ブラコン新入生は、兄の友人から恋を学ぶ



「お、わったー……」

 メール画面の「送信完了」の文字に、俺は大きく息をついた。
 一年からのレポート課題。学内システムのエラーだとかなんだで、メールで送信するように言われたデータが、ようやく手を離れた。

 光平さんに言われた「三重確認くらいでちょうどいい」の通り、宛先・タイトル・本文と三回データを修正したものだから、締め切り時間のぎりぎりになってしまった。
 もっと早くやるべきなのだとわかっていても、こればかりは誰のせいでも自分のせいで。

「おわりました、と」

 そのまま、光平さんへ連絡を入れた。
 どうせ返ってくるのは明日の昼間だろう。それでいい。こんな時間まで心配しているはずもない。

「あれ?」

 と思っていたのだが、光平さんからレスポンスがきていた。
 たった四文字の「おつかれ」に、どれだけ心が動いているのか、光平さんには知られたくない。いや、バレてるのかも。

「また、教えて、ください……っと」

 これが甘えでなくてなんだというのだ。
 でも。それでも。

「今日は……頑張った。うん」

 そのままスマホとともにベッドに転がった。
 気付いたら朝になっていたけれど。

「あれ?」

 ぽん、と通知が光っていて。
 通知されたのは、ちょうど昨日、自分が送信したものと同じくらいの時間。

「え、ええ!」

 光平さんからのメッセージには「明日、昼から空いてたら付き合え。正門前に十二時半」
 と書かれていた。ばっと見れば、すでに十時。確かに今日は、授業のない土曜日だったけれども!

「それはもう、通話機能使ってよ……!」

 俺は大慌てで「行きます!」と返事をした。そのままシャワーを浴びて、半分濡れたままの髪で、正門まで走った。時刻は十二時。指定された時間よりもだいぶ早かったと気付いたときには、力尽きて、一番近くのベンチで呆けていた。

 ちょうどいい風も吹いていて、なんだか眠くなってきたかも、少し顔を上げて、目を瞑ってしばらくぼうっとしていた。もしかしたら、少し眠ってしまったのかもしれない。
 
「寝坊でもしたか?」
「ひぇ!」

 不意にかけられた声に、目を開け、上半身を起こそうとすると、目の前に、顔。
 ひ、と驚いたが、そこにあったのはお化けでもなんでもなく、見覚えのある光平さんの顔で。

「こ、へ……さん、びっくり、したんですけど」
「おう。俺も頭突きされると思ってちょっと焦った」
「全然焦ってるように見えなかったんですが」
「それなりに、驚いてはいたからな?」

 クツクツ笑う光平さんを押しのけて、俺は体を起こした。

「そんなに遅くまでやってたのか?」
「いや……データはもうとっくに出来てたんですけど、課題の添付とか間違ってたのに気付いて、それでわちゃわちゃしてたらあんな時間で」
「学内アップローダーなら楽なのにな」
「ほんと、それです……はあ」

 提出している間に見つけたその記載を最初からやっていれば、担当教授に無駄に長いメールを送ったり、別のアップローダーを探したりなんてしなくてよかったのに、結果はデータを作ってから三時間後に提出という呆れた結果に終わった。

 苦心して提出した結果のスクショを見せると、光平さんはぽん、と背中を叩いてくれた。

「まあ、おつかれさん」
「ありがとうございます。やっぱり、直接言われたほうがうれしいですね」
「そうか?」
「そういうもんです。ね?」

 光平さんは怪訝そうに首をかしげたきり、それ以上は言ってくれなかった。
 だから、ちょっとは今日の呼び出しを喜んでもいいかなと思ったのだった。