あのやり取りの後も結局、光平さんは推しシュトーレンのありかは教えてくれなかった。
聞き出せなかったことを悔しいなと思って居るうちに、師走も後半にさしかかり、鼻先も指先も、なんなら足指の先まで冷え込んできて。
教室に入れば暖房がガンガンに入っていて、どこをどう防寒すればいいのか悩む季節になってきた。
せっかくだし、今年の十二月にはシュトーレンにしてみようかと思ったけれど、どんな食べ物かもいまいちわかっていない上に、思ったより高い値段設定に怖じ気づいた俺は、結局それを買えずじまいだった。
こんなことなら、素直にサンタクロースの乗っていそうなケーキを見繕うべきだった、と思ったのは後の祭りで、いろんなケーキ屋さんやパン屋さんに寄った分、自分の財布はすっからかんになりつつあった。
「……はあ」
どうしたものかと、今年の授業が終わりにさしかかったある日、光平さんがおもむろに、手のひら大のアイシングクッキーをぽん、と渡してくれた。
学食で、いつも小鉢を置くような素振りでされたものだから、雑に「ありがとうございます」と言ってから、結構動揺した。光平さんがこんなサプライズをしてくるような人には思えなかったから、なおさらだ。
え、とか、あ、とかつぶやいていた俺に、光平さんは一言「詫び」と言った。
何を言っているんだと、がばっと横を向いたら、光平さんは普段と変わらない調子で続けた。
「バイト先の近所の駅ビルで見かけて、一番おまえっぽい顔してたから買った。やる」
ちゃんと、まじまじと手に取ってその描かれているものを見る。
なんとなく、たぬきと猫の中間のような顔をしていた、耳のあるいきもの。
たぶん、猫。ひげもあるし、と裏の商品説明を見たら「犬」と書かれていた。
作家さんか、お菓子屋さんのセンスなのか、もう一度表に返したけれど、俺の脳内にある犬とは一致しないほど、猫よりな犬だった。
なにより、そのお間抜けな表情だ。
「俺、こんな間抜けな顔してます?」
「してるしてる。特に、メシ食ってるとき」
こんな顔だったぞ、と見せられたケータイの画面に写っていたのは、夏場の俺の横顔だた。
「……!」
「な? してるだろ?」
「し、てないですってば!」
やっぱり光平さんは、時々心臓に悪いことをしてくる。
挙動不審になる俺を楽しんでいるのか、最近はいじりも増えてきた気がする。いやじゃないからいいけど、なんというか、こっちばかりドキドキして、振り回されていると思う。
「なんか……そんなに見られてたら、食べられないんですけど」
「腐るぞカビるぞさっさと食え」
「それに」
「うん?」
「次、もらえることもないと思ったら、その……、もったいなくて」
一応、賞味期限は三ヶ月後。その間に食べたらいいとは言われているが、きっと俺は食べずにそのまま取っておきたくなると思う。
一生一度あるかないかの証と思えば、さらに食べるまでのハードルが上がってしまう。
「なら」
じいと見つめられて、近づいてきた瞳。
光平さんの目は、思ったよりも明るく、茶色っぽいんだなと、まじまじ見つめてしまった。が、ふいっと顔を離すと、光平さんは特に何もなかったように続けた。
「毎月、こういうのやるか? まあどうせ、三月……いや、二月までだろうけど」
「い、いいんですか?」
「いらねぇなら、金もかかるしやら」
その先を、言わせたくなかった。
「いります!」
俺はそう高らかに宣言して、光平さんからのおこぼれを受け取ることに決めた。
自分で話を振ってきたくせに、「うるせぇよ」と顔を赤らめる光平さんの、貴重な姿を見られたのは、なんだか得をした気分だった。

