人波に流されるまま、俺は、光平さんの指示するようにふらふら押し流されててはその場の空気を堪能した。
そして、道行く出店は、やはりきらきらしていた。
どんどん暗くなる世界に、強い光と光沢感やぱっきりとしたフォントの文字列。
古くからやっていそうなところも、最近の新商品とおぼしきアイテムも、どれもこれも、新鮮だった。
そうして気になるモノを手に取っているうちに、気づけば俺の腹は、限界に近づいていた。
「だいぶ……食べました」
「あれ、甘いのいける口じゃなかったのかよ」
「それは量に寄りますって……」
とりあえず、と言われた俺は光平さんの許容値を知らずにここまで一緒に居たのだと思い知らされた。
食べたのは、野菜よりも肉の方が多めになっていた卵で巻いた焼きそばと、墨まで届こうかという黒々とした牛串、せっかくだしとフルーツ満載なクレープまで食べていた。
光平さんも、似たり寄ったりな商品を選んでいたので、きっと相当食べたはずなのだが、平気な顔をして「次は何を食べようか」なんて言ったりする。
きっと、ただのチェーン店のほうがよっぽど安上がりで、価格も心も満足できたとは思う。
でも、この非日常を歩いていること自体が楽しかった。
一人で来ていたとしても、それなりに「感動」はしたと思う。
だけど、俺は今、光平さんと二人、わちゃわちゃと流れていく人波のひとつに変化して、歩き続けている。そのことに、意味があるのだと理解している。
俺は、ずっと、自分と光平さん、目の前の景色に集中できていたのだ。
もちろん、見たことのない品目もあれば、地元にあったはずのあれこれがない、なんてこともあって、そのたびに光平さんと擦り合わせした。
しばらくはこのネタで話せそうだ、なんて思えるくらい、色とりどりに目に刺さる出店の店看板は魅力的だった。
なにより、この場でしか見られない、絢爛豪華な装飾と、そのいわれなどは、俺が思っていた以上に歴史があるのだとわかった。いや、ただわかった気になっているだけだろうけど。
とにかく、光平さんも特に何も言わなかったので、俺は自然と、自分の中で整理をつけられるようになっていた。
「こんなのものあるんですねぇ」
「地元にはなかったのか?」
「ま、まあ……」
もちろん、俺自身がそれほど出歩いていなかったのもあるし、地元では兄さんのことばかり考えていて、出店のことをガン無視していたっていうのもあるとは思う。
そこかしこにあったかもしれない欠片。それらを取りこぼしていたことに気付いたのも、やっぱり光平さんのおかげだ。
少しずつ、自分を構成していたものの中に、光平さんの存在がちかちか、点滅を始めている気がする。きらきらしたものが、俺の中に増えていくのだ。
それが、なんなのか。
「……」
わかっているけど、無視をすることにする。
だってこれは、アラートなのだ。これ以上、俺の中で広げてはいけない。関わってはいけない。重たい気持ちを向けてはいけない。
兄さんと作り上げてきたと思っていたものが虚像だった痛みだって消えてはいない。適切な距離感で居続けなければ、と思っている。
ずっとあるということに気付いていたのに、壊せなかった。
いや、残すべきだと思っていた。思い込んでいた。
今も、自分の中にある残骸を見つけては、ため息の地層で分類が困難になっている。
光平さんは、きっと俺の中のどこかにはあるべきなのだろう。
好き、のジャンルに振り分けないことが、先輩への心遣いなのかもしれないと思いたかったのに、もうわからない。
今、俺の心を占めているのは、間違いなく光平さんなのだ。
俺自身よりも大きな存在。そうなってしまった。そうしてしまった。
もっと、広い世界を。
きっと、そういうつもりで兄さんは俺を拒絶した。
そうだと思いたい。そうだと、言って欲しい。
誰に?
光平さんにだ。でも、それは聞いてはいけないこと。
大丈夫。俺は、もう。
「自分だけで、考えないようにするんだ……」
――じゃあ、もっと楽しめよ。
そう笑う、光平さんが脳裏によぎったけれど、必死でかき消そうとした。
どうせ消えないのに、なんでかは分からないけれど。
光平さんの背中に問いかけても、答えは来ない。
正面から聞いたって同じだ。
いつも俺にちょっかいをかけて、ニヤニヤしているこの人は、俺のことなんてただ遊べる後輩だとしか思っていないはずだ。
「光平さんっ、ちょっと、早いです。ここ、混みすぎて」
「……あ、悪い。そこ抜けるまで」
「ま、待ってくださいって」
必死で光平さんの服をつかんで、おいて行かれないようにしている自分。
会ったときには「置いていっていい」なんて言ったけれど、それはもうやめにする。
苦しい。さみしい。
そんな気持ちばかりつのって、消せそうにない。
「もうちょっと、気にしてほしいだけなんだけど、なぁ……」
きっと聞こえていないそれを、口に出して、慌てて口をつぐんだ。
光平さんには聞こえていなかったらしく、ずんずんと、ひたすら道なき道を進んでいく。
俺は、ちゃんとこの人に、向き合いたい。
はじめてそう思ったのだった。

