いくつかあるベンチの中で、一番、光平さんに見えないところに座った。
俺は「着きました。お話終わったら行きます」とだけ返して、アプリを見たくないと画面を伏せる。
その上に突っ伏して、目を瞑った。
なんだか、心の内側が、ちくちくとしているのに、どう対処すればいいのかわからなかった。
日陰の重さが拍車をかけて、なんとなく、うとうととし始めたけれど、一応、光平さんから連絡が来るかもしれないし、と、ぼんやり起き続けてはいた。
少しばかり時間は経っただろうか。時計もケータイに頼り切りな俺は、はあ、とため息をつきながら体を起こす。
ダラダラと起き上がったところで、視界がまだ暗いのは天気のせいか? と顔を上げた。
「伸二?」
光平さんが俺の前に立っていた。
「あ……光平さん」
眉間の深いしわに、少し強い語気。思わず俺はひるんで口をつぐむ。
光平さんのクセのあるため息が、今日はなんだか恐かった。
「なんですぐ声かけなかった」
「あ、や……なんか、その……仲よさそうだったんで……」
邪魔したら悪いかなって、という建前を言えるほど、俺と光平さんの関係は作れていたのかわからなくて、ぐっと息を飲み込んだ。
「別に、そういうやつじゃない」
光平さんはそう言うと、俺の隣に座った。
膝が触れるか触れないかの距離に、俺は、離れるべきか迷って、そのまま、きゅうっと体を小さくすることで、なんとかそれを回避しようとした。
が、光平さんは、「寒い」とか言って肩を掴んで、寄せてきた。
俺は、なんとなく光平さんにされるがままだった。シャツの生地は確かに冷たくて、そのエリアではエアコンがもう効いていたのかも、と思うことにした。
「あいつ、俺をいじりたいだけなんだよ。ノート取らないくせにな」
「そう……ですか」
「……アイツは、一つ下だけど、結構わかりやすいし楽でいいんだ。俺を先輩扱いせずに、みつひらって、呼ぶしな」
それは確かに聞こえていた。
誰のことを呼んでいるかわかりにくかったが、おそらく先ほどまで一緒にいた人のことを話しているのだろう。そして、名前はなんといったか。
首をかしげた俺に、光平さんはぶっきらぼうに説明してくれた。
「みつ、ひら?」
「アイツの姉貴の旦那もコウヘイなんだと。で、姉は旦那をコウヘイくんって言うらしい。要は、姉ともろもろ被るのがヤだから、みつひら」
「……へ、へえ……」
「ちなみに旦那は健康の方のコウヘイらしい」
「そ、うですか。仲いいんですね」
「違うと思うけどな」
結構、楽しそうに笑うんだなとか、目尻に笑いじわまであるんだとか、俺はいろいろ考えてしまっていた。
そのうちなんだか、俺の中に黒いもやもやが溜まってきた気がして、大きく息を吸って、吐いたけれど、なんだか重たい気分のまま。
――やっぱり、ついてない。
「あの」
「ん?」
「ちょっと、忘れ物、思い出しまして」
「そうか」
俺は、次の授業のためにという言い訳を告げて、足早にそこを立ち去ったのだった。
