さすがに正月くらいは帰るべきか悩んだけれど、結局あんなこともあったので、俺は寮にいることにしていた。
光平さんも帰省はしていたらしい。けれど、詳しい日程はしらない。
「どうせなら初詣に行ったらいい」と言われたことを思い出し、俺は、この前おいしいお餅をたべた神社に向かった。
連休を避け、平日で、と言われたのでその通りにした。なんとなく、裏道にも人通りが多い。
晴れ着や色とりどりのお守りやお札を返しにきている人たちもいて、自然と気持ちは高揚していた。
「うわ……」
しかし、初詣というやつを舐めていた。
三が日は過ぎたというのに、大学の近くにあった神社は人でごった返していたのだ。
この前やって来たときよりはゆったりと歩いた参道も、今日は出店もあって狭くなっている。
なるべく人にぶつからないように、肩を縮めて流れに乗った。
自分の腰丈にも届かないような晴れ着の子どもたちを見て、ほっこりしているうちに、手水舎に辿り着く。
紅白に区切られた鮮やかな花手水で手を清め、音の広がる境内へ向かった。
前回よりも漣のように人の声が聞こえ、ちびっこたちの歓声も泣き声も、なんだかすごく心地良い。
二礼、二拍手、一礼。
湿り気が強すぎたのか、きれいな「パン」という音は出なくて恥ずかしくなったけれど、それを指摘してくるような人は、ここには居ない。
俺は「みんなと少しでも平和に過ごせますように」と、よく分からない願いを神様に祈った。
それもこれも、正月明けに光平さんから来たメッセージが、俺を揺らがせたからだ。
「あけましておめでとう」
「あけまして、ですね」
「ああ、今年もよろしく」
「少なくとも、三月まではお願いします」
「その先はいいのか?」
春の花はまだ蕾もない。
これから先、俺は本当に一人になる。
光平さんは、この街を出る。俺は、あと三年。今までの友人らとともに、生活を続ける。
遠くに行く友人への餞別なんて、かっこいいことは言えない。
「そこまでは」
縛れないなと思って、頷くだけのスタンプを返したら、そこから返事は来なかった。一応、既読もついている。
この先も、光平さんと一緒にいたい、という気持ちは、きっと文面からも滲み出てしまっていたと思う。
けれど、もう、そんなことに執着するのも間違っている気がして、俺は、なんとなく目を伏せて、ここに来たのだった。
しばらく祈ったあと、俺は帰りの順路をたどって、また社務所の前を通った。
「……厄除け、はちょっと早いのか」
自分の年齢をも確認して、ふう、と息をつく。
お守りなんて渡したら、また面倒と思われるに違いない。俺も、それほど信心深いわけではない。
でも、せっかくだしと、目の前にあったおみくじを引いてみることにした。
前回は光平さんにスルーされたしと、引いたおみくじ。
「……吉」
やはり、この用紙の上でも、春はまだ遠いらしい。和歌の要約を見て、俺はそう感じた。
勉強はちゃんとしろ、転居は早い。つらつらと書かれている内容を咀嚼してみて、いつもなら読み飛ばしている箇所をじっくりと見てしまった。
――恋愛、は。
普段なら読み飛ばすようなところを、じっと見ていた。
「静かに、待て……か」
口に出したら何か変わるだろうか。光平さんに、なにかを伝えるのを待つほうがいいということか。
神様の言う通りにしたって、結果がわかるわけではない。
せっかくだし、結果を写真にとっておくか、とケータイを取り出した時だった。
「あ、」
光平さんからの、メッセージの通知だった。
内容は「来週戻る」と簡潔なもの。来週って何曜日なんですか、と聞いたところで教えてくれる人ではないと、俺はよくよくわかっている。
「また会えるとき、教えてください」
俺は、そう返した。
常に受け身。それがいいのか悪いのかわからないけれど。
「先の予定が聞けるだけで、俺はうれしい、から」
そう言い聞かせて、おみくじを決まった紐に結んで手を合わせた。
帰り路で、写真をとるのを忘れていたけれど、きっと忘れてしまったほうがいいことなのだろう。
神に祈ったのと同じく、俺を見守ってください、と光平さんに思った気持ちは、きっと嘘じゃなかったから。

