あなたへ


「今日は魔物の退治ですね。一時間ほどで終わると思います。」

「あらぁ、速いのね。いつもありがとう。」

「いえ、こちらこそ。いつもご贔屓にしていただいてありがとうございます。」

この方は、マリーさん。

いつも私に依頼してくれる、素敵なおばさまだ。

…今日は、蛙の姿をしているけれど。

マリーさんは古くからの貴族の家系で、とても大きな土地を持っている。

今日、魔物の退治をする森もマリーさんの持っている土地の一つだ。

事前調査ではそこまで強い魔物はいなかったし、そこまで危険はないだろう。

空飛ぶ箒に跨って、地を蹴る。

飛べ(アルマ)!」

やや乱暴な浮遊感が体を包む。

火球(ファイヤーボール)を護衛も兼ねて周りに浮かべながら、森を巡回する。

「…居た。」

小鬼が変化した、ゴブリンだ。

この世界の住民は、月が出す魔力によって姿を変える。

私は特別で、体内で魔力を生成できる“魔導士”と呼ばれる存在だ。

一般的には、紅い月が出ていると、魔物の攻撃力が上がる。

だから、小鬼がゴブリンになる。

蒼い月が出ていると、動物の跳力が増す。

つまり、道が蛙だらけになる。

マリーさんは魔力の扱いに長けているから、そんなことにはならないけど、まだ月からの魔力を持て余している子供とかは制御不能になる。

だから、空飛ぶ箒はできるだけ使いたくないけれど、蒼い月の日は渋々使っている。

蒼い月が出ていると、ただのゴブリンも厄介になる。

魔力の塊である魔力晶に戻すだけなのだけれど、ぴょんぴょこ跳ね回るから対処に困る。

戻れ(アポードシ)!」

今日何回目かの戻れ(アポードシ)をすると、森は途端に静かになった。

「…これで終わり、か。」

踵を返してマリーさんの元へ向かおうと空飛ぶ箒に跨ると、突然、何かの咆哮が聞こえた。

「っ何!?」

火嵐(ファイヤーストーム)を創って、体内でも迎撃の準備をする。

木々の間から現れたのは______キングオーク。

「…最悪!!」

よりによって上位の魔物が、紅い月の日に出るなんて!!

「ほんっとついてないわね。」

火嵐(ファイヤーストーム)を当てても、特に効いていなさそう。

(ノクス)(アリシダ)!」

周りに目隠しと拘束をして、隠し球の準備をする。

水嵐(ウォーターストーム)(ライトニング)(スパシ)!」

水魔法と雷魔法は相性がいい。

そこで撹乱したところで、創造した(スパシ)を使う。

この合わせ技のただ一つのデメリットは、私も感電すること。

さっさと片をつけないと、私の身も危ない。

キングオークの心臓目掛けて空飛ぶ箒で突進する。

(スパシ)が届くほんの一瞬前、オークが大きな腕で私の体を薙ぎ払った。

感電していたのもあり、上手く避けられなかった私は、木に身体を強かに打ちつけた。

痛みを堪えて体勢を立て直そうとした時、追撃の腕が飛んできた。

(スパシ)を構えるのも間に合わず、大怪我を覚悟したその時______女神が、現れた。