名前を呼ぶ距離


 小学校に上がっても、中学に行っても、俺達は何も変わらなかった。

 クラス替えで離れても休み時間には自然と合流していたし、部活が違っても帰り道は一緒だった。

「お前ら、ほんといつも一緒だな」

 そう言われるたび、いつからか俺は少しだけ居心地が悪くなった。
 特別だと決めつけられるのが、怖かったのかもしれない。

 俺達はそんな友人たちに、いつも同じ返しをした。

「腐れ縁だから」
 その言葉が便利だったんだ。
 深掘りされないし、笑い話で終わる。

 腐れ縁。
 切れないけど、誇るほどでもない。
 依存してるわけじゃない、という顔ができる。

 本当は、切れる想像なんてしたこともなかったくせに。

 高校三年の進路相談の日、担任に聞かれた。

「大学、誰かと一緒に受けるのか?」

「別に……」

 そう答えた直後、悠人と目が合った。
 少し照れたように笑われて、胸の奥が妙にざわついた。

 結局、同じ大学を受けた。
 合格発表の日、電話越しに聞いた悠人の声は、いつもより少し高かった。

「また一緒かよ!!」
 それを聞いて、そんな憎まれ口を叩きながらも、どこかほっとした自分がいた。

 それが当たり前だと思っていた。
 疑う理由が、どこにもなかった。



 大学に入る前の春休み。
 二人で歩いた夜道を、今でも覚えている。

 コンビニの前で立ち止まって、どうでもいい話を延々としていた。
 将来のこと。
 やりたいこと。
 結局、何一つ決まらなかった。

「まあ、なんとかなるだろ」

 悠人はそう言って笑った。
 俺も頷いた。

 そのときの距離は、腕が触れるくらい近かった。
 近すぎて逆に意識しない、俺達にとっては普通の距離。

 その距離が、ずっと続くと思っていた。

 でも今なら分かる。
 当たり前は、意識した瞬間に形を変える。

 あの頃の俺は、悠人の名前を呼ぶことを「選択」だと思っていなかった。
 呼ばない未来なんて、想像もしていなかった。