名前を呼ぶ距離


 学園祭の告知が貼り出されたのは、夏休み前のことだった。

 【マイアルバム企画―写真で振り返る、あなたのこれまで―】

 廊下の掲示板を通り過ぎる時、最初は気にも留めなかった。
 どうせ、子どもの頃の写真を並べて懐かしむだけの企画だ。

 俺には関係ない。
 そう思った、はずだった。

「隼人、これ出さない?」
 昼休み、一緒に昼食をとっていた友人がパンフレットを差し出してくる。

「あーあれだろ? アルバムで振り返る懐かし企画みたいな。俺パス」
「えーっ。面白そうじゃん。黒歴史でもいいらしいし。なー、やろーよー」

 黒歴史ひけらかすとか無理だろ。普通に。
 誰が好き好んで自分のあれやこれやを発信するよ。
 そんな癖、俺はない。

 でも、脳裏に浮かんだのは、実家の押し入れにあるアルバムだった。
 ページをめくるたびに現れる、同じ顔。

 「……考えとく」

 そう答えてしまった自分に、少し驚いた。



「──これこれ、はい、あったわよー」
 家に帰って母に事情を説明すると、懐かしそうに笑ってアルバムを引っ張り出してきた。

「いっぱいあるわよ。悠人くんとの写真」
「いや、別に悠人との写真探してるわけじゃないんだけど」

 俺が言ったのは俺の写真であって悠人との写真ではない。

「ていっても、あんた写真撮る時悠人君と一緒じゃなかったことあった?」
「……多分、ほとんど一緒だと思う」

 思い返せば確かにそうだ。
 写真撮るってなったら絶対あいつがいた。
 こういうところなんだろうな、ツインズとか言われるの。

 アルバムを開くと、その中身は予想通りだった。

 入園式。
 遠足。
 誕生日会。
 プール。

 どのページにも、悠人がいる。
 隣だったり、後ろだったり、肩を組んでいたり。

 まるで、俺の人生に最初から組み込まれていたみたいに。
 
 なんだこいつは。
 え、双子とかじゃないよな?
 血、繋がってないよな?
 それくらい、アルバムの中の俺達は一緒にいた。

 一枚ずつ見ていくうちに、「この頃はこうだったな」と思い出がよみがえってくる。

 名前を呼ぶのが、楽しかった。
 呼ばれるのが、嬉しかった。
 名前を呼ぶのが、呼ばれるのが当たり前だった。
 距離を測る必要なんて、なかった。

「なんだよ、それ……」
 写真を数枚選ぶつもりが、手が止まったまま動かなくなった。

 ――切り取れない。

 どこまでが「俺」で、どこからが「俺たち」なのか、全く分からん。
 それくらい、こいつは俺の中にいる。
 俺の人生に入り込んでる。

「……まじ、意味わからん」


 ……結局、選んだ写真は四枚だけ。

 ・幼稚園の運動会
 ・小学校の夏祭り
 ・中学の卒業式
 ・高校の修学旅行

 どれも悠人と並んで写っている。

 仕方ないじゃん。
 こいつ、どれにも映ってんだから。