あばぐだ図鑑

 赤い中古車めぐる紛議 “心理的瑕疵”に記者も身震い

 牛久市の中古車販売店「安島モータース」が販売した赤い中古車をめぐり、購入者の男性から「過去に車内で人が亡くなっていた事実を知らされなかった」との指摘が出ている。販売店側は「詳細は把握しておらず、告知義務もない」との立場を取っているが、取材を進めるうちに、この記事を書いている私自身も、まるでホラー映画の登場人物になったかのような感覚を覚え始めている。

 問題の車両を購入したのは、同市在住の会社員・和多響輝さん。今年三月、鮮烈な赤色に「なぜか引き寄せられるように」惹かれ、購入を決めたという。

 納車後まもなく、知人から「変な匂いがする」と指摘されたことで不安になった和多さんは、販売店に問い合わせた。販売者である安島保さんは、その際「以前の所有者が車内で亡くなっていた」と説明したという。

 安島さんによれば、販売店側が把握しているのはその一点のみで、事件性はなく、警察からも「車両としての使用に問題はない」と確認を受けているとのことだ。

 取材を続ける中で、「バックミラーに何かが映る」という噂も耳にした。
 科学的な根拠はない。ただの噂に過ぎない可能性も高い。

 取材メモをまとめながら、私はふと、自分が映画館の暗闇でホラー映画を観ているのではないか、という錯覚に陥った。こうした感覚は、記者になってから決して珍しいものではない。
 オカルト的な題材や、いわゆる曰くつき物件の取材は、月に一度ほどのペースで行っている。誰かに指示されたわけではなく、単純に私自身の興味によるものだ。

 和多さんは「噂が本当かどうかは問題ではない。事実を事前に知っておきたかった」と話し、一部返金や精神的苦痛に対する補償を求める意向を示している。

 赤い車は現在も、和多さん宅の駐車場に静止したまま置かれている。
「夜、ふと視線を感じることがあるんです。気のせいでしょうけど」
 そう語る和多さんは笑顔を見せたが、その目には、どこか疲れが滲んでいた。
 取材を終え、落ち着いた住宅街の夕暮れを歩いていると、背後で何かが動いたような気がして、思わず振り返ってしまった。

 記者として、事実を書くために冷静であろうと努めている。しかし、この赤い車の話題だけは、どうにも背筋に冷たいものが残る。