「……ん?」
雨上がりの日だった。
光平さんからのメッセージは、忘れないように通知をつけていた。
珍しくきたメッセージの内容は「至急」とあった。
詳細はあるのかと、画面を操作しようとしたときだった。
「え、ちょ」
突然、通話画面が開いて、あわあわしているうちにつながってしまった。
慌ててケータイを耳に当て、通話を開始した。
光平さんのほうから、ぜーはーと聞こえてくるあたり、なにか本当に急ぎの用事だろう。
「えっと、光平さ」
「今どこ!」
「え、あの……えっと四号棟と五号棟の間くらいで、ベンチ前の自販機です」
「そこに居ろ、今すぐ行く!」
俺の声にかぶせるように、まくし立てられたかと思うと、ぶつりと切れた通話。
何がなんだったのか。でも、「行く」と言われたからには、そのまま待機しておいたほうがいいだろう。俺は呆然と立ちすくむしかなかった。
幸い、昼休みど真ん中の時間だから、授業がどうというタイミングでもない。
今日の午前中は休講でのんびりしてたことも功を奏したのだろう。
自販機で買った冷たいペットボトルを、ころころと手の中で遊ばせているうちに光平さんが走ってやってきていた。
「伸二! いた!」
「え、あの、大丈夫ですか、ってか、びっくりしたんですけど」
「貸してくれ、ペン!」
「へ?」
急になんだったんですか、と俺が詳細をしっかりと聞く前に、光平さんはぱん、と目的の内容を教えてくれた。
が。ペンとは。
どうしてくれようとぼんやりしている余裕もなさそうで、俺も慌ててペンケースを探す。
「何本かあるだろ、お前のことだから」
「あ、はいあります、ちょっと待ってくださいね」
ペンケースに雑に入れていたのは、消えるのと、油性でサラサラ消えないもの。
どちらかわからないないかもと、光平さんに差し出そうとして、言葉で制された。
「消せないほうでいいから、あと、早くインク乾くやつ」
「じゃあこれ、どうぞ」
さっと差し出したそれを奪い取る用に引っ掴んで、光平さんは去っていく。
「助かった!」
その朗々とした声に、俺の手はぼんやりと、光平さんがいた方向に、差し伸べられたままで。
きょとんとした自分のもとに、光平さんからの連絡は三十分後だった。
テキストメッセージ上でも、珍しい光平さんが見えていた。
「助かった。今日締め切りの課題、表紙書くの忘れてて」
「よかったです。俺でも役に立ったなら」
「なんか、お礼するわ」
「え?」
「まあ、あれか。夏まで待ってくれ」
なんの話かわからないまま、俺は「?」の大きくついた画像を送った。
「何事も、経験だぞ」
そう送られてから、光平さんからのメッセージはない。
また次に会ったときでいいか。
そう思いながら、俺はアプリを落として、画面をブラックアウトさせたのだった。
