「吉永唯人をよろしくお願いします」
6月上旬。
生徒会選挙が1カ月後に迫り、候補者たちはアピール活動を始めていた。
俺も登校時間に合わせて呼びかけをしている。
けれど 集まってくるのは隣にいる彼を目当てにした生徒ばかりだ。
「宇佐美くん、応援してるね!」
「ありがとうございます」
「絶対に宇佐美くんに票入れるから、校則もっと緩くしてよ~」
「え~どうしよっかなあ。でも善処しますよ」
彼は相手によって巧みに態度を使い分ける。
それが多くの人を惹きつけていることは分かっていた。
先輩や後輩、男女関係なく周りに人が集まるのは彼の人当たりの良さとカリスマ性ゆえだ。
でもそんな計算高さが、俺は苦手だった。
現に今も自分への投票の呼びかけをすればいいのに わざわざ俺の後ろについて補佐を行っている。
宇佐美は今は大人しくしているが きっと、自分が天下を取ったら好き勝手するつもりだろう。
そんなことさせない。
どうにかして立場を守らないと……。


