「あっ……お久し振りです」
智花はお父さんに丁寧に頭を下げる。ちらりと視線を向けると、ちゃんと腰から折り曲げておじぎしている。「こういう所はしっかりしてるんだよなぁ」と思う。智花とお父さんは、たぶん……直接会うのは2年振りくらい。
「智花ちゃん、久し振りだね。いやぁ……大きくなったねぇ……」
お父さんがテーブルの上にアイスコーヒーを置いて、まじまじと智花を見つめていた。
(そんなにか……)
毎日智花と会っている私は、全然分からない。きっと智花のお父さんに私が会っても、同じ事を言われるのかも知れないなと思った。
「今日はありがとうございます。すいません……」
こうやって更に押すようにお父さんに感謝を伝えるのが、智花っぽいなと思う。きっと私にはできない。
「まぁまぁ。座ろうか」
「はい。失礼します」
(何か……凄く仰々しいけど……掴みはオッケーかな……?)
私も智花の横に座った。お父さんはストローをアイスコーヒ―に差し込んで、氷ごとくるくると回している。私と同じだ。……唯一違うのは、ガムシロップを入れたくらい。
「で……どうしたの?」
「実は……」
智花がちらりと私を見た。
(そっか。私が話をした方が良いって事か……)
「実はさ、お願いっていうか……お父さんの力を借りたくて」
「ん……? どういう事だ? 2人揃って。勉強なら分からんぞ? お前たちの方がお父さんよりもできるだろ?」
「いや、勉強じゃ無いよ」
「じゃ、どうしたの」
「実はさ……2人で話をしてたんだけど……塾っていうか……そういうのををやりたいの」
「……」
お父さんは急に黙り込んでしまった。少し驚いたような顔をしていたけど……すぐに真顔に戻った気がした。
「真面目に考えてるんだよ? 適当に言ってるんじゃ無いってば」
「遠藤先生の所に行ったからだろう? きっと」
「……まぁ、そうだけど……」
「あのなぁ……」
私の予想に反して、お父さんは「ふう……」と息をついて窓の外に目をやる。
「きっかけはそうだけど……ちゃんと真面目にやりたいんだって。ね? 智花」
「はい。私も……自分なりに真剣に考えて……ネットでも調べてみたんですけど、どうして良いか分からなくて。で……お父さんから何かヒントを貰えないかなって」
「そうだよ。私たち、ちゃんと調べたんだよ」
「そうです。流石に塾でアルバイトは、高校生じゃできないだろうから……」
「まぁ、そうだな。教えるアルバイトは高校生じゃ無理だろうな。ファーストフードじゃあるまいし」
お父さんの言葉で、少し沈黙が流れる。「きっと反対なんだろうな」とどこかで感じ、私も智花もずっとテーブルに目を落としていた。
「……きっと大変だよ」
「……」
「受験があるからな……中学3年生だったら、英里と同じで高校受験もあるしな」
「うん……」
「会社をやるってのは……そんなに簡単な事じゃ無いよ。責任が伴う」
「……」
「お金だって要るだろ。ちゃんとした大きい会社を作る人は銀行からお金を借りるんだ。それにそういう人は、最初の段階である程度お金を持ってる」
「……えっ? そうなの?」
「あぁ。お金じゃ無くても、土地だったり。担保って言うんだけどね。つまり信用って事だね。銀行が『この人にならお金を貸しても良いかな』って思えるものを持ってるんだよ。……だから銀行はお金を貸してくれるんだ」
「へぇ……」
(難しいな……)
智花の顔も曇っている気がした。
「『はい、辞めます』って途中で投げ出す訳にもいかない仕事だしな」
「そうだね……」
自分の事を思い返してみても……高校受験が終わって、ようやく「終わった!」って感じがしてたから……確かにお父さんの言う通り、夏前に「辞めます」っていうのも無責任だと思った。
「受験をメインにしない……っていうのは、どうでしょうか?」
智花が口を開いた。お父さんに向かって質問を投げかける。
「……受験をメインにしない?」
「そうです。勉強が苦手な子です。その子を達を対象にして……あくまでも『勉強を教えます』っていう感じの塾なら……」
「……」
「この前、遠藤先生の所で、ちょっとでしたけど……勉強を教えてみて、私がした事で感謝されるなんて初めてだったから……やれるのであれば、本気でやってみたいんです」
智花がここまで自分の意見を強く主張するなんて……一緒にいて初めての事だった。私も真剣にやってみたい……と思っているけど、智花も本気なんだなと感じた。
「じゃ、遠藤先生の所でバイトでもするのはどう? そうすれば簡単にやれるんじゃないか?」
「……」
今度はお父さんが智花に質問したけれど……智花は黙り込んでしまった。分かる。私は智花が何を言いたいのか……分かってる。
「お父さん、違うの」
「……ん? 違うって?」
「私は……智花と、2人でやってみたいんだよ」
思わずテーブルに乗り出してしまった……。そうでしょ? 智花も同じ気持ちでしょ……? お父さんには分からない、私たちの気持ち。
「……そうか」
また「ふぅ……」と息を吐き出し、お父さんはしばらく少し上を見上げる。私たちはもう、自分の気持ちは伝えた。ただ、お父さんの言葉を待つ事しかできない――
智花はお父さんに丁寧に頭を下げる。ちらりと視線を向けると、ちゃんと腰から折り曲げておじぎしている。「こういう所はしっかりしてるんだよなぁ」と思う。智花とお父さんは、たぶん……直接会うのは2年振りくらい。
「智花ちゃん、久し振りだね。いやぁ……大きくなったねぇ……」
お父さんがテーブルの上にアイスコーヒーを置いて、まじまじと智花を見つめていた。
(そんなにか……)
毎日智花と会っている私は、全然分からない。きっと智花のお父さんに私が会っても、同じ事を言われるのかも知れないなと思った。
「今日はありがとうございます。すいません……」
こうやって更に押すようにお父さんに感謝を伝えるのが、智花っぽいなと思う。きっと私にはできない。
「まぁまぁ。座ろうか」
「はい。失礼します」
(何か……凄く仰々しいけど……掴みはオッケーかな……?)
私も智花の横に座った。お父さんはストローをアイスコーヒ―に差し込んで、氷ごとくるくると回している。私と同じだ。……唯一違うのは、ガムシロップを入れたくらい。
「で……どうしたの?」
「実は……」
智花がちらりと私を見た。
(そっか。私が話をした方が良いって事か……)
「実はさ、お願いっていうか……お父さんの力を借りたくて」
「ん……? どういう事だ? 2人揃って。勉強なら分からんぞ? お前たちの方がお父さんよりもできるだろ?」
「いや、勉強じゃ無いよ」
「じゃ、どうしたの」
「実はさ……2人で話をしてたんだけど……塾っていうか……そういうのををやりたいの」
「……」
お父さんは急に黙り込んでしまった。少し驚いたような顔をしていたけど……すぐに真顔に戻った気がした。
「真面目に考えてるんだよ? 適当に言ってるんじゃ無いってば」
「遠藤先生の所に行ったからだろう? きっと」
「……まぁ、そうだけど……」
「あのなぁ……」
私の予想に反して、お父さんは「ふう……」と息をついて窓の外に目をやる。
「きっかけはそうだけど……ちゃんと真面目にやりたいんだって。ね? 智花」
「はい。私も……自分なりに真剣に考えて……ネットでも調べてみたんですけど、どうして良いか分からなくて。で……お父さんから何かヒントを貰えないかなって」
「そうだよ。私たち、ちゃんと調べたんだよ」
「そうです。流石に塾でアルバイトは、高校生じゃできないだろうから……」
「まぁ、そうだな。教えるアルバイトは高校生じゃ無理だろうな。ファーストフードじゃあるまいし」
お父さんの言葉で、少し沈黙が流れる。「きっと反対なんだろうな」とどこかで感じ、私も智花もずっとテーブルに目を落としていた。
「……きっと大変だよ」
「……」
「受験があるからな……中学3年生だったら、英里と同じで高校受験もあるしな」
「うん……」
「会社をやるってのは……そんなに簡単な事じゃ無いよ。責任が伴う」
「……」
「お金だって要るだろ。ちゃんとした大きい会社を作る人は銀行からお金を借りるんだ。それにそういう人は、最初の段階である程度お金を持ってる」
「……えっ? そうなの?」
「あぁ。お金じゃ無くても、土地だったり。担保って言うんだけどね。つまり信用って事だね。銀行が『この人にならお金を貸しても良いかな』って思えるものを持ってるんだよ。……だから銀行はお金を貸してくれるんだ」
「へぇ……」
(難しいな……)
智花の顔も曇っている気がした。
「『はい、辞めます』って途中で投げ出す訳にもいかない仕事だしな」
「そうだね……」
自分の事を思い返してみても……高校受験が終わって、ようやく「終わった!」って感じがしてたから……確かにお父さんの言う通り、夏前に「辞めます」っていうのも無責任だと思った。
「受験をメインにしない……っていうのは、どうでしょうか?」
智花が口を開いた。お父さんに向かって質問を投げかける。
「……受験をメインにしない?」
「そうです。勉強が苦手な子です。その子を達を対象にして……あくまでも『勉強を教えます』っていう感じの塾なら……」
「……」
「この前、遠藤先生の所で、ちょっとでしたけど……勉強を教えてみて、私がした事で感謝されるなんて初めてだったから……やれるのであれば、本気でやってみたいんです」
智花がここまで自分の意見を強く主張するなんて……一緒にいて初めての事だった。私も真剣にやってみたい……と思っているけど、智花も本気なんだなと感じた。
「じゃ、遠藤先生の所でバイトでもするのはどう? そうすれば簡単にやれるんじゃないか?」
「……」
今度はお父さんが智花に質問したけれど……智花は黙り込んでしまった。分かる。私は智花が何を言いたいのか……分かってる。
「お父さん、違うの」
「……ん? 違うって?」
「私は……智花と、2人でやってみたいんだよ」
思わずテーブルに乗り出してしまった……。そうでしょ? 智花も同じ気持ちでしょ……? お父さんには分からない、私たちの気持ち。
「……そうか」
また「ふぅ……」と息を吐き出し、お父さんはしばらく少し上を見上げる。私たちはもう、自分の気持ちは伝えた。ただ、お父さんの言葉を待つ事しかできない――



