大学を出て、光平さんはさくさくと進んでいく。
特に何も言われていないけれど、マップも開いていないということは近場だろうか。
五分ほど歩いて、あまり通らない裏道のようなところまでずんずん進んでいく光平さんに、俺はしびれを切らして口を開いた。
「ところでどこに」
「○○神社」
確かに近所という広いくくりで考えれば、このあたりにそんな名前の神社があったかもしれない。が、俺は別に、そういうものに興味はない。
実際のところ、神様仏様の前に赴けば、無心で頭を下げるくらいの信心はあるが、その程度の無宗教さだ。
あえて、光平さんがそこの神社に行こうとしている意味があまりわからなかったが、光平さんはそれ以上答えてくれる気がないらしい。
「えっと、なんで神社に」
「たまに行くから」
「はあ……」
これは、答えではないと思うのだが、光平さんはいつもと変わらず淡々と進んでいくので、ついていくしかない。正直、納得はいかないが。
アップダウンも増えてきて、そろそろ目的地か、というところで、光平さんは一瞬、立ち止まった。
「……」
「あの」
「……いや、今日、予定なかったのか」
「いまさらですか……」
目の前に鳥居があるから、きっとここが目的地なのだろう。
俺は、若干落とした肩をそのままに、光平さんに言った。
「光平さんに呼んでもらったんで空いてます」
「なんだそれ」
「そういうもんです」
俺は自分の心持ちを表現することばを避けて「行きましょう」とだけ言った。
頭を下げて、鳥居をくぐり、手水ですすぎ、本殿に参った。
いくら入れるのかわからなかったので、定番の五円を放って、作法に則り頭を下げた。
何を祈るべきか悩んだのと、光平さんがすっと祈りに入ってしまったこともあって、俺はただ「この先も、平穏無事にすごせますように」と浮かべて頭を下げた。
祈りの間、少しだけ、隣の光平さんの姿が頭に残っていた。
それすらも、きっと神様はお見通しなのだろうけれど。
その後、さらっと光平さんは外に向かって歩き出す。
ぺこ、とお辞儀をして、その場は去った。
おみくじを引くとか、この○○をしたら、みたいなアトラクション要素にはまったく触れないらしい。
俺はちょっと残念な気持ちもありつつ、また光平さんの後ろを歩いていった。
ほどなく、出店のような門構えの店前について、光平さんが振り返ってこっちを見ていた。
「え……と?」
「餅。何本いる?」
「え、あの、俺自分で」
「何本?」
ちら、と視界に入った網の上の串を確認する。
たぶん、素のままでもおいしく食べられそうな雰囲気に、俺の腹は今になってぐるぐるとエンジンをかけてきたようだ。
なんなら五本は余裕で食べられる、けど、さすがにちょっと欲張りすぎか。
うーん、と悩んでいる俺にしびれを切らした光平さんは、「おい」と圧をかけてきた。
「さ、三本で!」
「わかった」
そのまま、勝手知ったる雰囲気で店員を呼んだ光平さんは、おそらく支払いをしてこっちに戻ってきた。
「そこ、日陰で涼しいからちょうどいい。行くぞ」
「え、あ。はい。光平さん、お金っ」
「あとで」
「あ、えっと」
「ほら、ここ」
「……はい」
最近、こうやって押し切られることも増えてきたなと思う。
でもなんだか、それがいやだとも思えない自分がいて。
そよそよと流れていく心地良い風。
しばらくすると、店員さんが温かいお茶と、焼いていた餅を持ってくれた。
つやつやのたれに、湯気が感じられるお餅。
が、二皿やってきた。当然、俺と光平さんの二人分だったらしく、そのまま渡されて「ごゆっくり」と店員さんは去っていった。
「これ……えっと、俺、三本って」
「なに? おかしいか」
「ああ、いえ……」
「……ここ、その皿が一人前だ」
「え」
いつも見ているような団子のようで、まったく違う。
細い串に、小さく先のほうに付けられている餅。
「だ、だまされた……」
「……ちゃんと看板見てると思ってたから、面白かった」
「ちょっと」
「足りなかったらまた焼いてもらう。昼メシと思って食え」
テンパっていたので、光平さんの思惑通りに勘違いをしていたことがわかって、恥ずかしい。
幸い、店員さんには俺の失態は聞こえていなかったと思いたい。
もしかしたら、光平さんが外している間に気付くかも、といって放っておかれたのかもしれない。
そう考えると悔しいものは悔しいが。
「う……」
目の前で鼻腔をくすぐる甘じょっぱい香りに、俺は、負けた。
「ありがとうございます……」
「素直がなによりだ」
「どの口が……」
しれっと悪びれもしない光平さんを見て、頭に浮かんだ文句の八割くらいを飲み込んで、食事に移ることにしたのだった。

