もう録音は始まっているんですよね。分かりました……お話しします......。
わたしの叔父の話なんですが……。
おそらく二年ほど前のことだと思います。年末年始には、よく叔父の家に遊びに行っていました。叔父の家はとても広く、親戚を集めるのにちょうど良かったそうです。
わたしも毎年お邪魔していました。数年前に行ったときが最後で、それ以降は行っていません。わたしの両親も、あの家には行くなとうるさくて。
理由ですか? 教えてくれませんでした。
ただ、一つだけ思い当たることがあります。そのことと直接関係があるのかは分かりませんが……。
最後に叔父の家に親戚が集まった日の夜のことです。わたしの弟が、
「みんなでホラー映画を見よう」
と提案しました。
わたしは怖いものが苦手ですし、夜眠れなくなるのも嫌だったので断ったんです。でも、暗い和室に無理やり連れていかれました。和室の角には小さなテレビが置かれていて、それだけが部屋の中を照らしていました。
部屋にいたのは、わたしと叔父、弟と親戚の子ども二人、合わせて五人でした。
再生されたのは、当時流行っていたホラー映画です。タイトルは……何だったかな。たしか、変な名前の化け物を、姉妹が何とかする映画でした。覚えているのはそのくらいです。
とにかく和室にいるのが落ち着かなくて、あまり記憶に残っていません。すみません。
どうしてかというと……和室が、あの部屋が嫌いだったんです。
初めてあの家に行ったときのことでした。当時、十歳くらいだったと思います。
和室の縁側の前にある駐車場に、叔父が購入した車が停まっていました。和室に呼ばれて行ってみると、真っ赤な車が見えたんです。とても綺麗な赤色でした。赤というより、紅色、朱色と言ったほうがいいのかもしれません。
叔父は鼻を鳴らし、わたしに笑いかけました。
「この車は“訳アリ”なんだぞ」
当時のわたしには意味が分かりませんでした。でも、とにかく不気味でした。ただの車ではないような感じがして、乗りたいとは思えなかったんです。
こっそり両親に「訳アリ」の意味を訊いても答えてくれず、「いい車だから」と濁されました。
その日の夜、尿意で目を覚ましました。時計は午前二時くらいを示していました。一人でトイレに行くのが怖くて、母の身体を揺らして起こそうとしたんですが、まったく起きませんでした。普段なら、すぐに目を覚ましてくれるのに。
無理に起こすのも申し訳ないと、子どもながらに思い、仕方なく一人で行くことにしました。
トイレへ行くには、和室の前を通らなければなりません。何だか気味が悪くて、速足で通り過ぎようとしました。
なるべく、和室の中を見ないように。
でも……見えてしまったんです。
和室から見える叔父の車に、誰かが乗っているのが。
もう、思い出すだけでも……。
はぁ、はぁ……ああ……。すみません。少し、落ち着かせてください。
(トイレへ向かう)
すみません、お待たせしました。
その後、廊下で泣き崩れているわたしのところに、叔父と両親が駆けつけてきました。叔父は、
「怖いもんでも見たか」
と冗談めかして笑っていましたが、そんな叔父の様子も、どこかおかしかったんです。
そして二年前、あの和室に再び入ったときも、同じ違和感を覚えました。縁側の前に車はなかったので安心しましたが、映画を見ている叔父の顔が歪んでいたんです。笑っているような、悲しんでいるような、何とも言えない表情でした。
思わず、ひゃっと声を上げてしまい、弟に「うるさい」と怒られました。
「こんなバケモンにビビってんのか」
みんな、わたしをからかって笑いものにしました。それからは、おかしいのは周りなんだと、自分に言い聞かせるようにしました。
ホラーなんて、ただのエンタメの一部です。所詮、人間の作り物に過ぎません。そう思うようにしています。
今はもう、怖くありません。幽霊が見えるという人のほうがおかしいんです。幽霊と話せるだなんて言う霊能者もおかしい。そんなもの、いるわけがないじゃないですか。
お化けなんて、どうせ気持ち悪いんですよ。わたしは存在を否定しています。
あの場にいた叔父は、翌朝亡くなりました。
車の中で発見されたそうです。遺体は、見るに耐えがたい状態でした。どうして亡くなったのか、わたしにはよく分かりません。
あなたは、幽霊が気持ち悪いと思いませんか? 幽霊の立場で考えてみる?
……そんなこと、できるわけないでしょう。したいとも思いません。
もう、いいですか。
ありがとうございました。退出させていただ――
カンカンカンカンーー。
(金槌で釘をうつ音)
......。
(ここで音声が途切れる)
わたしの叔父の話なんですが……。
おそらく二年ほど前のことだと思います。年末年始には、よく叔父の家に遊びに行っていました。叔父の家はとても広く、親戚を集めるのにちょうど良かったそうです。
わたしも毎年お邪魔していました。数年前に行ったときが最後で、それ以降は行っていません。わたしの両親も、あの家には行くなとうるさくて。
理由ですか? 教えてくれませんでした。
ただ、一つだけ思い当たることがあります。そのことと直接関係があるのかは分かりませんが……。
最後に叔父の家に親戚が集まった日の夜のことです。わたしの弟が、
「みんなでホラー映画を見よう」
と提案しました。
わたしは怖いものが苦手ですし、夜眠れなくなるのも嫌だったので断ったんです。でも、暗い和室に無理やり連れていかれました。和室の角には小さなテレビが置かれていて、それだけが部屋の中を照らしていました。
部屋にいたのは、わたしと叔父、弟と親戚の子ども二人、合わせて五人でした。
再生されたのは、当時流行っていたホラー映画です。タイトルは……何だったかな。たしか、変な名前の化け物を、姉妹が何とかする映画でした。覚えているのはそのくらいです。
とにかく和室にいるのが落ち着かなくて、あまり記憶に残っていません。すみません。
どうしてかというと……和室が、あの部屋が嫌いだったんです。
初めてあの家に行ったときのことでした。当時、十歳くらいだったと思います。
和室の縁側の前にある駐車場に、叔父が購入した車が停まっていました。和室に呼ばれて行ってみると、真っ赤な車が見えたんです。とても綺麗な赤色でした。赤というより、紅色、朱色と言ったほうがいいのかもしれません。
叔父は鼻を鳴らし、わたしに笑いかけました。
「この車は“訳アリ”なんだぞ」
当時のわたしには意味が分かりませんでした。でも、とにかく不気味でした。ただの車ではないような感じがして、乗りたいとは思えなかったんです。
こっそり両親に「訳アリ」の意味を訊いても答えてくれず、「いい車だから」と濁されました。
その日の夜、尿意で目を覚ましました。時計は午前二時くらいを示していました。一人でトイレに行くのが怖くて、母の身体を揺らして起こそうとしたんですが、まったく起きませんでした。普段なら、すぐに目を覚ましてくれるのに。
無理に起こすのも申し訳ないと、子どもながらに思い、仕方なく一人で行くことにしました。
トイレへ行くには、和室の前を通らなければなりません。何だか気味が悪くて、速足で通り過ぎようとしました。
なるべく、和室の中を見ないように。
でも……見えてしまったんです。
和室から見える叔父の車に、誰かが乗っているのが。
もう、思い出すだけでも……。
はぁ、はぁ……ああ……。すみません。少し、落ち着かせてください。
(トイレへ向かう)
すみません、お待たせしました。
その後、廊下で泣き崩れているわたしのところに、叔父と両親が駆けつけてきました。叔父は、
「怖いもんでも見たか」
と冗談めかして笑っていましたが、そんな叔父の様子も、どこかおかしかったんです。
そして二年前、あの和室に再び入ったときも、同じ違和感を覚えました。縁側の前に車はなかったので安心しましたが、映画を見ている叔父の顔が歪んでいたんです。笑っているような、悲しんでいるような、何とも言えない表情でした。
思わず、ひゃっと声を上げてしまい、弟に「うるさい」と怒られました。
「こんなバケモンにビビってんのか」
みんな、わたしをからかって笑いものにしました。それからは、おかしいのは周りなんだと、自分に言い聞かせるようにしました。
ホラーなんて、ただのエンタメの一部です。所詮、人間の作り物に過ぎません。そう思うようにしています。
今はもう、怖くありません。幽霊が見えるという人のほうがおかしいんです。幽霊と話せるだなんて言う霊能者もおかしい。そんなもの、いるわけがないじゃないですか。
お化けなんて、どうせ気持ち悪いんですよ。わたしは存在を否定しています。
あの場にいた叔父は、翌朝亡くなりました。
車の中で発見されたそうです。遺体は、見るに耐えがたい状態でした。どうして亡くなったのか、わたしにはよく分かりません。
あなたは、幽霊が気持ち悪いと思いませんか? 幽霊の立場で考えてみる?
……そんなこと、できるわけないでしょう。したいとも思いません。
もう、いいですか。
ありがとうございました。退出させていただ――
カンカンカンカンーー。
(金槌で釘をうつ音)
......。
(ここで音声が途切れる)

