その一言で、俺の胸の奥に何かが弾けた。
――ずっと、こらえてたんだ。
名前を呼ぶ距離を遠ざけ、距離を取ることで気持ちを抑えていた。
でも、それは悠人に届かず、悠人は悠人で寂しさを抱えていた?
なんだよそれ。
俺が、俺だけが悪いみたいに。
「っ……お前が離れてったんだろ、ばーか!!」
つい、子供みたいな言い方が出てしまった。
息が荒い。手が震える。
でも‥…止まらない。
「お前が、俺から離れて、お前の世界から俺を切り離して。変わることを選んだんだ。だから俺は、俺も、ちゃんとお前から離れて、変わって、世界を変えなきゃって……!! なのに、お前が寂しいとか言ってんじゃねぇばぁぁあああか!!」
我ながらマジ子どもだわ。
語彙力ないし。
だけど、これが、子どもっぽい俺の素直な気持ちだったと思う。
悠人はそんな一気にまくし立てる俺に一瞬目を丸くしてから、ふっと笑った。
怒ってはいない。穏やかな笑顔。
なんか、少しだけ嬉しそうだ。意味が分からん。
「……そっか」
悠人は写真に目を向けて、静かに、そう口にして続けた。
「どんなに環境が変わっても、俺たちは変わらないよ」
「変わらない?」
震える声で尋ねると、悠人は優しいいつもの笑顔で俺を見た。
「変わるわけないじゃん。こんだけ俺の世界にはいつもお前がいたんだよ? 大学は言って、それで、これから就職と化してさ、もっともっと世界が広がったとしても、その世界には必ずお前がいる。俺はずっとそう思ってるよ」
「悠人……」
大学に入って悠人の周りに広がった世界。
それに勝手に寂しくなって、拗ねて、距離御置こうとした自分。
それでも悠人は変わらず、自分を幼なじみとして大切に思ってくれている。
……いや、俺……カッコ悪いじゃん。
「……ばかじゃん」
小さく呟いたのは、感情の全部を言葉にできない俺の、精一杯だった。
悠人はそんな俺のことを何もかもわかっているかのようにただ微笑んで、とんとん、と肩を軽く叩いた。
その仕草は、昔と同じ。
昔から、俺を慰める時はいっつもこうなんだ。
「ごめんね、寂しくさせて。俺ももっと隼人にちゃんと言えばよかった。幼馴染だからって何でも言わずにわかるわけじゃないのにさ。それは俺のせい。ほんとごめん。だから、さ、戻ってきて。悠人」
心が、少しずつほぐれていく。
凝り固まって、どうにもならなくなって、冷たく冷えていたのに。
誰もいない教室で、時間だけがゆっくり流れる。
なんか、すごい気恥ずかしい。
「……やっぱりお前、変わんねぇな」
「ふはっ。隼人も、変わらないよ」
なんかむかつく。
だけど……それが心地いい。
この距離が。
だからもう、カッコ悪い俺でいいや。
そう思った。



