ふと、光平さんは、俺に比べて自分勝手ではないだろうかと思った。
そんなこともないはずなのに、どこか自由で、のびのびとしているように見えてしまう。
もちろん、年齢的にも「きちんとした」大人だから、というバイアスもあるだろう。
「お。弟発見」
「いやだから、伸二です。どうしたんですか、光平さん」
羽の生えた年上らしさが、ある意味うらやましくて、とても、めんどくさい。
そういう人に慣れてしまったのは、兄さんから離れて、俺もずいぶん流されやすくなったからだと思う。
にや、と口をゆがめた光平さんは、俺にひょいと何かを投げてきた。落とすわけにもいかないので、わ、と思ううちにそれを受け取った。
少し湿ったそれ。ほどほどの重量感。「なんですか、いきなり」の「な」を発音する前に、光平さんは笑って言ってきた。
「おまえにやる、おまけで一本もらったけど、もう飲む気しねーし」
放り投げられたのは、プラカップのカフェオレ飲料だった。
しっとりと汗ばんだその商品には、でかでかと「限定」の文字が躍っていた。が、甘さ控えめの世間から逆行して、スイーツ柄に、チョコレートの絵。間違いなく、おやつのカロリーを派手に上げていくタイプだ。
暑くなければ売れないだろう、となんとなく俺は思った。
「まあいらなかったら捨ててくれ」
「あの、その飲む気しないっていうのは」
もしかして、賞味期限切れだったのだろうかと表示を見ても、だいぶ先の日付だし、パッケージの汚損もない。よくわからないなと思って首をかしげた俺に光平さんは言った。
「通常の倍は甘い、そういうポップがついてた」
「あー……」
そう言えば、光平さんは無糖のものを選んで飲んでいることが多い気がする。
もっとも、学食のお茶と水だけしか見たことがないというだけではあるが。
「俺、結構これくらいの甘さ、好きですけどね」
そう言いながら、俺は半分ほど飲んでいた、加糖マシマシな乳飲料のパッケージを掲げた。
「……体壊すなよ」
「なんでそう、今から脅してくるんですか」
そんな飲んですぐ体にくるわけないでしょうが。どちらかといえば、兄さんの行動を検証するときに効率的だった、という長年の習慣から、今でも好きなだけであって、大学に入って毎日そういう甘ったるものを摂取し続けているわけでもない。
はあ、と冗談混じりに呟けば、光平さんはきょとんとした顔をしたかと思うと、なんだかやわらかく笑っていた。
「今から習慣づければ何とか間に合うから。ちゃんとしろマジで」
やけに真剣そうなのは、なにかあったのだろうか。
そういうのはよくわからないけれど。
一応、中肉中背、平均値ど真ん中の男ですけど。
「光平さん、小舅ですね」
「……」
「あ、ちょっ、俺の飲みかけっ」
「没収だ」
差し込まれたストローごと奪われた飲料。たぶん、ぬるくなってしまっていて、渡された飲料以上に甘ったるいフレーバーになっていることだろう。
「あ」
そう思っていたのに、光平さんはそのまま、俺の使っていたストローで、ごくりと一口、ドリンクを飲み込んでしまった。
「あっま……」
「言ったじゃないですかぁ……」
「捨てる」
「いやいや! それは!」
そういうやりとりをしているうちに、俺のドリンクは二本分になっていた。
つまり、光平さんが折れたかたちだ。
先に終わらせてしまおうと、俺は一瞬光平さんが口をつけたドリンクをすすっている。
コンビニで買っていたらしきお茶を飲みながら、光平さんは言った。
「本人と同じくらい、口に残る」
「なんか言いました?」
「聞こえてないなら、いい」
そう軽く言う光平さんは、複雑そうな表情で俺を見ていた。
俺は、やっぱりよくわからないなと、甘さに口を浸らせていたのだった。
