました。
リサは跳ね起き、ツリーの陰から窓の外を覗き込みます。
庭には、まばゆい光を放つソリと、今にも飛び立ちそうなトナカイたちが待機していました。先頭のルドルフの鼻は、いつもより赤く、力強くまたたいています。
屋根の上から、静かにサンタが姿を現しました。
彼はソリに乗る直前、ふと立ち止まりました。胸元には、リサが贈ったばかりのブローチがきらりと光っています。
「あとは頼んだぞ、相棒たち……」
サンタは力なくトナカイたちに語りかけると、深く、深く目を閉じました。
次の瞬間――。
リサは息を呑みました。
赤いジャケットを翻したサンタの体が、まるで雪の粉のようにキラキラとした粒子となり、夜空へと溶け込むように消えてしまったのです。
残されたのは、誰も乗せていない重たいソリ。
主を失ったトナカイたちは、不安そうに鼻を鳴らし、庭に降り立ちました。
「サンタさん……?」
リサは急いでコートを羽織り、裸足にブーツを突っかけて庭へと駆け出しました。
雪の冷たさが足首を刺しますが、構っていられません。
ソリの座席には、サンタが落としたらしい**「古びた真鍮製の懐中時計」**が一つ、取り残されていました。
$TICK-TACK, TICK-TACK$
凍てつく空気の中で、その音だけがやけに大きく響きます。
傍らには、子供たちの名前が記された分厚いリスト。
最後のページは、家の近くにある「忘れられた丘」の印で止まっていました。
「サンタさんは、みんなの夢を運びすぎて……疲れちゃったんだ」
リサは確信しました。このままでは、最後のプレゼントが届かない。
ルドルフがリサに顔を近づけ、静かに彼女を見つめました。その瞳は「導いて」と訴えかけているようです。
リサはサンタの大きな赤い帽子をかぶり、ソリの座席に飛び乗りました。
まだサンタの体温が残る懐中時計を、胸元にぎゅっと抱きしめます。
「みんな、お願い! 私はサンタさんの代わりにはなれないけれど……でも、サンタさんを助けたいの! このままじゃ、悲しい朝になっちゃう!」
リサの瞳に、ルドルフの鼻と同じくらい強い、純粋な決意の光が宿りました。
その輝きを見た瞬間、トナカイたちは緊張を解きました。
小さな体に宿る「サンタと同じ大きさの優しさ」を、魔法が認めたのです。
「ルドルフ、飛んで!」
一筋の光がソリを包み込み、七色のオーロラを纏って夜空へ舞い上がりました。
眼下に広がる街の灯りは、まるで宝石を散りばめた絨毯。
リサはプレゼントの山の中から、自分にぴったりの「見習いサンタ」の衣装を見つけ、着替えました。
「待っていて、サンタさん!」
ソリが降り立った「忘れられた丘」の洞窟は、クリスタルでできていました。
本来なら虹色に輝くはずの場所ですが、今はサンタの魔法が尽き、曇った灰色に沈んでいます。
奥には、帽子も手袋も失くしたサンタが、小さくなって座り込んでいました。
「……リサか? まさか、君がここまで」
サンタの顔には、疲労と、申し訳なさが滲んでいました。
「ごめんよ。どうにも魔法の力が尽きてしまったようだ。信じる心の重みに、耐えきれなくなってしまった……」
リサは黙ってサンタのそばに座り、そっとその大きな手に、自分の小さな手を重ねました。
(サンタさん、いつもありがとう。今度は、私がパワーをあげる番だよ)
リサが心の中で願った瞬間、胸元のブローチから温かい金色の光が溢れ出しました。
曇っていたクリスタルが瞬時に輝きを取り戻し、洞窟の中を虹色が駆け巡ります。
リサが懐中時計を返すと、時計は力強く時を刻み始めました。
サンタの瞳に、再び魔法の灯がともります。
「ありがとう、リサ。君こそが、今夜の最高の魔法だ」
二人は最後の配達先、少年タケシの家へ向かいました。
タケシは最近「サンタなんていない」と魔法を疑い始めていた子です。
サンタが置いたプレゼントは、タケシの拒絶の心のせいで、輝きを失いかけていました。
「彼の心が、魔法を閉ざしてしまっている……」サンタが悲しそうに呟きます。
リサは決意しました。
「私が行くわ」
リサはそっとタケシの枕元に忍び寄りました。
そして、自分の宝物――サンタへの感謝の印である「木製のブローチ」を、そっとタケシの手に握らせたのです。
(タケシくん、プレゼントはね、誰かに優しくなれる勇気なんだよ。だから、信じて)
リサの体から、柔らかなピンク色の光が溢れました。
それはサンタの魔法よりもずっと原始的で、温かい「信じる心」そのもの。
光が染み込んだ瞬間、眠っているタケシの口元が、ふっと緩みました。
彼がブローチを握り返したとき、部屋中のプレゼントが爆発するようにまばゆい光を放ちました。
魔法は、繋がったのです。
夜明け直前、リサの庭。
サンタはリサの前に膝をつき、その小さな手を取りました。
「リサ。君は、世界で最も勇敢な『見習いサンタ』だった」
サンタはあの懐中時計をリサに手渡しました。
文字盤には、小さなトナカイのシルエット。
「これは、勇気ある者の印だ。いつかまた、君の優しさが必要な時に、この時計が君を導くだろう」
サンタはリサを抱き上げ、そっとベッドに運びました。
頬に優しいキスを残し、ソリは夜空へと消えていきました。虹色の花火のような余韻を残して。
クリスマスの朝。
ツリーの下には古い本と、あの真鍮の懐中時計。
そして枕元には、小さなサンタの帽子が大切に置かれていました。
リサはその帽子を抱きしめ、窓の外の青空を見上げました。
彼女の心には、一生消えることのない、温かい勇気の魔法が宿っていました。
(メリークリスマス、サンタさん)
カチコチと、時計が未来を刻む音が聞こえました。
――その時計が動くとき、奇跡はまた巡りだす
今年も、クリスマスの夜がやってきました。
少女リサは、ベッドの中でぎゅっと目をつむっていました。
けれど、一睡もできません。
(サンタさん、ブローチ使ってくれるかな……)
彼女はさっき、サンタクロースへの感謝を込めて、手作りの木製ブローチを靴下に入れて届けたばかり。その興奮が、冷たい夜気をはねのけるほどに胸を熱くさせていたのです。
真夜中。
微かな「シュッ」という音が響きました。
リサは跳ね起き、ツリーの陰から窓の外を覗き込みます。
庭には、まばゆい光を放つソリと、今にも飛び立ちそうなトナカイたちが待機していました。先頭のルドルフの鼻は、いつもより赤く、力強くまたたいています。
屋根の上から、静かにサンタが姿を現しました。
彼はソリに乗る直前、ふと立ち止まりました。胸元には、リサが贈ったばかりのブローチがきらりと光っています。
「あとは頼んだぞ、相棒たち……」
サンタは力なくトナカイたちに語りかけると、深く、深く目を閉じました。
次の瞬間――。
リサは息を呑みました。
赤いジャケットを翻したサンタの体が、まるで雪の粉のようにキラキラとした粒子となり、夜空へと溶け込むように消えてしまったのです。
残されたのは、誰も乗せていない重たいソリ。
主を失ったトナカイたちは、不安そうに鼻を鳴らし、庭に降り立ちました。
「サンタさん……?」
リサは急いでコートを羽織り、裸足にブーツを突っかけて庭へと駆け出しました。
雪の冷たさが足首を刺しますが、構っていられません。
ソリの座席には、サンタが落としたらしい**「古びた真鍮製の懐中時計」**が一つ、取り残されていました。
$TICK-TACK, TICK-TACK$
凍てつく空気の中で、その音だけがやけに大きく響きます。
傍らには、子供たちの名前が記された分厚いリスト。
最後のページは、家の近くにある「忘れられた丘」の印で止まっていました。
「サンタさんは、みんなの夢を運びすぎて……疲れちゃったんだ」
リサは確信しました。このままでは、最後のプレゼントが届かない。
ルドルフがリサに顔を近づけ、静かに彼女を見つめました。その瞳は「導いて」と訴えかけているようです。
リサはサンタの大きな赤い帽子をかぶり、ソリの座席に飛び乗りました。
まだサンタの体温が残る懐中時計を、胸元にぎゅっと抱きしめます。
「みんな、お願い! 私はサンタさんの代わりにはなれないけれど……でも、サンタさんを助けたいの! このままじゃ、悲しい朝になっちゃう!」
リサの瞳に、ルドルフの鼻と同じくらい強い、純粋な決意の光が宿りました。
その輝きを見た瞬間、トナカイたちは緊張を解きました。
小さな体に宿る「サンタと同じ大きさの優しさ」を、魔法が認めたのです。
「ルドルフ、飛んで!」
一筋の光がソリを包み込み、七色のオーロラを纏って夜空へ舞い上がりました。
眼下に広がる街の灯りは、まるで宝石を散りばめた絨毯。
リサはプレゼントの山の中から、自分にぴったりの「見習いサンタ」の衣装を見つけ、着替えました。
「待っていて、サンタさん!」
ソリが降り立った「忘れられた丘」の洞窟は、クリスタルでできていました。
本来なら虹色に輝くはずの場所ですが、今はサンタの魔法が尽き、曇った灰色に沈んでいます。
奥には、帽子も手袋も失くしたサンタが、小さくなって座り込んでいました。
「……リサか? まさか、君がここまで」
サンタの顔には、疲労と、申し訳なさが滲んでいました。
「ごめんよ。どうにも魔法の力が尽きてしまったようだ。信じる心の重みに、耐えきれなくなってしまった……」
リサは黙ってサンタのそばに座り、そっとその大きな手に、自分の小さな手を重ねました。
(サンタさん、いつもありがとう。今度は、私がパワーをあげる番だよ)
リサが心の中で願った瞬間、胸元のブローチから温かい金色の光が溢れ出しました。
曇っていたクリスタルが瞬時に輝きを取り戻し、洞窟の中を虹色が駆け巡ります。
リサが懐中時計を返すと、時計は力強く時を刻み始めました。
サンタの瞳に、再び魔法の灯がともります。
「ありがとう、リサ。君こそが、今夜の最高の魔法だ」
二人は最後の配達先、少年タケシの家へ向かいました。
タケシは最近「サンタなんていない」と魔法を疑い始めていた子です。
サンタが置いたプレゼントは、タケシの拒絶の心のせいで、輝きを失いかけていました。
「彼の心が、魔法を閉ざしてしまっている……」サンタが悲しそうに呟きます。
リサは決意しました。
「私が行くわ」
リサはそっとタケシの枕元に忍び寄りました。
そして、自分の宝物――サンタへの感謝の印である「木製のブローチ」を、そっとタケシの手に握らせたのです。
(タケシくん、プレゼントはね、誰かに優しくなれる勇気なんだよ。だから、信じて)
リサの体から、柔らかなピンク色の光が溢れました。
それはサンタの魔法よりもずっと原始的で、温かい「信じる心」そのもの。
光が染み込んだ瞬間、眠っているタケシの口元が、ふっと緩みました。
彼がブローチを握り返したとき、部屋中のプレゼントが爆発するようにまばゆい光を放ちました。
魔法は、繋がったのです。
夜明け直前、リサの庭。
サンタはリサの前に膝をつき、その小さな手を取りました。
「リサ。君は、世界で最も勇敢な『見習いサンタ』だった」
サンタはあの懐中時計をリサに手渡しました。
文字盤には、小さなトナカイのシルエット。
「これは、勇気ある者の印だ。いつかまた、君の優しさが必要な時に、この時計が君を導くだろう」
サンタはリサを抱き上げ、そっとベッドに運びました。
頬に優しいキスを残し、ソリは夜空へと消えていきました。虹色の花火のような余韻を残して。
クリスマスの朝。
ツリーの下には古い本と、あの真鍮の懐中時計。
そして枕元には、小さなサンタの帽子が大切に置かれていました。
リサはその帽子を抱きしめ、窓の外の青空を見上げました。
彼女の心には、一生消えることのない、温かい勇気の魔法が宿っていました。
(メリークリスマス、サンタさん)
カチコチと、時計が未来を刻む音が聞こえました。



