作品情報
タイトル:あいぐるい
作者:JASMINE
作品番号:1943958
ジャンル:ホラー
掲載日時:2023/05/17
いいね数:34
本文
午前二時。私が住むK市でもっとも標高が高く、夜景スポットとして名を馳せるM山の頂上へやってきた。幾度かここを訪れたことがあるが、思い出したくはない。
運転席の扉を開け、車の外へ足を出す。この真冬にスカートを履いてきてしまったせいで、足が冷たくて痛い。このスカートも彼と一緒に遠くまで行って買ったものだ。
「茉菜に似合うのはこれしかない」
彼は大袈裟に言っていたけれど、私は嬉しかった。どんな私でも褒めてくれるところは、出会ったときからそうだ。本音ではなかったかどうかは別にして、彼のその性格に惚れた。
新宿の歌舞伎町で、初めて行ったホストクラブで出会ったのが彼――二之宮ルイだった。その店の中では人気がなく、指名はほとんどなかったらしい。こんなにカッコイイのに、というのが初見の感想だ。純粋に顔がタイプだったし、声も私の脳を溶かすような甘い声だった。すぐに彼に惚れ、店に通うようになった。彼は私の金銭の心配をしてくれたが、私がこれまでに貯めてきたお金のおかげでたくさん彼に貢ぐことができた。私の心配をしてくれる彼の誠実さが私は好きだった。数十万、数百万、数千万と額を重ねるうちに、店のトップに並べるくらいになった。私の力で成り上がらせたという優越感に浸ると同時に、誰にも手出しはさせないという独占欲も湧いてきた。
徐々に他の女の子の接客をするようになり、私は嫉妬に狂い、そのたびに彼に貢いだ。
こんなブスより私のことを見ててよ。
私の方がお金持ちなんだから私に頼ってよ。
私が先に出会ったのにどうして他の女の子も大切にするの?
気づいたらこんなことを口にしていた。彼は私をそっと抱きしめて、耳元でささやいた。
「茉菜が一番なんだ」
「一番じゃなくて私だけにしてほしい」
「二番目から下はいないよ。茉菜のためのランキングだから」
彼はずるかった。その甘い声は何でも許してしまいそうになる。
彼と買い物へ出かけた帰り、彼のもとへ着信があった。「ナナちゃん」と表示された携帯電話を私はじっと眺めていた。彼は申し訳なさそうに電話に出て、楽しそうに会話をしていた。私にこんな笑顔を見せたことがあっただろうか。店へ通う彼の客だろうか。どうしても気になってしまう。でも私に訊き出せるような勇気は持ち合わせていなかった。
「今日楽しかったね」
笑顔で私を見つめている。
「ナナちゃ……茉菜といれて幸せだった」
私の口から「はっ?」と声が出た。怒りと悲しみが混じり合った声だった。彼は目を泳がせて必死に弁解しようとしていた。女の子の名前を間違えてしまうなど、ホストにとってはご法度なはずだ。私がこれまで彼にしてきたことが馬鹿馬鹿しく思える。
ルイと何度もこの山へ来た。だから思い出したくなかったのに。
この場所に彼の匂いが残っていて、彼の声がまだ聞こえる。ーーガサガサガサガサ
背後から草木を掻き分けたような音がした。咄嗟に振り返ったが、そこには誰もいない。私の車以外駐車されておらず、人の気配は一切していなかった。
「ルイくん……?」
――ガサガサガサガサ
向かって左側の草木が不自然に揺れた。まるで誰かがこちらへ向かってきているように。
何度も彼の名前を言い、草木の方へと呼びかける。相変わらず人影は見えない。
「ちょっとお化けとかだったらマジキモイんだけど!」
そう吐き捨て急いで車へ向かい、運転席に乗り込んだ。
はあ、と溜息をついて呼吸を整える。夜景は憎いことに綺麗なままだ。妙な方へ向いているバックミラーを見やすい位置に合わせた。
キャッ!
口を両手で押さえてバックミラーから視線を逸らす。ただの見間違いだろう。彼に対するストレスが知らぬうちに溜まっていただけだ。
帰ったらすぐに寝よう。私はバックミラーを見ないように、車を走らせた。
車は下り坂によってスピードを増した。できるだけ早くあの場所から離れたい。見てしまったものを頭から取っ払ってしまいたい。
もっと。もっと速く。
スピードはどんどん増していく。
エンジン音が鳴り響く。
ハンドルを両手でしっかりと握り、アクセルだけを踏みしめる。
先にカーブが見え、徐々にブレーキを踏み、スピードを落としていく。
しかし、スピードが落ちない。
ブレーキをいくら踏んでもかからない。
私は焦るあまり頭が真っ白になった。
前方から壁が迫ってくる。このままでは死んでしまう。
「……ね……」
後部座席から掠れた男の声が聞こえた。
「し……ね……し……」
車のスピードには反してとてもゆっくりに聞こえた。
――ガシャン!
車がぐしゃぐしゃに潰れた音が聞こえる。
目の前は真っ暗だ。私はそれから二度と目を覚ますことはなかった。
<了>
コメント
★★★★☆(投稿者:うぇんでぃ)
2023/05/18 16:53
車乗るの怖くなりました……
★★★☆☆(投稿者:ひかり)
2023/05/18 22:30
見る時間間違えたわ……
でもオチちょっと弱いかも
★☆☆☆☆(投稿者:たらこ)
2023/05/18 23:46
なんかこれ聞いたことあんだけど、パクリじゃね
※現在、この作品は削除されている。
タイトル:あいぐるい
作者:JASMINE
作品番号:1943958
ジャンル:ホラー
掲載日時:2023/05/17
いいね数:34
本文
午前二時。私が住むK市でもっとも標高が高く、夜景スポットとして名を馳せるM山の頂上へやってきた。幾度かここを訪れたことがあるが、思い出したくはない。
運転席の扉を開け、車の外へ足を出す。この真冬にスカートを履いてきてしまったせいで、足が冷たくて痛い。このスカートも彼と一緒に遠くまで行って買ったものだ。
「茉菜に似合うのはこれしかない」
彼は大袈裟に言っていたけれど、私は嬉しかった。どんな私でも褒めてくれるところは、出会ったときからそうだ。本音ではなかったかどうかは別にして、彼のその性格に惚れた。
新宿の歌舞伎町で、初めて行ったホストクラブで出会ったのが彼――二之宮ルイだった。その店の中では人気がなく、指名はほとんどなかったらしい。こんなにカッコイイのに、というのが初見の感想だ。純粋に顔がタイプだったし、声も私の脳を溶かすような甘い声だった。すぐに彼に惚れ、店に通うようになった。彼は私の金銭の心配をしてくれたが、私がこれまでに貯めてきたお金のおかげでたくさん彼に貢ぐことができた。私の心配をしてくれる彼の誠実さが私は好きだった。数十万、数百万、数千万と額を重ねるうちに、店のトップに並べるくらいになった。私の力で成り上がらせたという優越感に浸ると同時に、誰にも手出しはさせないという独占欲も湧いてきた。
徐々に他の女の子の接客をするようになり、私は嫉妬に狂い、そのたびに彼に貢いだ。
こんなブスより私のことを見ててよ。
私の方がお金持ちなんだから私に頼ってよ。
私が先に出会ったのにどうして他の女の子も大切にするの?
気づいたらこんなことを口にしていた。彼は私をそっと抱きしめて、耳元でささやいた。
「茉菜が一番なんだ」
「一番じゃなくて私だけにしてほしい」
「二番目から下はいないよ。茉菜のためのランキングだから」
彼はずるかった。その甘い声は何でも許してしまいそうになる。
彼と買い物へ出かけた帰り、彼のもとへ着信があった。「ナナちゃん」と表示された携帯電話を私はじっと眺めていた。彼は申し訳なさそうに電話に出て、楽しそうに会話をしていた。私にこんな笑顔を見せたことがあっただろうか。店へ通う彼の客だろうか。どうしても気になってしまう。でも私に訊き出せるような勇気は持ち合わせていなかった。
「今日楽しかったね」
笑顔で私を見つめている。
「ナナちゃ……茉菜といれて幸せだった」
私の口から「はっ?」と声が出た。怒りと悲しみが混じり合った声だった。彼は目を泳がせて必死に弁解しようとしていた。女の子の名前を間違えてしまうなど、ホストにとってはご法度なはずだ。私がこれまで彼にしてきたことが馬鹿馬鹿しく思える。
ルイと何度もこの山へ来た。だから思い出したくなかったのに。
この場所に彼の匂いが残っていて、彼の声がまだ聞こえる。ーーガサガサガサガサ
背後から草木を掻き分けたような音がした。咄嗟に振り返ったが、そこには誰もいない。私の車以外駐車されておらず、人の気配は一切していなかった。
「ルイくん……?」
――ガサガサガサガサ
向かって左側の草木が不自然に揺れた。まるで誰かがこちらへ向かってきているように。
何度も彼の名前を言い、草木の方へと呼びかける。相変わらず人影は見えない。
「ちょっとお化けとかだったらマジキモイんだけど!」
そう吐き捨て急いで車へ向かい、運転席に乗り込んだ。
はあ、と溜息をついて呼吸を整える。夜景は憎いことに綺麗なままだ。妙な方へ向いているバックミラーを見やすい位置に合わせた。
キャッ!
口を両手で押さえてバックミラーから視線を逸らす。ただの見間違いだろう。彼に対するストレスが知らぬうちに溜まっていただけだ。
帰ったらすぐに寝よう。私はバックミラーを見ないように、車を走らせた。
車は下り坂によってスピードを増した。できるだけ早くあの場所から離れたい。見てしまったものを頭から取っ払ってしまいたい。
もっと。もっと速く。
スピードはどんどん増していく。
エンジン音が鳴り響く。
ハンドルを両手でしっかりと握り、アクセルだけを踏みしめる。
先にカーブが見え、徐々にブレーキを踏み、スピードを落としていく。
しかし、スピードが落ちない。
ブレーキをいくら踏んでもかからない。
私は焦るあまり頭が真っ白になった。
前方から壁が迫ってくる。このままでは死んでしまう。
「……ね……」
後部座席から掠れた男の声が聞こえた。
「し……ね……し……」
車のスピードには反してとてもゆっくりに聞こえた。
――ガシャン!
車がぐしゃぐしゃに潰れた音が聞こえる。
目の前は真っ暗だ。私はそれから二度と目を覚ますことはなかった。
<了>
コメント
★★★★☆(投稿者:うぇんでぃ)
2023/05/18 16:53
車乗るの怖くなりました……
★★★☆☆(投稿者:ひかり)
2023/05/18 22:30
見る時間間違えたわ……
でもオチちょっと弱いかも
★☆☆☆☆(投稿者:たらこ)
2023/05/18 23:46
なんかこれ聞いたことあんだけど、パクリじゃね
※現在、この作品は削除されている。

