稲穂と麺太の日常

 麺太が先に家に帰っているのはいつも通り。どうせリビングで小説を書いているんだろうと思っていた稲穂だが、リビングに入ってすぐ、いつも通りソファーの下に座り込む麺太を見て、少し驚いてしまった。
 折り紙を一枚手に持ち、ハサミで一直線に切るのを何度か繰り返していた麺太。稲穂の家に折り紙なんてなかったはずだから、自分で買ってきたのだろうが、何故急に折り紙なのか。

「麺太?」
「あ、稲穂ちゃん。おかえり」

 稲穂が声を掛けると、嬉しそうに笑いながら、麺太はハサミと折り紙をローテーブルの上に置き、代わりに何かを手に取って稲穂に見せてきた。
 稲穂の視界には映らなかったが、麺太の膝の上には、輪っか状に長く繋ぎ合わされた折り紙があったらしい。よく誕生会とかで壁に飾られるあれだ。
 直近で誕生日の人間は身内にいないはずだが、麺太は何でそんなものを作っているのか。

「見てて」

 麺太は満面の笑みで、飾りを自分の首に巻いて、余った部分を稲穂に差し出してきた。

「はい、どうぞ」
「……んだよ、これ」
「監禁プレイ用に作った」
「──ぶっ!」

 これが吹かずにいられるか。稲穂の目がすっと細くなった。

「監禁って、何だよ」
「ネット小説読んでたらさ、ヒロインが好きな人に監禁される展開があって、グッと来たからされたくなった」
「どこに突っ込めばいいんだよ」

 稲穂は頭に微かな痛みを覚え、その箇所を手で押さえていると、麺太は困ったような顔をして、上目遣いに稲穂を見つめる。

「好きな人をそれだけ独占したいっていう、愛がさ、ちょっと羨ましいっていうか」
「……俺の愛は足りてないのか?」
「できればもっと欲しいけど?」

 強欲過ぎね?
 頭を軽く振り、麺太を見つめる。きらきらとした彼の丸い目は、純粋に、監禁されたいようだった。

「……明日から三連休だったな」
「だからちょうどいいなって」

 何もちょうどよくないと思うが、稲穂は思いっきり溜め息を溢して、麺太の首から飾りを外していく。

「あぁ……」

 残念そうな声を上げる麺太。そんな彼を稲穂は無理矢理立たせると、稲穂の自室へと連れていき、辿り着くと麺太を床に座らせて、そこで待ってろと言って、一人別の部屋に向かう。

「稲穂ちゃん?」

 稲穂はすぐに戻ってきた。手にはタオルが一枚ある。稲穂は麺太の傍に行くと、何も言わずに麺太の腕をタオルで縛った。

「……っ!」

 麺太の目はかなり輝いていた!

「タオル、痛くないか?」
「大丈夫っ! やった!」
「……」

 嬉しそうな麺太を見ると、こちらも嬉しくなるものだが……稲穂としては複雑だ。

 普通に監禁って、犯罪だからな?

 その後は麺太が満足するまで──つまりは、三連休最終日まで、監禁生活は続くのだった。